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1回 蝉の沸く神宮

 会社に辞表を叩きつけたあの日、普段なら平日の昼間なんて静まり帰っている神宮球場に、微かな活気があった。

 敷地内に入って立て看板を見てみると、「全国定時制通信制軟式野球」とある。

 入場無料だったから正直定通のヤンキー共の野球なんざ興味はなかったが、気まぐれにタダならと普段入れないバックネット裏に入った。


 その日は決勝戦らしかった。


 勝っていたのは硬式も有名な奈良の天王里。

 そもそも天王里に定通制があったのにも驚きだが、さらに驚いたのは対戦相手だ。

 高校名は忘れたが、俺の記憶に強烈に焼き付いたのはその高校はメンバーの半数以上が女だったことだ。

 甲子園のようにマネジャーではなく、選手として神宮球場のグラウンドに立っている。

 もう既に8回のウラが終了して9-0。勝負は決まっているようなものだ。

 世間では夏の甲子園が連日とり上げられ、全国大会の決勝といえどスタンドはガラガラだ。

 それなのに円陣を組んで、その高い声をカラカラに枯れさせて叫んでいる彼女たちを見ると、今朝まで胸に詰まっていたモヤモヤが晴れていくような気がした。


 もう俺はこんなおっさんになってしまったのか。

 分かってると思っていたはずだが、何故かその事実は胸に刺さった。

 あの彼女たちを見てると、自分が感じてきた苦労なんてちっぽけに感じる。

 高校生ともなると、体格面で男子との差が顕如に現れているだろう。

恋なんかもしたい年頃だろうに真っ黒に日焼けをして声も萎んでいる。

 どうだろう。今日は久しぶりにどこかのバッセンにでも寄ってみるか。

 何年もバットを振っていないので恐らく腰を痛めるだろうが、明日からのことなど痛む腰をさすりながら考えればいい。


 ちなみに、天王里は今年で12連覇だったそうだ。

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