2.風呼と不思議な力
アクアたちの目的は、『世界を創ること』である。
その目的に賛同した不思議な力の強いメンバーが風呼たちだった。本来は魔法使いが大勢集まってする儀式だとアクアは言っていたが、部屋に集まっていたのは5人。風呼はまだ会ったことがないが後1人いるらしく、計6人だ。その大層な儀式を一桁の人数で賄うというのがどれほど桁違いの事なのか、風呼はこの時はまだ知らない。
アクアの話によれば、メンバーの持つ力の系統は同じではないということだった。例えばアクア自身は生れながらの魔女で、風呼は『これから風の精霊になっていく、元人間』というなんとも説明しにくい存在だ。風呼は力の違いがよく分からなかったし、それらがそれぞれどういった存在なのかもよく分かっていなかった。風呼は移動道中にミカに尋ねた。
「私も元々知っていた訳ではないのだけれど。例えば精霊は、自然の力をそのままに使うの。風なら風、熱量なら熱量。電気なら電気。力の加減は出来ても物質を変換することは出来ないわ。これを…霊力と私はよんでいるのよ。」
つまり、精霊になりつつある風呼が使うのは、ミカの言う『霊力』だということだ。
風呼は頭の中でメモを取った。
「それに対して、どうやら魔法使いというのは、自然に宿る力…つまりは霊力を自身の中に通して、自身の力と融合させて自分の魔力として自由に扱ことが出来るらしいわ。そしてその魔力を使って物質を変換させるのが、魔法。簡単に言えば、霊力は生モノ、魔力は加工物かしら。」
そう言ってミカはしゃがみこみ、道路側の花壇で萎れかけた花に手をかざした。ミカの手からなにか、小さい無数の光の玉が雪のように花に降り注いだ。しばらくすると、先ほどまで頭を垂れていた花がゆっくりと背すじを伸ばした。
「…すごい…」
ミカは溢れた自身の髪を耳にかけながら立ち上がった。
「これは私の霊力を浴びせてあげただけ。霊力は生き物にとっては生きるエネルギーになるの。魔が宿っていなくて、適性もあれば逆に自分のエネルギーとして吸い取ることも出来なくはないわ。」
人の生気を吸い取って生きるエナジーヴァンパイアみたいなものだろうか?
よくよく思い出せば、前にアクアが精霊は生き物の『生きる力』を使って存在を確立してるだとか、そういう事を言っていたような気がする。
まるでファンタジーの話だ。
風呼自身が普通の人間でなくなった時も、アクアから『世界を創る』なんていう目的を聞いた時もそう思うタイミングはいくらでもあったはずだが、状況が状況であったためにそんな浮足立つような感情は湧かなかった。
だが今まさに、よくアニメであるような魔法(正確には『魔法』ではなく『霊力を当てる』らしいが)を見せられて幼少期から魔法少女系アニメが大好きだった風呼のテンションが上がらない訳はなかった。
「あたしにもそれ、出来るかな?!」
「さぁ。私はあなたの系統が分からないから…私は血縁者に樹木の精霊がいるのよ。だから植物相手なら相性が良くてこういったことができるわ。」
このメンバーの間には決まりがあった。プライベートの干渉及び個人情報詮索の禁止である。よって、呼び合う名前も基本的に本名ではない。新入りの風呼も例に漏れずだ。必要があれば開示するけれど、なければ各々の能力の詳細も知らないままでいいとアクアは言っていた。
「だって、それを知られたら、どうして此処に居ることになったの、とか疑問に思ったりするでしょう?能力の内容聞いたら、どういう経緯でその力を持つようになったのかとか…そういうのも自然と分かってしまったりするでしょう?そういうの、聞かれたい?聞かれて、答えられる?知らなければ良かったって思うことだってあるし、知られたくない事だってあるよ。尋ねるのは禁止だけど、自分からいうのは禁止にしないから、言いたければ自由だよ。」
ある一つの目的のためだけに集まっただけのメンバーといえど、仲間である。そこまで強固に素性を隠さなくても、と言った風呼に対してのアクアの言葉である。
風呼はまだ自身の経緯を冷静に話せる自信はなかった。聞かれる事でさえ、心臓が飛び跳ねそうになるのが分かる。アクアはその事を知っていたのかもしれない。もしくは、アクア自身や他のメンバーもそうなのかもしれない。
そういうわけで、メンバー能力、また風呼自身の能力などの詳細は紹介されなかったのだった。だが力を使いこなすには教えをこく必要があり、またその為に自身の状態を話さなければいけなかった。それをミカは分かっていて、風呼が話しやすいように自身の事を説明したのだろう。その事に思い至り、目の前の無表情の少女を見た。
---無表情なのになんて配慮が出来る系女子なんだろう。
「…今何か私をバカにした事を考えなかったかしら?」
「バカになんて!!するはずもない!!」
風呼は一息ついて、説明した。
「あたしは、風の精霊と契約をしたんです。だからこれからどんどん精霊になっていくんです」
「…そう、風の精霊…そのものになるのね。」
ミカは頷いて言葉を続けた。
「それだと、私とはまた少し違うわね。でも力…霊力の事、少し知っておくといいわ。教えれる範囲で教えるけれど、今話した中で気になることはあった?」
「ありがとうございます!!…魔が宿る、って?」
