14. テュオーサの場合②
苦しくて目がさめると、お腹に赤ん坊が乗っていた。
ピンクの髪をした赤ん坊は、赤い瞳をぱっちりと開けてこちらをみている。
「………??」
状況を把握出来ずにいると、赤ん坊が「あーうー?」と声を発しながらよじ登って来て手を伸ばし、私の両頬をパチパチはたく。
……なんだ?
赤ん坊を持ち上げようと思って身体を動かそうとするが、思うように動かなかった。身体が石になったようだ。
赤ん坊と私の顔の間に深さのある器が差し出された。
「○*#*☆」
差し出したのは金髪の少女だった。
少女はゆっくりと、器を私の口元に持って行き、中のものを口の中へ流し入れた。抵抗する力も出ず、液体は口の中へすんなり入っていく。味はわからない。だが、すこし、指先に感覚が戻った気がした。
少女はまたすこし、コップを傾けて液体を飲ませる。
今度は味がした。すこし酸味を感じる。
またすこし、またすこしと液体を飲まされ、口、手足と動くようになった。
石から人間になったようだ、飲まされた液体に秘密があるのだろうか?
身体の変化に驚いていたら、ふわっと重たいものがなくなった。
見れば、誰かがお腹に乗っていた赤ん坊を持ち上げたのだった。
喋りながら赤ん坊を持ち上げるのは黒髪の少女だった。
金髪の方の少女は周りの少年少女たちに声をかけてから、こちらに向き直る。
子供達の反応から見るに、この少女がリーダーなのだろうか?
周りが静かに金髪の少女の動きを見守る。
そして、金髪の少女の蒼い瞳と目が合う。
「ー☆*○×÷×?」
やはり言葉がわからない。
聞きなれない言語だ。
それからも少女は何度も違う言葉を繰り返すが、やはり分からない。
金髪の少女はまた何か話すと、周りの子供達もガヤガヤと話す。
それから自分を指して、「アクア」と言った。何度も「アクア」と繰り返し、橙色の髪の少女を「アヤ」、黒髪の少女を「ミカ」、おぶってくれた金の眼の少年を「ダイチ」…
聞きなれない発音だが、きっと名前を紹介しているのだろう。
そして私を指す。
私は察して、「テュオーサ」とだけ言った。
♪
その日は、そのまま塔の1階に寝泊まりさせて貰った。
言葉は通じないのだが、出て行こうとすると子供達にジェスチャーにてゆっくりしていくように言われるのだ。
食べ物も与えられるのだが、なぜだか胃が受け付けない。塔に住んでいるらしい子供達も同じものを食べているので、毒が入っているだとか食べ物ではないとかそう言うことは無さそうだ。
なので水と思わしき液体だけ飲んでいるのだが、この水も何かおかしい。どう違うのかといわれると、答えられないが、普通の水ではない気がする。しかしお腹の調子が悪くなるわけでもなく、崖から落ちた時についたであろう傷も目に見えて癒えていった。そして不思議な事にお腹は空く事もなかった。
子供達に心配されているのか監視されているのかは分からないが、入れ替わり立ち代り様子を見にきた。
金髪の青い瞳の少女アクアと、茶髪で緑の瞳の少女フウコ以外は、あまり話しかけてはこなかった。逆にその2人の少女は、私がわからない言葉を一方的に話かけ続けたり、またジェスチャーで聞いたりするのだった。
なにもする事がないし、身体もある程度は動くようになったので、外に出たいとアクアに手ぶり身振りで訴えてみた。いくら死にかけたとはいえ、このままでは身体が鈍ってしまう。
アクアに伝えたのは、もちろん彼女がリーダーだと思ったからだ。
すると少女はにこやかに頷いて、手を引いて私を外へ出したのだ。
昨日は意識が朦朧としていたのであたりをよく見渡していなかったので気づかなかった。
塔の外は、川と家のような二階建ての小屋が1つ、そして森しかなかった。
いくら見渡しても、それ以外のものがない。
森の中に村があるのだろうか?それとも、地下都市なのだろうか?
