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3話 回想編

「お嬢様をよろしく頼むよ、ダン。それと数日後に儂も帝国に向かいたいんだが、お前さんにお願いできるか?」

「はっはっは、爺さん両方とも任せろって!爺さんの出発は余裕をもって1週間後と言うのはどうだ?」

「ああ、分かった」


 そんなやり取りを馬車で聴きながら、アレクシアは物思いに耽っていた。彼女がぼーっとしているうちに話が終わった様で、窓の外では爺がニコニコと立っている。


「お嬢ちゃん、再度確認だが行き先はウェルスの街で大丈夫かい?」

「ええ、お願いします」


 そして走り出す馬車。後ろを振り返ると、爺が頭を下げて見送っている。こんな時、妹だったらどんな表情をするのだろうか。一つだけ分かることは、アレクシアの様な仏頂面にはならないだろうということくらいだ。爺の少しだけ薄くなった頭を見つつ、彼女は彼が見えなくなるまで後ろの窓から顔を離すことができなかった。



**


 爺の姿が見えなくなる頃、彼女は背もたれに寄りかかり、今までの事を思い出していた。


 父である公爵とは元々仲が悪かった――正確に言うと、相手がアレクシアに無関心だったのだが、彼女が虐げられる最初のきっかけはミラの言葉だったのかもしれない。


 幼い頃、アレクシアより早く言葉を覚えたミラがこう父親に告げたことがあった。


「ねえ、お父様。ここに綺麗な光の球が見えるよ!」

「光の球?それはどこにあるんだい?」

「え?お父様見えないの?ここだよ!」


 ミラが指をさして先には何もない。つまり公爵には見えない何かだという事だ。彼は他に光の球が見えるかどうかをミラに確認すると、「何個か見えるよ!」と言うではないか。その声には近くにいた執事も驚いた様で、目を丸くしていた。


「おお、ミラ凄いじゃないか!ミラは精霊が見えるんだね?」

「この光は精霊なの?」

「そうだよ!ミラは精霊の愛し子なんだね!」


 喜びの余りミラを抱き上げる公爵。そんな姿を隅から見ていたアレクシアは、「私も見えます」と伝えたのだが……


「嘘をつくな、お前はミラの出がらしのくせに。嘘をついて気を引こうとするんじゃない」


 何度も指をさしてここにいる、と訴えるも、公爵はミラの話しか聞くことがなかった。ミラに確認させて、彼女が見えなければ嘘つきと罵られ。彼女が必死になればなるほど、公爵との距離が離れていった。


 そんな時だ。ミラが公爵に話す内容を聞いていると、いつも精霊の事を光の球と呼んでいること、ミラには見えない光があることに気づく。アレクシアから見ると、精霊たちは人の姿をしていて光を纏っている。ミラは精霊が人の姿をとっていることに気づいていないのではないか、と感じる様になった。

 そして彼女が愛し子だ、と最終的に理解したのは王太子ハリソンと婚約した時だ。


「お前は精霊の愛し子である事を理解しているか?正直に答えよ」


 ハリソンとの婚約が決まり、顔合わせ後。仕事の都合で席を立った公爵を見送り、アレクシアも前国王の前から退出しようとした時だ。不意に前国王からこう声を掛けられたのだ。


「……そうなのではないか、と考えています」


 確信が持てない以上、肯定も否定もできない。だから彼女は自身の考えを述べることに決める。


「そうか、公爵は伝えていないのだな」


 勝手に納得する前国王。まさか、公爵本人が妹のミラを愛し子だと考えているなんて夢にも思わないようだ。前国王も、公爵は愛し子について知っているものとして考えている様で、アレクシアの心中を察することはない。


「だが念のための確認だ。愛し子が精霊を見ると、彼らは人の姿をとっているように見えるらしいが本当か?」

「……はい。精霊は髪が赤かったり青かったりしますが……一様に人に似た様な姿をとっています」

「そうか。赤髪は火、青は水、緑は風、茶は地属性の精霊を示すそうだ。覚えておく様に」


 愛し子と理解してから、彼女は周りの精霊たちをよく見る様になった。そして彼らは甘いモノが好きなこと、魔法を使う手伝いを進んでしてくれる事に気づく。それだけではない。彼女の周りにはいつも四体の精霊がいた。その四体の精霊は他の精霊に比べて少し豪華な服装をしている。彼らが精霊の王だと気づいたのも前国王の知識によるものだ。

 四体の精霊と話すことはできないが、いつも彼らはアレクシアに笑いかけてくれたり、魔法を使う手伝いをしてくれていた。その姿が可愛くて、王城で休憩にもらうお菓子は全て精霊にあげるようになる。前国王もその事に気づいていたのか、いつの日からかお菓子が少し増えていた。


 ちなみに婚約してからの王妃教育はその休憩以外散々なものだった。父親の公爵は彼女を王家と繋がる駒としか見ていないため、家に居るよりは心地が良いだろう、と考えていたアレクシアだがその思いはすぐに破られる。

 まずアレクシアに対する教師の態度だ。公爵が長女を可愛がっていないというのは、当時社交界の噂になっていたらしい。それに便乗したのか分からないが、強く辛く当たる教師が多かった。

 そして彼女は王妃教育だけではなく領地経営も勉強させられ、休む暇もないくらい忙しいものだった。前国王はアレクシアの勉強の進みが遅ければ教師を叱責していたらしく、彼らの鬱憤がアレクシアに向かっていた。酷い時は暴力に走る者もいた。

 

 そもそも何故両方勉強するのか?それはこの婚約には裏話があったからだ。


 アレクシアには伝えられていたが、元々王太子ハリソンとアレクシアの婚約は白紙にする前提の婚約である。ハリソンとアレクシアを婚約させる事で、将来二人に変な虫が付くことがないようにと前国王が取りまとめたものだった。時期が来ればハリソンとアレクシアの婚約は白紙にし、アレクシアは公爵家の跡取りに据えられ、それぞれに適切な婚約者が割り振られる予定だったのだ。

 だが、その事を現国王に引き継ぐ前に前国王が死去してしまったため、そのまま婚約が続いてしまい、今に至る。そして公爵家の跡を継いだ後の婚約者は結局誰だったのか、彼女も知らない。


「まあ、終わった事だから興味もないけど」


 馬車に揺られながら、彼女は目を閉じる。そして心地よい眠りに誘われていった。


 日間ランキング入り、驚きました。読んで頂いている皆様のお陰です。ありがとうございます。

引き続き頑張って更新していきますので、よろしくお願い致します。

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