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記録1

   麻衣 中学生の時の日記から


5月10日 

 東京から、ここに転校してきてから、今日でちょうど一ヶ月。

 転校してきた初めの頃は意味が分からなかった友だちの方言も、何とか分かるようになった。

 こっちで出来た友だちは、私のことを気づかってくれているみたいだ。

 私のお父さんが事故でなくなったことを、何となく知っているらしい。何となくと言ったのは、そのことを直接聞かれたりしないからだ。

 一夜市は、お母さんの両親が住んでいる。つまり、私のおじいちゃんとおばあちゃんだ。

 お父さんが亡くなって、お母さんは自分の故郷に戻ることを決めた。

 私も幼い頃、おじいちゃんとおばあちゃんに会いに、この一夜市に来たことがある。

 小学生の低学年の時だった。確か小3の頃だと思う。

 私が初めてこの一夜市に来た時は、冬の寒い時期で、朝起きたら外の景色が真っ白だったことをかすかに覚えている。

 真っ白だったのは、一夜市で起こる自然現象だった。一夜市の中を流れる狗魔川から発生する霧が、一夜市をおおってしまうのだそうだ。

 私は、あの霧の日の朝、誰かに声をかけられた気がする。それが誰だったのか、思い出すことができないけど、その記憶をはっきり思い出したいという気持ちだ。

 冬になったら、あの霧が見れるのだろうか。

 霧の中に立ったら、あの日のことも思い出すことが出来るかもしれないと思う。

  


7月5日


 今日、カナが変なことを言った。

 私が通う一夜市第二中学校の七不思議を、お友だちに教えてもらっている時だった。

 中学校の七不思議のほとんどは、例えば、音楽室のピアノの音が誰もいないのに聞こえてくるとか、どこの中学校にでもあるような、ほんとにあったら怖いけど、でも怖くない話ばかりだった。

 そんな時に、カナが変なことを言った。

 小さい頃に、実際にカナが見た不思議なことなのだそうだ。

 霧の深い朝、自分と同じくらい年齢の女の子が、車にひかれそうになって、その時、高校生くらいの男の人が霧の中から現れて、その女の子を抱き上げると車がぶつかると思った瞬間に消えてしまったというのだ。

 その話を聞いた時、何か気になった。

 でも、何で気になったのだろう? 



9月2日


 あんなに楽しかった夏休みが終わってしまった。

 あ~~あ! な気持ちだ。

 もっと早く宿題やっとけば良かった。

 そしたら、後半にあせる必要なんて無かったのに。

 男子の人たちの中には、まだ宿題が終わっていない人もいて、今日から居残り勉強を強制的にやらされていた。

 今朝、不思議な光景を見た。狗魔川の川面一面に霧がかかっていた。幻想的で美しかった。一夜市では、もうこの時期に霧が発生するのだろうか? だとしたら、スゴイ!



11月18日

 朝起きたら、いつもより暗かった。

 雨が降ってるのかな、やだなあと思いながら部屋のカーテンを開けたら、窓の外は真っ白だった。

 何これっ? って思った。

 学校に行く時間になって外に出たら、辺り一面真っ白だった。「あ、そうか」と思った。

 私は、視界が悪くなった霧の中をゆっくり歩いていった。

 モノクロの世界に迷い込んだみたいで、すごく幻想的だった。

 私の中学校は小高い丘の上にあるので、坂道を上っていくと、少しずつ霧は薄くなっていた。

 学校に着いてから周りを見てみると、一夜市の町が白い霧におおわれていた。

 白い霧は、波のようにゆっくりと動いていて、何か自分の意志をもった生き物のように感じられた。

 でも、2時間目が終わった時には、霧は晴れていて、いつもの一夜市の景色に戻っていた。

 



    清貴の日記から


 今朝、あの少女を見た。幼かったあの幼女が、いつの間にか大人びてきていたが、幼女の時の面影があった。

 白い霧の中に、あの少女の姿を見つけた時、私の胸は高鳴った。

 あの少女が幼女の頃、亡くなられてしまわれた鶴姫の幼き時とよく似ていると思っていたが、成長した姿はますます鶴姫と似ていた。

 もしかすると、あの少女は鶴姫の生まれ変わりではなかろうか。

 そう考えると、あの時の私のとった行いは間違いでは無かったのだ。

 陰陽師からは、あちらの世界に干渉するなと禁じられていた。

 しかし、霧がたゆたう中、あの幼女に今にも襲いかからんとしていた、化け物じみた鉄の塊から幼女を救った私の行いは、正しかったのだ。




   麻衣 中学生の時の日記から


12月22日


 もう少しで冬休みだ。

 冬休みになったら、何をして過ごそうか。カナは年末近くまで部活の練習があると言っていたし、昨日渡された宿題もすぐには取りかかる気にもなれないし。

 あーあ、冬休みの初めはたいくつになりそうだな。

 相変わらず、一夜市の朝は霧が発生している。濃霧注意報というものが出されている。

 今朝、外に出てみたら、真っ白い霧が辺りをおおっていて、5メートル先も見えなかった。こんな日は交通事故もあるのかもしれない。ライトをつけた自動車が、ゆっくり走っていくのが見えた。それを見た時、身体がふるえた。何でだろう?



12月25日


 今日、すごく不思議な格好をした男の人を見た。

 その人の着ている服が変だった。昔の人が着ているような、そう、歴史の教科書のさし絵にあった、平安時代の男の人が着ていた着物に似ていた。どこかの神社の神主さん? 

 でも、その人は高校生ぐらいの年齢にしか見えなかったし、霧の中にじっと立っているのも変だった。

 髪も長くて後ろで結んでいた。チラッとしか顔は見なかったけど、すごくイケメンだった。

 でも、その人の顔を見た時、なぜか、なつかしい気がした。どこかで会ったことがあったのかなあ?  

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