記録3
清貴の日記から
不覚にも、あの少女に私の存在を気付かれてしまった。しかし、あの少女は、私の身なりを見ても驚いた様子はなかった。
私の出で立ちといえば、古からの物であるし、あちらの世界の少女から見れば、私の姿は、ずいぶんと奇異に映るに違いない。にもかかわらず、少女はそんな私に向かって、笑って手を振ってくれた。その様子が、在りし日の鶴姫とよく似ていて、私は知らず微笑んでいた。
あちらの世界に関わるのは禁忌だとは分かっている。しかし、私はそうせざるにはいられない。誰か、私をいさめてくれる者はいないものか。陰陽師ではない、他の誰かが。
麻衣 中学生の時の日記から
1月28日
歳をとってしまった。なぜって? 今日は私のはっぴいばーすでぃなのだ。
学校で、カナちゃんからプレゼントをもらってしまった。私の好きなスヌーピーのついた文房具一式だった。カナちゃんに、私がスヌーピーが好きだってこと、言ったことあったっけ? さすが、お友だちだ。 私もカナちゃんのお誕生日を忘れないようにしておかないと。あれ、カナちゃんの誕生日って、いつだっけ? 明日聞こうっと。
2月2日
今朝も、また霧が出ていた。一夜市って、霧の都ロンドンよりも霧の都かもしれないと思う。
もしかすると、彼に会えないかなと思って、霧の中に立ち続けたけど、どこにも彼の姿は見えなかった。
霧の中から突然現れたトラックが、私の目の前を通り過ぎていった。あまりにも突然だったので、私は驚いてしまった。
その時、私は思い出した。
私が小さい頃、同じように霧の中から現れたトラックにひかれそうになった。でも、私がぎゅっと目をつぶった時に、誰かが私を抱え上げた。気がつくと、私はおじいちゃんの家の前に立っていた。
もしかすると、前にカナちゃんが見たという不思議なことは、私のことだったのかもしれない。でも、消えたってどういうことだろう? 明日、カナちゃんに聞いてみよう。
2月3日
頭の中がモヤモヤってしている感じだ。
今日、カナちゃんに、不思議なことについてくわしく聞いてみた。私が、その当事者だったのかもしれないと前置きしてから、くわしく聞かせてって頼むと、カナちゃんは昔のことだから、って言いながらも話してくれた。
小さな女の子は、おかっぱ頭で黄色い服を着ていたそうだ。私も、それを聞いて思い出した。確かに私は、当時おかっぱ頭にしていて、そして黄色い服をヒヨコさんみたいだと気に入っていてよく着ていた。
女の子を助けた男の人は、高校生ぐらいの年齢の人だったらしいけど、着ていた服が変だったらしい。
カナちゃんが言うには、神社の神主さんが着ているような服を着ていたらしい。
もしかして、あの人? 一瞬そう思ったけど、そんなことはあり得ない。だって、その時からもう10年近く経っているんだから。
あの人が、私を助けてくれた人と同じ人だなんてことは絶対にないのだ。
カナちゃんに、消えたってどういうこと? と聞いてみた。霧の中だったから、消えたように見えたんだろうと思った。でも、カナちゃんは、しっかり首を横にふって言った。 本当に、消えたのよ。トラックが二人にぶつかると思った瞬間に、フッと消えてしまったの。
カナちゃんが、言ったことが本当ならば、私も一緒に消えたことになる。そんなことって、あり得るの?
今夜はベッドに入っても、モヤモヤが消えそうにないなあ。