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門番天使と悲劇の少女  作者: 製作する黒猫
番外編 過去の記憶
15/26

(15) 殺された元婚約者の悪役

これは、誰かの過去。



「ねぇ、私のこと、どう思ってる?」

 栗色の柔らかそうな髪を肩につく程度に伸ばした、可愛らしい少女。こちらを上目遣いで見る瞳は、情熱的な赤い瞳。俺は知っている。この世界は彼女のためにある。

 彼女のための世界に迷い込んだ俺の選択肢は一つ・・・

「気味が悪い。俺の前から消えてもらいたいと思っている。」

 

 ほんの少し前までは、愛をささやいていた。彼女がそう望んでいたから。俺は次々と浮かぶ、彼女が望む言葉を吐き続けた。常に微笑み、そっと壊れ物でも扱うように彼女に触れていた。

 

 俺に突き飛ばされ、床に倒れこむはずだった彼女は、新しい男の腕の中で傷ついた顔をしていた。タイミングよく彼女を受け止めた男は、彼女の情熱的な瞳を見て微笑んだ後、冷たいまなざしを俺に向けた。

「これは、どういうことだ?いや、理由があったとしても、女性に手を上げることが許されるはずがない。」

「・・・」


 とんだ三文芝居だ。すべてがすべて彼女のための世界。

 俺がなぜ彼女に暴言を吐き、突き飛ばしたかというと、それは彼女がそう望んだからだ。彼女は俺を愛していた。この目の前の男を見つけるまでは。

 俺を愛さなくなった彼女は、男との愛の物語を楽しむことにしたようだ。しかし、心変わりはいけない。彼女の美学にそれは反するらしい。そんなくだらないことのために、俺は悪役になることとなった。


「俺の婚約者に手を上げようが、俺の勝手だ。お前に何の関係がある。」

「紳士として恥ずかしくないのか?私は、一人の紳士として、君の行動を許容できない。」


 確かに、女性に手を上げるなど、あってはならないのだろう。しかし、俺に言われてもどうしようもないのだ。彼女は今、完全に世界を動かすことができるようだ。

 この世界は、すべてが彼女の思い通りになるわけではない。ここが彼女のための世界であっても彼女の意志と関係なく、時が流れていた。何度か彼女の意思を反映して世界が動くことが今までに何度かあったが、大筋は彼女の意志は関係ないようだった。しかし、今は違う。完全に彼女の支配下だ。

 なぜそのようなことが分かるかといえば、簡単な話だ。俺の体が俺の意志に反して動く。

「お前に俺の行動を許してもらう必要はない。俺は、俺のしたいようにするだけだ。その女が気に入ったのならくれてやる。」

 全く、俺のしたいようにしていない。この口は大ウソつきだ。


 それにしても、嫌なものだ。このような世界に迷い込むのはもう慣れたが、いつまで迷い込み続けるのだろうか?

 俺には怖いことがある。


「ぐはっ」

 突然、男が殴りかかってきて、俺の左ほほにものすごい衝撃が来た。あまりの勢いで、俺はそのまま床に倒れこむこととなった。彼女のように、誰かが受け止めてくれるということはなく、普通に倒れこんだ。


 殴られること?そんなものは怖くない。


 ガツンと、後頭部にものすごい衝撃が走り、意識を失った。


 意識を失うこと?そんなものは怖くない。



 歓声?多くの人々が集まり、何かを言っている。よく聞き取れないが、10人20人なんて単位でなく、数百人といったところか。

 ばさりと音をたて、視界が真っ白に染まる。すぐに目が慣れて、大勢の人の前にいることが分かった。いままで何かを顔にかぶされていたようだ。歓声はさらに大きく、はっきり聞こえるようになり、それが罵声だと気づいた。

 女性の敵だの、男の恥さらしだの・・・

 このような世界ではよくあることなのだが、今の状況が全く分からない。ただ、俺の立ち位置が良くないということだけ分かった。

 

 大勢の人を見下ろすような位置に俺はいて、両手は縛られている。右隣にはごつい筋肉質な男。正面には・・・


「断頭台・・・」

 清々しいほどの青空を背景に、ぽつんと置いてある断頭台。上部には命を刈り取る刃。下部は、罪人を逃がさないために首を固定するためだろう木の板がある。2枚の板を上下に合わせ、中央の部分に首が通れるくらいの穴が空いている。

 俺の隣にいた男とは別に、後ろに控えていたらしき男が、断頭台の準備を始める。準備と言っても、2つに合わさった板の上部を上げて、俺の首を下部の板の半月型にへこんでいる部分に合わせ、上部の板を戻しロックをするだけだ。


 顔を上げる。大きくなる罵声。人々の怒りは頂点に達していた。その中で、怒りを向けられている俺が思ったことは。

「女性っていうのは、残酷なのが好きだよな。」

 俺の首を固定している板から振動が伝わる。あの刃が落ちてきているのだろう。



 死ぬこと?



 俺の全身に衝撃が走り、世界がぐるりと回転した。


 清々しいほどの青空は、もう見えない。


 俺は、死んだ。



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