変な依頼
ランチの時間、真理さんがオムライスを満足そうに食べ終えた後に、ショルダーバッグから取り出したのは、大きめの封筒だった。
「シュン君とター君の二人に見て欲しい物があるのね」
そう言って真理さんは、その封筒から三冊のノートのようなものを取り出した。その内の二冊はどこにでもありそうなキャンパスノートだったが、もう一冊は古文書みたいにも見えた。何しろ背表紙の部分が細い紐で綴じ合わせてある。紙の質も古そうだ。
「何これ? 」
田畑君が尋ねた。
「まっ、簡単に言うと日記ね」
「真理さんの? 」
僕が訊くと、真理さんがキッと僕を睨みつけた。
「何でボクが、シュン君にボクの日記を見せる必要があるわけ? 」
「いや、あの、…ごめん」
僕はとりあえず頭を下げた。
「ったく。その短絡的な思考はどうにかならないの」
真理さんの指摘に、僕は再び「ごめん」と頭を下げる。僕の横で田畑君も頭を下げた。
どうやら田畑君も、僕と同じことを考えていたらしい。
「手にとって見ても良いわよ。ただし、その古そうな一冊は取り扱いに注意ね。ちょっと痛んでいるから」
僕と田畑君は、二冊のキャンパスノートの方をそれぞれ手に取った。
ページを開いてみる。その中に書かれている文字は、女の子が書いたような文字だった。
確かに真理さんが言うように、その内容は日記だった。ただ、毎日のことが書き留めてあるかというと、そうではなく、日付はとびとびになっていた。
ただ、見ず知らずの他人の日記を読むことは気が引けるので、書かれていることをじっくり読むことはしなかった。
田畑君も同じ気持ちだったのだろうか。すぐに僕たちはノートをテーブルの上に置いた。
僕が古そうな一冊を手にとってページを開いてみると、そこに書かれていた文字は余りにも達筆すぎて読むことが出来なかった。読めないので、その一冊もすぐにテーブルの上に置いた。
「その二冊のノートは、九州のある町に住む、ある女の子が書いたもの。中学生の時に書いたものと、高校生になってから書いたもの。そして、古そうな一冊が、その女の子と関わりをもった男子が書いたもの。男子が書いた方は、日記と言うより記録ね」
真理さんが説明したが、意味するところが全く分からない。
「さっぱり分からん」
田畑君が呟いた。
「まあ、分からないのも当然ね。でも、この三冊の内容を時系列に並べると、不思議な物語になるのよ」
「まだ意味が分からない。その不思議な物語が僕たちに何の関係があるのかな? 」
僕が首を傾げると、田畑君も「わが輩もちっとも意味わからん」と言った。
「この三冊と一緒に依頼文が入っていたわ。依頼者は、この日記を書いた女の子の親友だった子。日記を書いた子は、今現在行方不明らしいの」
「じゃあ、その子を探して欲しいという依頼? 」
「でも、確か真理っぺ、いや真理さんは、近隣の事件しか受け付けないと言っとったはずやけど」
「依頼人の希望は、失踪人の行方の調査を望んではいないの。この三冊に書かれていることが本当のことなのかを調べて欲しいということなの」
真理さんが説明したが、依頼の内容がまだうまくのみ込めない。
そんな僕たちの表情で察したのか、真理さんが「と・に・か・く」とはっきり宣言した。
「ボクが読みやすいように、必要な部分だけを時系列に並べてワープロで打ってきたから、これを読みなさい。男子が書いたもの、つまり清貴っていう人が書いたものだけど、それも現代語訳に直しておいたから」
真理さんが、僕たちに数枚のA4のプリントを綴じた物を渡した。
現代語訳? と疑問が頭に浮かんだが、とりあえず僕と田畑君は、真理さんが言うところの不思議な物語を読み始めた。