車中にて
贅沢にも最初の移動には飛行機を使った。実を言うと僕は高所恐怖症なので飛行機はちょっと苦手なんだけど、そんなことを言うと真理さんから冷たい目で見られそうなので言わなかった。ただ、飛行機に搭乗する時に、僕が発したかもしれないビビリのニオイで、田畑君にはばれてしまったかもしれないけど。
熊本空港まで飛行機で移動した僕たちは、熊本駅から、『かわせみ・やませみ』という一夜市までの観光列車に乗り込んだ。で、今はその贅沢な観光列車の車中の人たちの一員になっている。
ものすごーくリッチな気分だ。こんな贅沢しても良いのだろうか?
僕がそう自問するには訳がある。
自分で旅費を捻出しているのなら、そうは思わないだろう。もし僕が自分で旅費を出すのなら、東京から各駅停車の列車を乗り継いで旅費を浮かそうとする。実際、そのつもりだった。
その提案を真理さんにした時、案の定、半眼モードの冷ややかな目で、「シュン君、あんた本気でそんなバカなこと言ってるの? 」と詰られた。
でも僕はその質問に肯いていた。そんな僕をあきれた表情で見た真理さんは半眼モードの目つきから、普段の美少女モードの目になり、ふーとため息をつくと、「いいわよ、二人の旅費もボクが出してあげる」と言ったのだ。その後、「気にしないでね。ボクんち、ちょーリッチな金持ちだから」と付け加えて。
だから、この旅行の費用は真理さんのおごりだ。ただ、熊本駅で買い求めた駅弁なんかの費用は自分で出した。旅行費用の一切合切を真理さんに出してもらおうなんて、そこまで僕は厚かましくない。偉いぞ、僕!
その駅弁を食べながら、僕は車窓から流れていく外の景色を見ていた。眼前には畳表の原料になるイ草畑が広がっているが、まだ田舎に来たという感じはしない。
田舎に向かっているなと感じ始めたのは、僕と田畑君が駅弁を食べ終わった頃だった。
あ、ちなみに真理さんは、羽田空港で買ったシュークリーム2個を昼食代わりにしていた。栄養かたよると思うんだけどなあ。
その頃、列車は山間部に入り、狗魔川沿いを走り始めた。狗魔川は1級河川だそうで、すごく大きな川だなあと思いながら山間を流れる雄大な川の景色をぼんやりと眺めていた。でも途中から、川トンネル山山トンネル川川川トンネル山山の繰り返しの景色に飽きてしまった。
そこで、僕はこの旅行、つまり一夜市に向かうことになったきっかけをバッグから取り出した。真理さんがくれたプリントだ。
まだ、日記の続きを読み終えていなかったので、一夜市に着くまでには読んでしまおうと思ったのだ。
日記の内容は、真理さんが言った平行宇宙、つまりパラレルワールドがあると信じて読むと確かに納得できる。しかし、本当にそんなことが現実にあるのだろうか? 真理さんも平行宇宙について説明してくれはしたが、信じてはいないと言った。だとすれば、この日記に書かれていることって何なのだ?
日記を読みながら僕の頭の中では、ハテナマークの4回転ジャンプが頻繁に行われていた。
その頃列車は、赤く塗られた鉄橋を渡り、一夜市駅に近付いていた。




