記録7
1月2日
初夢を見ちゃた。すごく不思議な、そしてリアルな夢だった。
夢の中で、私は朝霧の君に会った。朝霧の君は、やっぱり霧の中に佇んでいた。朝霧の君の表情は穏やかで、私に向かって微笑んでた。
私は、彼に近付いていった。彼に近付くにつれて、私は目はうるうるとなっていた。なぜ泪があふれてくるのかは分からなかったけど、私は泣くのを止められなかった。
彼の元まで行くと、彼はそんな私をハグしてくれた。彼のぬくもりが感じられた。
「おかえり」
と彼が言った。
私が、彼の腕の中で彼を見上げると、優しく微笑んでくれた。なぜか安心できた。出来ることなら、いつまでもこうしていたかった。
でも朝霧の君は、私を抱いていた腕をそっと離すと、
「今度会う時には、私の方から、をごころをもってそなたに話しかけるから、そなたも怖がらないでほしい」
と言った。
そこで目が覚めた。
夢をみながら泣いていたのだろうか、目に泪がたまっていて、部屋の景色がかすんでいた。
ベッドの上で、少しぼんやりしてたけど、私はハッと思った。
慌ててベッドからおりて、窓に近付きカーテンを開けてみた。でも、霧は出ていなかった。朝霧の君もいなかった。
やっぱり、夢? でも、本当にリアルな夢だった。それに、朝霧の君が言った「をごころ」という言葉を私は知らなかった。後で辞書で調べたら、「勇気」という単語の古語だった。高校の授業で習ったのかな? 習った記憶が無いんだけど。もし、習っていないとしたなら、すごく不思議だ。
清貴の日記から
まえに陰陽師から習ったことのある、想う相手の夢に入ることのできるまじないを行ってみた。
私は、霧の中に立っていた。霧の向こうにまいが立っていて、まいも私にすぐに気付いた。
私が微笑むと、まいもにっこりと微笑んで、そしてこちらに歩いてきた。
まいは、歩きながら何故か泪を流していた。私の側に来たまいを私は抱きしめた。
「おかえり」
鶴姫が現世に戻ってきたような錯覚を覚えて、私はそう口走っていた。
まいが私を見上げたので、私はまいを愛おしく見つめた。
私は思わず、
「今度会う時には、私の方から、をごころをもってそなたに話しかけるから、そなたも怖がらないでほしい」
と、囁いていた。
そうだ、いつもまでも想うばかりでは、私の気持ちは伝えられぬ。
禁忌を犯してもかまわぬ。この心を伝えるのだ。
麻衣 高校の時の日記から
1月10日
なんか調子が悪い。今日一日頭痛がひどかった。
一昨日に病院でもらったお薬を飲んでたけど、夕方ぐらいまで頭の中に法隆寺の鐘が鳴り響いていた。頭痛の原因がはっきり分からないのがすごく不安。
4月からは三年生になるんだから、受験勉強もしなくちゃいけなくなる。こんな頭痛が続くようなら、勉強も出来ないし。ほんとに困った。って、困ってるのかな私?
とにかく、頭痛だけには辟易している。
今日覚えた「辟易」という漢字使ってみた。ちゃんと受験生してるじゃない、私。
また頭が痛くなる前に、今日は早く寝ようっと。
1月18日
一週間近く経つのに、まだ頭痛がたまにある。病院のお薬ちゃんと効いているのかな?
こんなに続くのなら、もっと大きな病院で診てもらう必要があるのかもしれない。
やだなあ…、大変な病気だったらどうしよう……。
でも、少しだけ安心できることがある。「美人薄命」とかいう言葉があるけど、私ちっとも美人じゃないから、その点は安心!
頭痛のせいか、最近夢を見てない。だから夢の中でも朝霧の君に会えることがない。朝霧の君に会えるための必須条件の霧も、このところ発生していないし。
ああ、朝霧の君に会いたいよ~。
やっぱり、私恋し始めてる。
美和ちゃんに相談してみようかな。私、どうしたらいい? って。
きっと美和ちゃん、困った顔で、曖昧な受け答えしかしてくれないだろうけれど。
でも、誰かにこの悩み聞いて欲しいよ~。
進み方が遅いとは分かってはいるんだけど…。