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門番天使と悲劇の少女  作者: 製作する黒猫
天国編 待つために
4/26

4 死んだ少女



 下の階層はまた一変し、室内だった。小さな部屋にいつものように扉が一つと階段。それと湖を切り取ったようなものが置いてあった。

「これはなんだ?」

「え、水槽でしょう?」

「スイソウ?」

「魚を飼うための・・・檻のようなもの?なんて説明すればいいのかしら。天使さまは元人間だったのに、見たことがないの?」

「あぁ。俺が人間だったのは遠い昔だ。時代が違うと、こうも違うのだな。」

「そういうことね。あれ、でも天国にも水槽ってあると思うけど。」

「・・・そうなのか。今度部屋に置いてみよう。」

 きれいだと思う。なんだか癒される気がする。俺は魚が好きだったのか?

「まだ見てる?私はあの部屋を見てくるけど。」

「俺も一緒に行く。」

そう言ってついてきた俺を見て、少女は疲れ切ったような表情をしてため息をついた。「・・・説明しきれるかしら。」

「?」



扉の先には未知の物が溢れていた。

「な、なんだここは・・・魔女の館か!?」

「魔女の館って・・・」

 少女が言うには、ここは一般庶民の家で、今いる部屋は居間というらしい。

「天使さまって天国でどんな生活してたの?天国にもこたつとかテレビって、あった気がするけど・・・」

「生活?・・・ずっと働いているが。」

「え?ど、どんなブラック企業よ!!!」

「確かに服は黒いが・・・キギョウ?とはなんだ?」

「・・・・・」

 少女はあきらめたように遠い目をして、ため息をついた。そっとしておこうと思った俺は、転がっていた手のひらサイズの黒い物体を見て、おもむろに手を伸ばした。それにはいくつ突起物がついていてその一つ、赤い突起物を押した。自然と黒い箱にそれを向けて行っていたことに気づき疑問に思うも、突然流れ出す曲に驚き周囲をうかがった。流れてくる曲はしっとりとした、暗いピアノで演奏されているものだ。

「テレビ・・・」

 少女を見ると黒い箱にその視線は注がれており、黒い箱には別の世界が広がっていた。高級そうで、かつ可愛らしいピンクのカーペットや目を引く立派な椅子は、貴族の屋敷を思わせたがどこか古びている。椅子には一人の少女が座っていた。輝く金髪に青い瞳。どこか見覚えがある赤い服。上から見下ろしたような見え方なので、少女の表情はうかがえないが・・・

「これは、君か?」

 少女は大きく目を開き、口を意味もなくパクパクと開閉していた。

「いや・・・やだ。」

「どうした?」

 様子のおかしい少女に戸惑っていると、箱から声がした。

『あなた、だれ?』

 隣の少女と同じ声。若干幼さの残るような口調ではあるが、間違いなく彼女の声だろう。隣にいる少女は同じ声で「やめて」とつぶやいた。

「どうした?これはいったい何が起きているんだ。どうすればいい?」

 箱の方を見れば人影が少女に迫っているところだった。その手には刃物が握られている。箱の中の少女は恐怖で固まっているようで、動けずにただ人影が迫っているのを見ていた。

「見るな!」

 次に何が起こるか理解した俺は、隣の少女を抱き寄せ黒い箱をみえないようにした。俺も目をつぶる。

 次の瞬間少女の悲鳴が響き渡った。その悲鳴は箱の中から聞こえるのか、それとも俺の腕の中から聞こえるのか。もうどこから聞こえてくるのかわからなかった。悲鳴が途絶えると腕の中の少女は、力を失ったように俺に倒れこんだ。

「おい!しっかりしろ!おいっ!」

 少女は動かない。

「何が起こっているんだ。」

 黒い箱には血を流す少女だけがいた。やがて、その世界がなくなったかのように、真っ暗になる。そして、文字が浮かんできた。

―死亡




 少女をやわらかいクッションの上に横たえる。クッションにしては薄いがないよりはましだろう。彼女に何が起きたのかわからないが、とりあえずこの先を見てみることにする。


 一つだけある扉。ここは俺たちが入ってきた扉だが、何かしら別の部屋がある気がしたので、迷いなく開けた。

「廊下・・・この扉を除けば、1つの扉と上へ行く階段か。」

俺は扉を開けたまま廊下に出て、もう一つの扉の前に立ち、ノブをひねるが動かなかった。

「閉まっているのか。あとは階段を上がるしかないな。」

 階段を2、3段とのぼっていると既視感を覚えた。ここに来るまでに何度も階段を上ったせいかと気にしないで上まで登った。

 階段を上りきると、そこは人一人が立っていられるほどのスペースしかなく、壁には全身が見れる大きな鏡が掛けてあった。

「鏡か・・・あとは何もないな。」

 鏡を見ればそこには俺がいた。天使の羽をはやしていること以外は、人間の時と変わりのない俺が。いまだ見慣れない天使の羽と俺自身。

 人間時代から感じていたのは、こいつは誰だ?という疑問だ。何度鏡を見ても、この姿が俺だと認識するのに時間がかかる。

 俺はそっと鏡に触れた。




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