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門番天使と悲劇の少女  作者: 製作する黒猫
地獄編 約束の地へ
23/26

23 男の罪




 悪魔は黙って俺の話を聞いていた。

「そして、俺は地獄に落ちた。俺は、罪人だ。」

「知っている。」

「そうか。なら、俺を地獄の牢屋へ戻してくれ。俺の罪は重い・・・」

「あぁ、重いな。だが、お前が牢屋で罪を償っている「フリ」をしているうちに、その罪はどんどん重くなるぞ。」

「それは、どういう意味だ!俺は、しっかりと自分の罪に向き合って、償っていくつもりだ!」

 悪魔は俺の言葉を鼻で笑って「軽い」と言った。

「軽い?」

「お前の言葉には重みがない。自分の罪と向き合うと言ったな、罪人。」

「あぁ。俺にはその覚悟がある。」

「なら、なぜ忘れた?今まで、忘れていたのだろう、すべてを。」

 悪魔の言葉に俺は固まって、言葉が出なかった。そうだ。俺は今まで忘れていた。自分のことですら忘れていたのだ。

「お前は、なぜ罪を償う?ただ許されたいだけだろう。お前のそれは、甘えだ。」

「甘え。そんな、こと、は。」

 ないって、いいたいのに。その言葉が出ない。俺は何で地獄に行きたかった?罪があるから。そう、罪があるから。でもそれは、自分が許されたいからだったのか。

「本当に罪と向き合うというのなら、私と共に来い。」

「どこへ?まさか天国か?」

「違う。」

 悪魔は後ろにいた黒い影を見た。

『了解した。僕の仕事はもう終わったから、これはサービスさ。感謝してよね。』

「すまないな。」

 黒い影はパチンと指を鳴らす。辺りの景色がぐにゃりと歪んで、ピンクを基調にした可愛らしい部屋。少女が死んだ殺人現場に変わった。しかし、まだことは起こっていないようで血で汚れているということはなく、ただの可愛らしい部屋だった。

「お化け屋敷怖かった~」

 懐かしい声と共にトレードマークの赤い帽子をかぶった少女が、豪華な椅子に座って現れた。

「怖がるわりに毎回行くよな。」

 少女の座る椅子の横で、昔の俺が楽しそうに笑っていた。

「うん、なんか行きたくなっちゃうんだ~」

「ま、いいけど。次はどこに行く?」

「う~ん。コーヒーカップは列ができていたし、観覧車は最後がいいからなぁ。」

「ま、ゆっくり考えていて。俺はちょっとトイレ行ってくるから。」

「ふふ。お兄ちゃんもしかして、お化け屋敷が怖くて――」

「違うっての。すぐ戻るから、ここで待ってるんだぞ。」

「はーい。」


「こんなもの見せて、どういうつもりだよ。もう、思い出した。この光景だって覚えている。いまさら、こんな・・・」

「お前は約束をした。」

「約束?」

「すぐに戻ってくる。待っていろ。と。」

 悪魔は鏡の置いてある場所でまで行き、立ち止まり振り返った。

「少女は死んだ。お前と違って彼女は、まっすぐ天国へ行った。」

「当たり前だ。あの子には何の罪もない。」

「だが、待ってもお前が来ないことが分かると、約束にすがり、少女は天国を飛び出した。」

「まさか・・・」

 悪魔の後ろの鏡が消え、階段が現れる。階段の先から降り注ぐ光が、悪魔を照らし神々しく感じた。

「そんな、俺のために天国を出るなんて・・・なんでそんなことを。」

「さあな。俺にはわからない。だが、少女が今もあの場所で待っているのは事実だ。」

「だが、今更どんな顔をして会えば。俺のせいで殺されたのに。ずっと忘れていたのに。」

『つべこべ言わず行きなよ。』

 唐突に後ろから声が聞こえた。それは黒い影・・・いや、弟だった。

『あ、勘違いしないでね。僕は君の弟じゃない。君の弟は行方知れずさ。それより、エンマ様から許可が下りたよ。当然だよね。だって君は天国行きなんだからさ。』

 弟の姿をした者が俺の背中に手を添えた。

『そうだ、ひとつだけ。僕は幸せだったよ。行方知らずになったのは兄さんのせいじゃない。だから、急にいなくなってごめんね。』

 彼が君に伝えたかったことだよと言って、背中を押され、俺は階段を上がった。



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