25 悲劇の少女の結末のその後
鮮明に思い出される光景があった。ピンクを基調にした可愛らしい部屋で、血を流して怖くてどうしようもないのに誰も助けてくれなくて、それでも希望を捨てずに待って。待って。死んだ。
そっと目を開ける。いつでも鮮明に思い出されるその光景は、現実に目の前にあった。ただそこは、誰も訪れなくなってほこりをかぶり、雨漏りをして天井や床がお化けのようなシミを作っていた。もう血は出ていないし、床は汚さない。食事も必要としないし、睡眠だって必要ない。だって、死んでいるから。
死んでからも私は待っていた。ここに来たのは数日前だけど、その前だってずっと待っていた。
「だって、約束したから。」
そう言って、目を閉じる。思い出すのは優しい記憶たち。お兄ちゃんとの出会い。初めて行ったお兄ちゃんの家。それから何度もお邪魔して、いろんなことをした。時にはお兄ちゃんの弟さんともゲームをして、楽しかったな。
懐かしい声が聞こえた。その声は私を呼んだ。現実に聞こえたかと錯覚してしまうくらい鮮明に。
「待たせて悪かった。」
胸が高鳴った。まさか。期待と、期待した分だけの落胆を思い、目を開けるのが怖い私は、暖かい何かに包まれた。
「嘘・・・」
「嘘じゃない。待たせて悪かった。」
「本当に、嘘じゃない?そこにいるの、お兄ちゃん?これは現実?」
「あぁ。本当のことだよ。目を開けて。俺、君の目が好きなんだ。久しぶりに見たい。」
そっと目を開ける。ぼやけた視界は茶色をとらえ、すぐにピントが合うと、少し変わってしまったけど、間違えようのないお兄ちゃんがそこにいた。
「おに、い・・・ちゃん」
私は思いっきりお兄ちゃんに抱き着いた。じょりっとほほに痛みを感じたがどうでもいい。もう、離さないと、心に誓うように私はお兄ちゃんを抱きしめた。
「行こうか、天国に。」
感動の再開から多少落ち着きを取り戻した私に、お兄ちゃんはそう言って手を差し出した。迷うことなくその手を取り、うなずく。
かさり。とお兄ちゃんの胸ポケットから音がしたので見ると、お兄ちゃんは忘れていたと言ってここまでのことを説明してくれた。
「そう、天使さまが・・・やっぱりあの人はいい人だわ。」
「そうだな。心の中で悪魔と呼んでいたことを申し訳なく思うよ。」
「多分天使さまはそんなことを気にしないと思うわ。それより、写真を返して。」
「・・・だめだ。」
「どうして。私の宝物なのに。」
「それでもだめだ。恥ずかしい。」
「そんなの今更じゃない?」
「だとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。」
「お兄ちゃんのケチ。」
「ケチで結構。」
私はそっぽを向いたが、すぐに機嫌を取り戻しお兄ちゃんに笑顔を向けた。
「いいわ。その代わり、これからずっとそばにいてもらうから、覚悟してね、お兄ちゃん?」
「あぁ。でもそのお兄ちゃんって、やめないか。そんな年齢でもないし。」
その言葉にますます私は笑みを深めた。
「いいよ。だって、私いつまでもこの関係のままいるつもりなかったから。」
「え?」
驚くお兄ちゃんの腕を強く引いて、近づいた顔に、私の唇を押しあてた。場所は頬。じょりっとしてちょっと痛かった。
「な、は?え?」
「面白い顔。こんなのまだ序の口よ。覚悟してね。」
私はお兄ちゃんという代わりに、愛おしい人の名前をつぶやいた。
これにて、少女の物語は終わりです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
今後、数話番外編を書こうと思っています。こちらもお付き合いいただければ幸いです。
その後の話を予定しています。