1、プロローグ
戦場。人間の銃火器と魔法がこの地で争っていた。目を疑うような幻想的な光景に新兵は心を奪われ、小隊長の言葉で現実に戻される。
もう一度、鮮明な意識で見た戦場は地獄に近かった。
旧時代に起きた戦いの再現いやこれは――
「――戦争だ」
彼は空を見た。空は灰色の混沌とした模様が浮かんでいる。
ここからは帰ることはできない。絶対に、何があろうと僕は死ぬんだ。
「走れ、走れッ!」
怒号が僕たち新兵たちを前へ、前へと追い詰める。
僕たちが最前線を開く。切り込むだけの機械だ。機械は機械らしく使われそして捨てられるのが常だった。僕らの私情など、割り込む隙間は毛頭なかった。
ただ進んで見つけた敵に表中を付け、トリガーを引くだけだった。なのに、僕らはこんなにも恐怖し、進むことを恐れている。動かしているのは一体感だった、それ以外に思いつきそうもない。
「あっ……」
と仲間の誰かが情けなく呟いた。
瞬間、体が宙に浮いた。数秒間だろうか、長く、時間の中に囚われていた感覚だった。
地面との衝撃。体が悲鳴を上げる。
左右を見ると、仲間も同じ状況に近い。
だが動かない。自分だけが時間から抜け出したように地上に足を突き立てた。
そして辺りを見て理解した。自分だけが生かされたのだ、と。
周りは敵で囲まれていた。前進するだけの僕らはもはや自分だけとなっていた。救いなく、後方の仲間は霧で包まれたように目視することができなかった。
「おい、お前は何を知っている」
言葉が聞こえた。
同じ言語だ、仲間だ! と歓喜を表さざるをえなかった。
しかし、その姿は同種と言い難い姿だった。耳は尖がり、鼻は高く、目は鋭かった。別の人間かとも思ったが周りの奴らから、全く違う言葉を話していたため、こいつが違うとわかった。
「ぼ、僕は……ただの」
震える唇。まともな言葉を喋りそうもなかった。
これからの未来が想像できた。想像力が乏しくも、容易く思い浮かぶ。
「兵士、そうだろう?」
「え……そうですが」
人の垣根を掻き分けるように長身男が現れた。
「あ、あなたは?」
風貌から彼が指揮官、隊長だと見て取れた。身なりは黒い服に、目出し帽を身につけているだけだった。
「私は……そうだな。こちらをまとめるものだ、何か疑問は?」
「あなたは……人間ですか?」
「見ればわかるだろう。私はこの戦争を端的に言って終わらせたいと思っている。この戦争はもはや人類にとってみれば植民地となる領土拡大、しかりは資源確保から他国よりも優位な立場につこうとする。無論、それは他国も同じだ。だがゲートはひとつだけだ、違うかね?」
目線の先にはひときわ目立つ、空間があった。
無理矢理に切り取られたように、ギザギザとした部分が現在戦場をする世界と、我々の世界とがつながっているのだ。時間帯が違っているため、あちらは明るくこちらは戦場ということもあってか一層に薄暗い。
それは突然の産物だと教わっていた。奴らが攻めてきたから、我々が手を取り反撃をしているのだと。
些か行き過ぎた行動だが、批判とともに声は大きくなるが、やはり人類は力を求め、将来を求める。輝かしい未来を掴むために。
「その通りです。ではあなたは」
「君は知っているかはわからないが、私は現状を知ってこの場に立っているのだ。ただみすみすと彼らが縦横無尽に亡骸を重ねていくのはみたくもない。それに彼らは平和を臨もうとはしない。弱い相手ならばなおさら奪い取れるまで奪い取ろうとするのが見え透いている。そこで君に提案だ」
男は彼に左手の人差し指を額に押し付けた。
「ここで君が死ぬ代わりに私と共に彼らを駆逐していくか、はたまた「母国万歳!」と叫んで野垂れ死ぬかのどちらか――選択肢をやろう。時間は十秒だ」
時計を見始めた。限られた時間、それが自分の余命だった。
どちらかを選なくてはならない。それでも不思議と答えられる気持ちが湧いてきた。
「僕は――」
選択肢を選ぶと男は頷いた。
「それが君の最善だと思うのなら、それを信じよう」
と言った瞬間、銃声音が鳴り響いた。
男は背中を向け、立ち去るのみだった。