8.ミカと風呼とファミール
ミカ視点
「あ!あたしの用意したワンピースだよね、それ!わーわー、かわいい!やっぱり、かわいい!あたしの見立て通り!!」
風呼はミカが止めるよりも先にファミールに抱きついた。
「あー!いい匂い!お風呂?さっき作ったあのお風呂入ったの?」
「そう。作ったばかりでお湯が出ないお風呂」
「え?ええぇ!!!そういえばお湯出るように作ってない!!そっか、お湯……」
風呼は初めてお湯という存在を知ったかのように言葉を噛み締めた。
「大地が水を暖かくしてくれたから、それでお風呂には入れたわ。お湯を出すのはまた、アクアも一緒に考えてくれるみたい。」
「そっか!アクアが考えてくれてるか!」
なら自分は考えなくてもいいかと言わんばかりに風呼は安堵の表情を浮かべた。
「とりあえず…2人を解放してあげたら?」
風呼はオウキを抱えながらファミールを抱きしめたままだった。オウキは怒ったように「うー!うー!」と言って風呼の背中を叩いているし、ファミールは全く反応が無い。息をしているのか心配だ。
風呼が渋々2人を放した。
「いいじゃん〜。子供にはスキンシップが必要だと思うんだよね!…ファミール?」
反応が無かったファミールの顔は、目は潤み口はきゅっと不自然なくらい強く結ばれていて、今にも泣き出しそうだった。
「え?え?そんなに嫌だった?!ごめん、ごめんねファミ!!」
ミカは見るにも耐えないほど狼狽する風呼の肩に手を当てて落ち着くように促し、少しだけしゃがんでファミールと目線を合わした。
「大丈夫、大丈夫。」
塔でアクアがしていたように、頭を撫でた。
風呼は気づいた。ミカのその撫でている左手から、優しい光が出ている事に。
しかしそれは功を為さず、ファミールはついに泣いてしまった。堰を切ったようにボロボロと目から涙が溢れでて、口は噛み締めすぎて血が滲んでいる。
「アクアなら、何となくでもファミールの気持ちが分かるだろうに」ミカは悔しそうに呟く。
ああ、そんなに唇を噛み締めたら後が痛そうだとミカが思ったのと同時、風呼はファミールの左右のほっぺたを親指と人差し指で軽く抓った。
予想外の風呼の行いにファミールもミカも時間が止まったように固まった。
やがてミカが「…なにやってんの」と声を出す。
「え…えへ?スマイル〜…なんちゃって…」
この滑った感をどうしよう、というように風呼は目を泳がせた。
「あ……」
風呼が手をゆっくり放すと、掠れた声がした。ファミールの口からだった。
「あ…っ…あ……」
嗚咽なのか何か言おうとしているのか分からない声を、必死に絞り出した。
ミカはファミールの背中に手を回し、優しくさすった。
ファミールはミカのスカートの裾と、風呼のシャツの裾を掴み…
しばらく、離さなかった。
*
「ねー、ミカ。また、ファミールみたいに人が流れてくるのかな。」
「……さぁ。でも1人、流れてきたんだから、2人目が流れてきてもおかしくないわね」
「ファミールには、帰る家、あるのかな。あたし達と違って、自分で来たくてこの世界にきたんじゃないよね?やっぱり、帰りたいかな?ママに会いたいのかな?この世界は嫌なのかな?…だから泣いたのかな?」
「…風呼」
「…、ごめん、なんでもない」
*