いくらなんでも、この周りに塔と小屋しか居住地がないなんて、塔を作る技術や塔の中のものの真新しさ、また子供達の身なりについて説明できない。
川のそばにポツンと立っている小屋を見ながら思った。
すると、その小屋から黒髪の大人の男が出てきた。昨日もみた、ただ1人の大人だ。
アクアは大きく手を振って何か叫ぶと、男も答えるように大きく手を振り返した。
アクアは私の手を引いて、男の元へ駆け寄る。
男と少女が話している。時たま私の方を見るので、私の話をしているのだろう。
男は少女の言葉に頷き、そして私の方を見て目を細め朗らかに笑った。
なんて、優しく笑う男なのだろうか。
これが、初対面の人間相手にする笑みなのか。
少女はこちらに向き直り、男を指して「ウオザキ」と言った。
そのあと、小屋と私を交互に指差した。
「テュオーサ、ウオザキ、○*☆」
もしかして、此処に住めという事なのだろうか?しかも、このウオザキというこの男性と一緒に?
♪
その日は海の見渡せるところまで行って戻ってくるだけで疲れた。戻ってきた後は『アクア』が指をさした小屋で、ウオザキと2人きりにされたが、存外、居心地は悪くなかった。ウオザキは程よい距離を保って接してくれた。
小屋の二階の部屋を与えられた。ベッドが1つと、机とイス、そして棚とタンスが置かれていた。その他には何もなかったが、充分だった。お世辞にも広いとは言えない部屋だが、ベッドの寝心地も悪くなく、不自由も感じなかった。
服の着替えなどはウオザキが持ってきてくれた。彼の服だろうか。しばらくは甘んじて借りよう。
しかし、ここの人間たちは皆服が小綺麗だがどこで調達しているのだろうか?
♪
この国にきて3日目になった。
正確には私の目が覚めてから3日目だ。
私の身に変化が起こる。
起きると、ウオザキが一階で朝食を用意してくれていた。この時はまだ変化がなかった。
起きた時に深かったはずの傷が消えている事が少し気になったくらいだ。やはりいつも飲んでるあの水にカラクリがありそうだ。
ウオザキがにこやかに笑って何かを言う。朝の挨拶か何かだろうか。
とりあえず、同じ言葉をこちらも返してみる。
「ヨクネムレタ」
すると、ウオザキは少し驚いて、嬉しそうに笑った。
なんの悪意も邪気も感じない笑顔だ。…悪くないな。
そう思いながら、ウオザキの入れてくれた飲み物を飲んで、ウオザキの用意してくれたウオザキが食べているものと同じ物を一口食べてみた。
味は食べたことがないくらいに美味しいと思ったその瞬間、ドクンと心臓が動いた。
なんだ?と思っていると、そんな私に気づいたウオザキが声をかけた。
「☆○*○+?」
「…?!」
言葉は変わらず分からない。
しかし、何を言ったのかなんとなくわかった気がした。今までにない感覚だ。
「あぁ…おいしいよ。こんなに美味しいのは食べたことがないくらい」
自国の言葉で返事してみた。
するとウオザキは驚いた顔をする。
「+××÷☆○?」
「ああ、私もわかるよ。 言葉はわからないんだけど…どうしてだろう?」
「%°#〜〜・○#*アクア○*・」
「アクアに?あの子ならわかるのかい?」
「○*・#*+×」
どうやらこちらの言葉も同じような感じで伝わっているらしい。
食べ終えたらアクアに聞こう、あの子は賢い子だから。
そのような事を言っているようだった。確かに聡明な子だとは思うが…あんな小さな女の子に対してのこの絶対的な信頼はなんなのだろう。彼女は神官とかなのだろうか?
あぁ、言葉にしても通じるんだった。せっかくなので聞いてみよう。
「彼女は、一体何者なんだい?」
ウオザキはあの時のように優しく微笑んで、彼女はこの世界のカミサマの1人だよ、と言った。
♪




