10.風呼の思う平和な世界
風呼とミカは、泣き疲れて眠ってしまったファミールとオウキをそれぞれ抱えて塔に戻ると、「あら、お帰りなさい」と、何か作業している彩が声をかけた。
彩は昨日、動くぬいぐるみ達を生産しすぎて魔力切れを起こしてしまったので、今日は先ほどまで寝ていたようだ。もう起きて大丈夫なのだろうか。
「ただいま、彩。もう身体は大丈夫?何してるの?」
「大丈夫よ。アクアに、魔力込めてって言われたの」
そう言って彩は手に持っていたビー玉を見せてくれた。ビー玉は黒くなっていて、彩のオーラを強く感じる。見ると、沢山の透明なビー玉と、黒くなったビー玉が分けてカゴに入っていた。
こんなに彩の魔力を入れたビー玉を何に使うんだろう。それに、昨日魔力切れを起こしたばかりの彩にどうしてそんな事をさせているのだろうと、風呼は疑問が尽きなかった。
そして、昨日生まれたばかりの動くぬいぐるみたちは彩のそばで縫い物をしていた。何を作っているのだろうか。でもきっと必要な物なのだろう。
彩に、後でねと挨拶して階段を登る。
小柄なミカが小学校入るか入らないかくらいの歳のファミールを抱えて塔まで戻るのは少しばかり不安があったので、力のある風呼がファミールをおんぶし、ミカがオウキを抱っこしていた。
風呼はファミールをおぶっていても階段など余裕で登れたが、ミカは体力があまりないらしく、体重が軽い筈のオウキを抱えて階段を登るだけで息切れをしていた。
「ミカ、大丈夫?」
「問題……、ない、わ」
強がりにしか見えなかったが、ミカはなんとか登りきった。
オウキもファミールもぐっすり夢の中で、ベッドにおろしても起きる気配はない。
二階のオウキの部屋のベッドに寝かせた2人を、動くクラゲの縫いぐるみのクララに任せて一階の大部屋に戻ると、ちょうどアクアが戻ってきたところだった。
アクアは話があると前置きをして、神妙な心持ちで話し始めた。
「何度もあっちと行き来して分かったんだけど…どうやら、あっちとこっちでは時間の進みが違うみたい」
「………えっ?」
「そう…通りで、こちらで夕方の時間に帰ってもあちらはまだ日が暮れてなかったりしたのね」
どういう事だろうと首を傾げる風呼の隣で、ただ日の傾き方が違うだけだと思っていたわ、というミカにアクアが頷く。
「そうなの。私もね、なんだか体内時計がおかしいなぁと思って、ちゃんと時計で計ってみたの。そしたら、日に日にこちらの、夢桜の方の世界の時間の進みが早くなってる事が分かったの」
風呼は話についていずにいた。
ミカはいつも夕方になるとあちらへ行き、そして朝にこちらへ来るスタイルだ。
アクアは日に何度も行き来をしていて、どちらの滞在時間が長いのかもよくわからない。
対して風呼は、必要なものを持って来るために行き来をするだけで、元の世界に行ったとしても1時間もしないうちに帰って来るのもザラだった。なので2人のような感覚は味わえていない。
風呼と同じ様に話について行けてなさそうな人が1人いた。いつも通り、ニコニコとしながら話を聞いているオレンジ色の髪の少女…彩だ。彩は唯一、世界を創造してから1度も元の世界へ帰っていない。蓮でさえ、一度は出ているのに。
そうして話しているうちに、他のメンバーもやってきた。大地は部屋で休んでいたらしく、あくびをしながら階段を降りてきた。
風呼たちに話した内容と同じことをアクアが話すと、海斗は頷き、蓮は興味がなさそうに無反応。大地は目を丸くして「それ大丈夫なのか?」と言った。
海斗は夜、日が暮れてからあちらへ行き、そして朝早くにこちらに戻って来るという美香よりも長くこちらにいるスタイルだ。どうやらいつも腕時計をしているため美香同様に疑問に思っていたらしい。大地は、おそらく元の世界へ行ったのは2度ほど。
「どうやら、時間の体感速度は同じらしいな」
「そうなの。だから問題は、行き来している私達の身体かな?体内時計狂うよね。あまり行き来しない方が良いかも。」
気をつけてね。それで話は変わるんだけどと言ってアクアが話した次の話の内容は、あちらの世界の空間移動に身体がもちそうな人間をこちらに連れてきて住まわせる、という話だった。以前にその話を一人一人としていたらしく、全員すんなり、と受け入れた。風呼も話は聞いていた。
どうやら、普通の魔力のない人間は空間移動に身体が耐えられないらしい。ならどういった人間が耐えられのかというと、遠い祖先に魔法使いなどの人外がいる人、呪われてる人、取り憑かれてる人、魂が強い人などだ。それでもやはり、移動の回数は一回が限度だという。
そうなると、連れてくる対象としてはあちらの世界に未練がない自殺志願者や、偏見などであちらの世界では生きづらい人など。
どうして連れてくるという話になったかというと、自分達子供だけでは創造で物を作り続けていくのにも限界があるため、大人が欲しいということ。オウキやファミールのためにも村、ないしは町が欲しい。
いくら人間の赤ちゃんと違って世話が殆ど必要ないとっても、オウキは人間になるのが目標なのだ。人間のように育てる事に意味がある---。自分達ためだけに作った世界を、他の人も暮らせるようにしよう。
特に反対意見はなかった。
別にいんじゃね、とは大地の言葉だ。
蓮は相変わらず興味がなさそうだし、彩はいつも通り微笑んでいる。
海斗が「此処に一般人が本当に暮らせるのか試すのもありだな」とまるで実験体かのように言うので風呼は思わず凝視してしまったが、「それが1番心配よね。この世界は私たちの力で出来てるから私たちはどうって事ないけれど。」とミカが続け、アクアは「説明して、そして承諾してもらうつもり!」と頷いた。
んん、なんだか研究者たちみたい。
みんなちゃんと考えて凄い。
風呼はぼんやりとそう思いながら、自分たちの世界に人が溢れる所を想像する。皆仲良くて、皆笑っている。お金の為の汚い争いも、虐められない為に自分を偽るとかもない。自殺なんてこの世界ではしようと思わないくらい、みんなが幸せな世界。
…もしかしたら、そうならないかもしれない。
---でも、あたしがそんな世界にするんだ。
---…うん、楽しみ、かもしれない。
風呼はこっそりと決意し、また期待を膨らませた。




