六話 お前が出てけ
午後のレッスン、なかなか噛み合わない様子の雄大と天を見かける。真っ向から対立した二人の意見、考え。雄大はついに天に掴みかかった。
午後のレッスンに入り、皆気を取り直し集中して取り組んでいた。灯ちゃんも私が偵察に行くたび急に静かになり、まぁさっきほど迷惑かけてるわけじゃないからいいか、と通り過ぎた。
ぐるぐると2グループの練習風景を巡回偵察し続けメモもだいぶ貯まってきた。あとで10人にしっかりアドバイスしなきゃ。そして何度目か分からないが、伶奈ちゃんたち5人がいた場所の偵察に行くと少し休憩を取っていた。皆で仲良く話をしている様子だ。邪魔しちゃいけないかな、でも聞きたい、と木陰で様子を眺めていた。
「…御影くん、私より年下だったんだ。なんか意外。大人びた雰囲気だったから。あと実力も段違いで…」「ふふ、経験値は裏切らないからね。もともとの才能もあるかもしれないけど。」ああーっ、御影くんまた「才能」だとか天然無自覚な上から目線発言してない?隣にいる織くん…案の定めっちゃ睨みつけて…はっ!
「おい、何見てんだマネージャー。表出ろや。」「ごっ、ごめんなさい盗み見盗み聞きしてて〜っ…」バレてしまったので反省して前に出る。
「マネージャーさん、隠れることはないですよ。そんな大した話じゃないですから。」「あぁん!?大した話じゃないだと!?またこいつが腹立つ上から目線な自慢話しやがって俺たちのプライドズタズタにしてるっつーのにか!?なぁ雪室!」「えっ、えーっと…」雪室くんはまた萎縮しながら目を泳がせる。…これは織くんが怒っても仕方ない。御影くんにあとでお説教かな。そんな中伶奈ちゃんが口を開く。
「織くんは織くんで、怒りすぎじゃない?あなたたちの詳しい関係は知らないけど、明らかに嫉妬しているように見えるわ。嫉妬は醜いものよ。嫉妬している時間があれば自分自身を見つめて切磋琢磨すべきじゃ…」と言いかけたところで織くんが伶奈ちゃんの小さな肩を強引に鷲掴みにした。
「ちょっと織くん!?離してあげ…」「お前も結局こいつの味方かよ!努力はしてるさ、でもそれ以上にこいつは輝きを増していくんだ!足並み揃えてくれよって言ったって知らんぷりで一人勝手にどっか行っちまうんだよ!」そう言ってうつむきながら伶奈ちゃんを突き飛ばした。そして御影くんに向き直りこう続けた。「同じチームだって自覚ねーのかよ、御影。抜けるならお前が抜けろ。チームに対する興味も結束もないお前が出てけ!」その言葉に、いつもニコニコ笑顔を絶やさない御影くんが大きなショックを受けたような、魂が抜けたような顔をした。「マネージャーさん、この状況どうすれば。」「ああもう、また喧嘩だよ…」遠山くんも蔦屋くんも困り果てた様子でこちらに投げかけた。
「あとで御影くんに色々聞きます。今は放心状態でしょうから、落ち着いてから。織くんにはしばらく触らないであげてください。」今はこうするしかなかった。
午後のレッスンも終えて、夕食の時間になった。
「雄大〜一緒に…」「うるせぇ」久瀬くんが織くんの肩を掴んで声をかけると、織くんはその手をパッと払った。私も久瀬くんに急いで駆け寄り先ほどの話を説明した。その他のメンバーにも次々耳打ちして状況を理解してもらった。そんな中、
「御影と織、何喧嘩してんだよ?一緒にカレー食って忘れよーぜ!」大盛りカレーを二皿手に持った灯ちゃんが空気を読まずに声をかけた。ああっ、ダメでしょ!今言ったばっかりなのに!…そして案の定織くんはキャンプ場の壁を大音立てて蹴り、出て行った。御影くんは先ほどよりは笑顔が戻った様子にも見えるが一人端っこの方に座ったままだ。
「食えば人間忘れるんじゃないのかー?」「お互い相当傷ついてるから、そっとしておいてあげなさい。」伶奈ちゃんが灯ちゃんを諭した。なかなか箸が進まない様子の御影くんに、
「申し訳ないけどあとで話を聞きます。」とだけ言って私も箸が進みそうにないが食べれる分だけよそって食べた。なんだか味がしなかった。