6.風呼とオウキ
桜の木の意識は人間の赤ん坊の姿を持ってこの世界に実体として生まれた。名前は桜姫でオウキ。
名前はアクアがこの子を桜姫と呼んだ事からこうなった。名前のつもりで呼んだのではないとアクア本人は言っていたが、それが一番しっくりときた。
アクアの話ではオウキに性別はないらしい。自分たちで育てるうちに、もしかしたら自身をどちらかの性別だと主張する日が来るかもしれないとの事だ。
そういった事を考慮した名前を考えた結果が、桜姫でオウキ。美しさと凛々しさを併せ持った名前だ。
赤ん坊のオウキに、性器など男女を区別出来るものは存在しなかった。本当の意味で性別は存在しないようだ。そうなれば排泄などはどうなるのか…と、言えば、必要がなかった。なぜならオウキは風呼たちの魔力を食料としていたのだ。まるで酸素を吸うかのように皆の魔力を吸い、そして二酸化炭素のように性質を変えて吐き出していた。
魔力を感じ取れるようになった風呼は、近寄った自分たちのはみ出ている魔力が少しずつオウキの身体に吸い込まれていくのが分かった。吸い込まれるのは身体からはみ出ている微量の魔力だけなので、風呼たち自身に特に影響はない。近くに誰も居ない時は、世界を形作っているオーラを少しずつ蝕んだ。
せっかく作った世界が壊れそうで(実際はそんな脆くはないと思うが)、風呼は少し怖くなりなるべく近くにいるように心がけた。
そんな日々の中、風呼たちの魔力を得てオウキはあり得ないスピードをもってすくすくと成長した。柔らかい桜色のふわふわした頭の産毛も伸び、ぱっちりとあいた瞳はルビーのような真紅の色をしている。世界を創造してまだ5日しか経っていないのに、オウキは赤ちゃん言葉ではあるが数個の単語を喋るようになった。世界が出来て2日目は周りを見たり身体をジタバタさせたりし、3日目は四つん這いでよたよたと動き回り、4日目は立ち上がろうとしてはコケることを繰り返し、5日目の今日に至っては風呼の足に捕まれば立てるようになった。まだ自身の足で立てないとは言え、驚くべき早さの成長である。
「ふーちゃーーー」
「なんだい、オウキ」
風呼の事をオウキはふうちゃと呼ぶ。風ちゃんの「ちゃん」がうまく言えず「ふーちゃ」になっているのだ。お茶のようだ。
他のみんなの区別もすでに付いているようだが「ふーちゃ」が1番言いやすいようで良く呼ぶ。
「ふーちゃーー、だっこーー」
「はいはい、私たちのお姫様」
「あら、風呼。今日も甘やかしてるわね」
「だって可愛いじゃない!!」
突然聞こえた、いいとも悪いとも言うわけではないミカの言葉に過剰反応して叫ぶ。風呼には妹も弟もいなかったので、甘えてくるオウキが珍しくて可愛くて仕方がない。仲間の中で1番オウキを甘やかしてるのは風呼だろう。
オウキを抱っこしながら、ミカのうしろに隠れる小さな影に気づく。
「んん?ミカ、その子は?」
「ファミールよ。ほら、数日前流れてきた」
ミカは風呼の前に自身の後ろに隠れる人影を押す。
出てきたのは少女だった。柔らかそうなふわふわとした栗色の髪。不安げに揺れる、髪と同じ色の瞳。この世界の『海』と同じ気配を纏っていた。




