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門番天使と悲劇の少女  作者: 製作する黒猫
番外編 過去の記憶
16/26

(16) 殺されたモブ



 ざしゅっ。剣で肉を斬ったら、このような音が出た。牛のような魔物を倒したときに出た音だ。魔物はもうすでに息絶えていた。

 俺は、剣士。3人パーティーで冒険者をしていたが、スカウトされて、今はパーティーごと勇者の仲間として魔王討伐に出ている。


「なんだ、ぼーとして。お前らしくもない。」

「えー、こいつはいっつもそんな感じよぉ。空気も読めないしー。」

 冒険者時代からの仲間の剣士の男と魔法使いの女が話しかけてきた。こいつらはバカップルとでも呼ぼうか。男がバカオで、女がバカコにしよう。なぜこのような名前を付けるかって?なぜなら、こいつらに名前はないからだ。もちろん俺にも。


 先ほどの魔物を倒した瞬間、俺は俺を取り戻した。名前は思い出せないし、記憶もあいまいだが・・・俺は、また別の世界に来たようだ。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。」

 新しく声をかけてきたのは、今の俺たちのリーダー、勇者だ。緑の髪と瞳、どこか少年の面影を残すこの男こそが、この世界の中心だ。


 前回の世界のことは、大体覚えている。世界の中心は彼女で、恋愛に重きを置いた世界だった。その世界での俺の役割は、婚約者役からの悪役で、処刑エンドといった感じだったな。


「勇者様、おなかがすきました。」

 その声を聞いた途端、今まで考えていたことが頭から吹き飛んだ。

「え、もう?さっき食べたばかりのはずだけど・・・腹が減っては、戦はできないっていうし、仕方がないか。」

 勇者はそういうと、懐から一つのリンゴを取り出した。まて、それはどういう仕様だ。懐はそんなに膨らんでいなかっただろう!

 落ち着け・・・そうだ、こういう世界だった。おそらく今のは、勇者がそういうことにしたのだろう。勇者が望めば、世界はどうという風にでも変わる。たとえ、懐に何もなかったとしても、リンゴを買って懐に入れていたことになるのだ。


 それにしても・・・勇者からリンゴをもらって、しゃくしゃくと音を食べている彼女。もちろんバカコのことではない。5人目の仲間、女剣士だ。茶色い髪は、どこかの女と同じだが、瞳は新緑の緑で、素直な彼女によく似合う。

 俺は、彼女が好きだ。記憶が戻った今でもそれは変わらない。でも、俺と彼女が結ばれることはない。だってこの世界は・・・




死ぬこと?


 俺の胸に、氷のとげが突き刺さった。

 物語はクライマックスといったところか。あれから月日が流れ、遂に魔王城の最奥で魔王と対峙することになった俺たち。俺、バカップルと彼女の4人がこの場にいた。

 勇者はいない。勇者は、一人で四天王を相手にしている。主役は最後にいいとこどりでもするのだろう。


「ぐっ・・・」

 血を吐き、床にうずくまる俺を彼女が見ていた。よかった、彼女を救うことができた。

 魔王の放った最初の一撃である氷のとげ。それは、彼女とバカコに向かっていった。俺は、それを見て、彼女をかばうために攻撃を受けたのだ。


「くはっ」

「剣士ぃー!!」

 バカコの声が響いた。

 おそらく、俺ではなくバカオのことだろう。あいつもバカコをかばったということは、これはそういうシナリオだったのかもしれない。正直、俺にはわからない。

 俺は、彼女をかばいたくてかばった。でも、それが最初から決められたシナリオだったのかはわからない。でも、シナリオだといいな。シナリオ通りだというのなら、彼女はきっとヒロインで勇者と結ばれる。それならきっと幸せだ。


 そう思いたい。だが、それを否定するように、前の世界の彼女が浮かんだ。俺を飽きて捨てた女。


「みんなっ!?」

 勇者が到着したようだ。俺を心配そうにのぞき込む勇者。

 俺を殺したって良い。それで、お前の物語が満足するなら、いくらだって俺は殺されよう。だけど、どうか、これだけは約束してくれ。

「勇者、彼女を頼む・・・」

 どうか、彼女は殺さないで。できれば、幸せに。


 そして、俺の意識は途切れた。

 また、新しい世界へと俺は迷い込むのだろう。

 俺には、怖いことがある。


 見知らぬ世界に行くこと?怖くない。

 死ぬこと?怖くない。


 俺は、俺でなくなることが一番怖い。

 もう、名前を思い出すことはなくなった。髪の色や瞳の色、顔の形なんかも思い出せない。けど、今の顔とは違うことだけはわかる。

 女のように長い髪は、青。情熱的な赤の瞳は、あの女とお揃いで嫌になる。整った顔は、女に好かれそうだなとは思う。こんな顔ではなかった。

 ほとんど、本当の自分を思い出すことはない。だが、これが本当の自分ではないとわからなくなった時、俺は完全に消えるのだろう。



 死ぬのは怖くない。だって、その世界を去るということだけで、特に意味はないから。ただ、今回は少し寂しくはあった。




「もう、彼女には会えないのか。」


 彼女を思い出す。


「彼女とは・・・だれだ?」


 青の髪と赤の瞳を持つ青年は、一人椅子に腰かけていた。屋内であるはずなのに、小さな滝があるこの部屋は、自然の中にいるようにきれいな空気が満ちている。

 部屋の中央には、ふわふわの白い毛をまとった羊がいて、何かを待っているようだ。青年の後方にある窓辺には、静かに祈りを捧げる女性の姿。


 彼の独り言に応えるものはいなかった。彼は、また新しい世界へと迷い込んだことを知らない。


これにて、番外編が終わりました。

明日からは、本編に戻ります。

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