記録8
1月23日
あの人に会えた
清貴の日記から
私は、どう立ち振る舞えばいいのだ。
まいが私のすぐ側まで来た時、何かに束縛を受けたかのように、私は動けなかった。まいを前にして、何も言い出せなかった。まいへ私の気持ちを伝えることが、はたして正しいことなのか。その疑いの念が、大きくなった。
やはり、私とまいとは住む世界が違うのだ。まいが鶴姫の生まれ変わりであるなどとの、自分に都合のよい解釈は、戯言に過ぎないのだ。
まいは私が話しかけてくるのを、じっと待っていたようにも思われる。夢の中と同じ行いを期待していたのかもしれない。ただ涙を浮かべ、そして私を見上げながら。
されど私は、まいを抱くことは出来なかった。
麻衣 高校の時の日記から
1月25日
朝霧の君は、本当に実在するのだろうか。私の妄想なのかもしれない。私はそう思うようになった。
あの人は、私の目の前で急に消えてしまった。本当にマンガみたいで、現実では考えられないような消え方だった。けっして霧が濃くなって見えなくなったんじゃない。
でも、それでも私は信じられない。確かに、私の目の前に、あの人はいた。身近にあの人の呼気が感じられた。
だから、そのことが私を落ち込ませた。
何を信じればいいのだろう…
少しは良くなっているけど、ずっと続いている頭痛が原因なのだろうか……
1月26日
思い切って美和ちゃんに相談してみた。
美和ちゃんは思ったとおり、ちょっと困った顔をしてから、
「もし、それがまいの妄想なんだとしたら、そこら辺の適当な男子を見つくろって、現実世界でつき合ってみたら。そしたらそんな悩み忘れるかもよ」
と言いよった。
そんなこと出来るもんか!
私は、そんな軽い気持ちでつき合うことなんて出来はしないのだ。
そう、もしかして私の妄想が生み出した人かもしれないけど、それでも私は、朝霧の君を忘れることなんてできない。
「きっとまいは、恋に恋している状態なのよ。だから、自分をわざと困難な設定に置いて、恋に悩むヒロインになってるの」
とも、美和ちゃんは言った。
確かに私は、男子に告白されたことは何回かあったが、つき合ったことはなかった。だから恋愛に関しては初心者だ。恋に恋していても何ら不思議じゃない。
そうだ、もし今度、朝霧の君に会えたら、あの人の胸の中に思い切って飛び込もう!
あの人を、この手でしっかりつかまえるのだ。あの人に、はしたない娘だと思われるかも知れないけれど、あの人が私の妄想ではないことを確かめるためにはそれしかない。
そうだ、そうしよう。
でも、もう一度、あの人に会えるだろうか…
清貴の日記から
陰陽師が、戯れ事はほどほどになされよと言ってきた。私がまいを見初めていることを気付かれたのかもしれない。
陰陽師に気付かれたのだとしたら厄介だ。もし、彼らが私の行いに異を唱えるとしたら、私を止めるのではなく、彼らの得意とする呪術を使い、まいに危害を与えるかもしれない。
そうなってからでは遅い。
彼らの動向を知るために、物見の者を使い、彼らを見張らなければなるまい。
清貴の日記から
何ということだ。
陰陽師が式神をとばしていたとは。
一刻も早く。まいに呪いが及ばぬうちに、