七話 皆で、チームになるために
天を呼び出して話を聞く世奈。雄大の言い分を半分は分かっている様子の天。分かり合えない部分も、これから埋めていく、そしてチームになる覚悟を持った。
「あ、御影くん。こっちこっち。」宿泊施設のガランとした屋上、御影くんを呼び出して話を始めた。
「御影くんさ、織くんが何を言いたいかは分かった?」「えっと、もっと皆と足並みそろえて、自分だけ先に進みすぎるなって言いたかったんですかね。」大方は分かっているようだ。反省したようにシュンとしている。
「うん。そうだね。御影くんは実力は群を抜いてる。だから皆に自分の知識を教えるのは分かる、それはいいけど、織くんとか、あと様子を見てると明石くんや久瀬くんもちょっとあなたのことが気にくわない様子で。もっとこう、自分の才能を過信し過ぎずに遠慮するというか…」うまく言葉にならないがなんとか伝えてみる。
「でも、僕が皆より進んでいるのは事実です。隠すことなんて、必要なんでしょうか。」やっぱりそこが御影くんにとっての謎みたいだ。織くんたちも、御影くんも、なんだか両極端なんだよなぁ。かといって二手の間にどんな意見があるのか、その意見は正解なのか、なにもかも全く分からない、見えてこない。今いっぺんに全て解決するのは難しそうだ。
「御影くんは、相手の気持ちになってみる、相手の立場になってみる練習もした方がいいですね。アイドルとして以前に、人間として。社会で生き抜くために。何かあったら頼りないかもしれませんが私を頼ってね。さて、織くんに一言謝ってく?」「うん、モヤモヤしてるから、足並み揃えるようにするって言って謝ります。」そう言って二人立ち上がり織くんがいる宿泊部屋に向かった。
屋上から下の階に下りた。階段を下りて角を曲がると織くんがいる部屋。…おや?
「電気点いてないみたいだけど…?寝た?」恐る恐るドアを開けると暗い部屋には誰も居なかった。
「おかしいな、織くんここにいるんですよね?」御影くんも不思議そうに首をかしげる。二人部屋の前で思案していると、パタパタとした足音が近づいてきた。振り向くと寝間着姿の伶奈ちゃんがいた。
「マネージャーさん、助けてください!」
「…えぇ?助けてって、何事?」「どうしたもこうしたもなくて…電気を消して寝たんですけど、ふと目が覚めたら灯が居なくなってて、探したら7人と一緒になんか、枕投げして遊んでたんです。」「枕投げ?」つい間抜けな声が出てしまった。
「この下の階、近づけば声がすると思います。幸い他の宿泊者さんが居ないから怒られたりはしてなさそうですけど…」その言葉の意味を理解した私は二人の手を掴んで無言で歩き出した。
下の階に下りるにつれ、その声が次第に大きくなってくる。花咲くんらしき甲高い声、灯ちゃんの声、そしてさっきまでの様子と打って変わった織くんの声。私はふすまを大音立てて開けた。
「お前らー!!!」「やべっ、来たぞ!!」そう言って皆布団に潜り込んだ。私はその上を容赦なく踏んづけて回った。
「織くーん?ここですねー?」布団をめくると「悪りぃ悪りぃ」の顔をした織くんが居た。
「布団から出なさい。壁に背を向けて立って。」そう言って逆らうことなく立ち上がった織くんに超手加減して腹パンした。
「痛くねーな。」「自分が育成してるアイドルに暴力振るえませんから!いや暴力はどんな場面でもダメですけど。」咳払いをして振り返り全員の布団を剥いだ。
「ごめんねマネージャーさん…」「泣いても許しません花咲くん」「俺は巻き込まれただけで…」「言い訳がお上手ですね蔦屋くん」「枕投げ、楽しいですよ。」「遠山くん開き直らない。」「マネージャーさぁん、僕枕ちょっと破いちゃいました…」「弁償の可能性もありますね。」「俺は雄大のストレス発散に付き合ってあげただけだけど。」「明石くんと織くんの二人だけでやればよかったのでは?」「ヘイマネージャー、見てくれこのぐちゃぐちゃな髪の毛。」「そうですかー引っ張られて痛かったですねー久瀬くん、抜けてないだけいいでしょ。」「ばーん!!一緒に戦ったぞ!!」「灯ちゃん伶奈ちゃんのとこに帰りましょうねー。」とりあえず全員反省させよう。ていうか何があってこんなこと始まったのか聞こう。
「それで、織くんがこの枕投げを主導したんですか?それはなぜ?さっきまで怒っててそれどころじゃなかったでしょ?」
「いや俺、動いたら嫌なことも忘れるタイプだから枕投げしてストレス発散しようと思って、圭人と凰太に声かけて、ついでに隣の部屋の花咲とか遠山とかも呼んで、伶奈はどうせこねーだろうから灯には電話かけて、最終的に皆呼んで始めたんだ。」なるほど、そういうことか。「それで嫌なことは忘れられたんですか?」私の問いかけに落ち着いた顔の織くんが答える。
「俺今全然御影に対して怒ってねーぞ。そりゃしがらみはまだあるかもしれねーけど、今急いで解決することでも、できることでもねーと思うんだ。そして俺も悪かった。御影、嫉妬なんて見苦しい真似してごめんな。」「僕こそっ、ごめん。まだ君の言いたいこと、理解できないところはたくさんあるけど、分かる点から直していくよ。皆で、チームになるために。」二人はいつのまにか握手をしていた。
「お互い、まだまだ埋まらないピースはありますよね。出会ったばかりなんだから。他のメンバーとの隙間も全然ガラ空きなはずです。喧嘩したっていいし立ち止まってもいいから、隙間を埋めていきましょう。後悔しないように、今は自分を大切にして前に進むことです。」私の声にDreaming Makerメンバーは自然と頷いてくれた。
「…やはりあなたは只者ではないですね。」伶奈ちゃんは相変わらず私をなんかすごい人だと思っているようだ。全員部屋に帰して、その日はかなり予定就寝時刻より遅くなりながら眠りについた。明日は全員叩き起こさなくちゃいけないかもね。