「自然に発生する何物にも侵されていない純粋な力を霊力というなら…なんらかの不純物が霊力に混ざり力が混ざる事を『魔が宿る』と言うことにしてるの。そうね、例えば魔法使いが一度取り入れて自分の力と融合させた力は、魔法使いの力という不純物が混ざったのだから魔が宿ると言えるわ。だから魔法使い達は使う力を魔力という言い方をするらしいわ。」
「アクアも癖で霊力も魔力も全て『魔力』という表現をしてしまうと言っていたわ」と美香は付け足した。
「他にも排気ガスや陰鬱な負の感情を浴びすぎたりすると力が変化して魔が宿る、ないしは霊力を失ったりする可能性が高まるわ。普通の精霊にとって魔が少しでも宿った力は身体に毒なの。精霊の血縁者である私や、精霊そのもののになるあなたにとっても同じことだわ。だから魔が宿った霊力は吸い取れない。---さ、ついたわ。」
喋りながらミカが足を止めた場所は、森の中にある公園だった。午前中だというのにうっすら陽が陰っている。学校は夏休みに入っているはずなのに、子供1人いない公園だった。また、人が居ないにしても静かすぎた。怖いくらいに静かだ。
そう、虫の声や鳥のさえずりさえも聞こえない---。それになにか、空気に色が付いているように見える。何もないのに、何かがあるような気もする。恐る恐る風呼は尋ねた。
「ここ?なんか、変な感じがするんだけど…」
ミカはふっと笑った。微笑みとまではいなかないが無表情以外の顔を見れるのがいちいち嬉しい。
「昨日、お願いしたのよ。ーー明日の今日、私たち以外通さないでって。」
その言葉に頷くかのように、サワッと木々の葉が揺らいだーーように見えた。
風呼はまだ新米でなりかけと言えど、風の精霊である。風の精霊とは付近の風を感じる事が出来た。だけどこの森と、この森に囲われた公園は違うと、揺らいだ葉を見て確信した。揺らいだ事を感知すらできない。この公園は風呼の一部ではない、もしくはこの森自身が意思を持っているのだと。まるで、身体の一部に麻酔をして、自身の一部なのに一部の感覚がない、そんな気持ち悪さがあった。
『ミカ?それは、なに?』
透き通った声が聞こえたと同時に、1人の女性が姿を現した。肌色には見えない肌に色素の薄い髪。息を呑むほど美しかったが、それは人外の美しさであり、また妖艶さをも醸し出していた。そしてその考えを証明するかのように身体が透けて見えた。同時に公園に行き渡っている気配の密度がその女性に集まってるのに気づいた。
…きっと、このひとの仕業だ。精霊、なのだろうか?少し違う気がする。
それより、風呼は『それ』と表現された事が気になった。
「風呼よ。仲間なの」
気にせずミカは答え、風呼に自己紹介するように言った。やはり『それ』とは自分の事だったのかと少し心にダメージを受ける。
「えと、風の精霊の風呼です。」
『……貴女が?』
疑うような目を向けられ風呼はハッと気づいた。風呼は気配で目の前の美人の存在がなにかなんとなく分かるけれど、風呼は人外の力を抑える腕輪をしているためただの人間にしか見えないのだ。
風呼はそっと腕輪を外して大事に腰に巻いているポシェットにしまった。
『……それは?』
「これを付けてる間は普通の人間になれるという代物です。大事な借り物です。」
『……。』
「さっきまで何も感じなかったのに」
黙り込んだ美人の横でミカが代わりにへえ、とつぶやいた。
『そんなものがあるのね』
納得したように美人は頷いて、ヒトは奇妙なことをするわと小さく呟いた。
『失礼したわ。私はこの一帯を管理してるウララよ。』
そして、言った。
『普通の人間になれる、というよりは貴女のその人外の部分だけをなかった事にする物のようね』
………ん?
『貴女の気配は、生きてる若いニンゲンにしては生気が少ないから、歳をとった人間が若く見せてるだけなのか、それとも生き霊か…ニンゲンに化けてる何かかと思ったわ』
風呼は驚愕した。
それは確かに『それ』と表したくなる。
「私は普通の人間に感じたけれど…」
『貴女はまだ力を意識してから日が浅いから分からないのよ。少ないといっても、この公園にくる若いニンゲンたちと比べて、だもの。』
そう、とミカは納得したが、何も言えずにいる風呼は衝撃的で色々言いたいのに言えずにいた。
『まぁ、風の眷属なのは間違いないみたいだから、この空間を使ったらいいわ』
そういうとウララの姿はふわっと空気に拡散していったが、気配は変わらず公園の全体からしていた。きっと、姿を見せるために気配を密集させただけであって、公園を含めた森全体が彼女自身なのだろう。そして、空気が変わるのを感じた。先ほどまでは公園内の空気も含めて彼女の管理下だった。だが、今、空気は風の精霊である風呼の支配下となった。…どうなってるのだろう。
「さ、ウララの許可も得れた事だし、力の練習しましょうか。この空間はウララの体内みたいなものだから、どんな力の使い方をしても大変な事にはならないわ。」
それはつまり、下手な練習が出来ない風呼にとってうってつけの練習場所と言えた。ミカは分かっていたのだろうか?思わず目を見開いてみてしまう。
「私はウララに結界の張り方を習っているからあちらにいくわね。彼女は森の妖精なの。森の妖精って、支配している空間に入り込んだ人を迷わせたり惑わせたり…そういう結界を張るのが得意なの。この先創る世界に何か役に立ちそうでしょ?」
そう言ってミカは風呼から離れていった。
ミカ
血縁者に樹木の精霊がいる
風呼
風の精霊と契約した元人間
アクア
生粋の魔女
ウララ
森の妖精




