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夢桜  作者: 空亜
第1章
14/22

13. テュオーサの場合①



後ろは崖。前は敵襲。

そんな状況にもかかわらず、青い髪の青年は優雅に弦を弾く。


ぽろん

ぽろん




伏せ目がちのその目には敵の姿など映らない。


ぽろん

ぽろろん


青年の奏でる音楽に感銘を受けて和解…などということは起こらない。

敵のリーダー格が何を叫んでも青年は聞く耳を持たず音楽を奏で続ける。


ぽろろん

ぽろん



やがて苛立ちを抑えられず、リーダーは部下に命令を下した。


青年は距離を縮めてくる敵襲へ静かに目線を寄越して楽器を丁寧にケースへ戻す。そして、ケースを大事に抱えて、


崖の下へと飛んだ。








頭が痛い

身体中も痛い

いや、痛い…か?


「☆!*○+*!」

「%°#*」


なんだ?

目をゆっくり開けると、光が目に入った。

そしてすぐに何かが光を遮る。


「ーーーっ!!!」


その光を遮ったものがあまりに自身の目と近くてびっくりしたが身体が動かない。

じっとしていると、影になっているのが人の顔だということがわかってくる。

その顔の形や色もわかってきた。


緑色の瞳と目が合う。

鼻は小さく、丸い輪郭。子供のようだ。

ぱあっとその子供は明るく笑った。

知らない言葉を喋り、そして離れた。その拍子にサイドに高く括られた茶色の髪がふわっと動くのをぼんやりと見送った。


あまり見ない外見に、聞きなれない言語。

この国の人間では無いのかもしれない。


くらくらする。

ゆっくりと起き上がろうとして力が入らずバランスを崩したが、誰かが支えてくれて起き上がることができた。細い腕だ。女性か?

支えてくれた腕の持ち主を確認すれば、幼さがまだ少し残る少年のようだった。子供にしては紫苑の瞳が力強い。髪は黒という見慣れない髪の色だ。少年と子供は聞いたことがない言葉で話している。彼もまた異国民か。

もしかしたら私の方が見知らぬ国にいるのかもしれない。


子供はまたこちらに向き直り、何かを喋る。しかし何を言われてるのかわからない。


子供は話しかけても反応がない私にガッカリしたようだった。


この2人の他には誰も居なかった。

その事に少しホッとした。この2人は敵ではなさそうだったからだ。

敵意も悪意も感じられない。


それに、着ている服も風変わりだが小綺麗で、痩せ細っていてもいない。貧困の民ではなさそうだし、むしろ肌の色艶を見る限り裕福なようにみえた。貧困は人を狂わす事を知っているので、少し胸をなでおろす。しかし裕福な子供でも油断ならない。



そう警戒しながらふと周りを見渡すと、野原が広がっていた。子供の後ろには立派な大木が一本、ピンク色の花をつけている。ひらひらと右へ左へと舞いながら、花びらは不思議な落ち方をした。


---こんな植物、みたことがない。



ふと、何かただならない気配を感じてその先をみると、子供が立ち上がって(思ったよりも背が高い)両手を口の周りに当ていた。子供は息を大きく吸って、


「?!」

脳に直接響くような声だった。

実際、声も大きかった。


「あの…今のは……?」

思わず訪ねてみると、その子供(…よくみると少女のようだ)は振り返った。

「ー☆*○×÷×」

「……?」


やっぱり、何を言ったのかわからなかった。






少年と少女に両側で支えられ野原を歩いた。きっと、彼らの村に連れて行ってくれるのだろう。最初は行く気など皆無だったのだが、身体のあちこちに痛みを感じる上に言葉も通じないのに熱心に説得する少女に根負けした。

言葉は互いにわからないのに説得に負けるとはどういう事なのだろうと自身でも思う。彼女の必死さに心が揺れたのだ。



近くに川が流れていたのだが飲んだりはしなかった。正確には飲もう近寄ったら2人に止められたのだ。

喉が渇いた訳ではなかったので無理に飲もうとはしなかった。もしかしたら、毒が混じっているのかもしれない。



少し歩くと、赤髪の少年がいた。

少年と少女は少し会話をして、その少年と目が合う。獣のような金の瞳だ。すぐに目線を逸らしてしゃがみこみ、背中を差し出された。思わず少女を見れば、乗るように促す。こんな子供の背中に乗って、子供が潰れないだろうか。背だって自分の胸ほどしかない子供だ。


黒髪の少年にも目を向けてみると、表情も変えずに頷かれた。確かにこの黒髪の少年よりも筋肉はありそうだが、それでも少年は少年である。それに、大人としてのプライドもある。戸惑っていると、背中を向けた少年な不機嫌そうに振り向き何か言った。それを受けた両脇の少年と少女は無理やり少年の背中へと私を乗せる。

諦めて少年の背中に乗れば、まるで重さを感じてないかのような仕草で私を背負いあげ、歩き出した。もしかしたらこの少年は半獣人なのかもしれない。



川沿いを歩いていくと、高い塔が見えてきた。こんな高い塔はそうどこにでもできるものではない。本当にここはどこなのだろう?




塔に近づくにつれて、人が集まってきた。

でも何かがおかしい。

1人の黒髪の青年が近づいてきて、その違和感に気づく。

この1人の青年の他は皆、少年少女と言ってもいいくらいの年頃の子供たちだった。

此処は子供の施設か何かなのだろうか?

母国ではまずお目にかかれなかった黒髪も多い。


青年は子供たちと会話をしてこちらへ話しかけるが、やはり言葉は分からない。


おぶわれたまま塔の中へと連れていかれた。

塔の一階は生活空間のようだった。

ソファがあり、テーブルと机がある。白と茶色を基調とした部屋で清潔感がある。何の素材でできているのだろうか。


ソファに座らされ、やっと少年の背中から離れる。


座らされたのは柔らかく、真新しいソファだ。この村はやはり裕福なのだろう。素材は分からないが座り心地がよいので、良質な物に違いない。


ソファに座った途端に張っていた力が抜けて瞼が落ちていく。駄目だと思いながらも居心地の良さに逆らえない。


手を借りたとはいえ、傷の痛みと強い疲労感がありながらもよく歩いてきたと思う。


そうやって自分に言い訳しながら、瞼は完全に落ちた。






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