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第九十話 真面目な話




「お主がリンシュん所の秘蔵っ子か」


 開口一番の台詞。俺やエクスカリバー、そしてクーデリアのものではなく、客室の豪華なソファに腰を下ろし、ぶどう酒をかっくらいながら俺を睨みつける、ルトンサブマスターの口から放たれたものだった。


「あががががががががががっ(秘蔵っ子と言う言葉の意味はわかりませんが、どうもはじめまして。東部から派遣されましたサトーと申します)」

「心の声がちゃんと出ていないぞ、大丈夫か?」


 早速バレたーーーっ!? 出オチ過ぎる!!

 や、やばい。やばすぎる! 前方には俺の雇用的な首を切ることができる大人物。後方には物理的な首を切ることができる女忍者。

 前門の虎、後門の狼とはよく言ったものだ。どっちに転んだとしても俺の人生詰んでるじゃねぇか!

 どうする俺! どうすればいい!? いや、とりあえず形だけでも言い訳をしておこう。ダメージコントロールというやつだ。せめてリンシュに被害が及ばないように気を回さなければ!


「すべてリンシュサブマスターの差金です。二重スパイでも何でもやりますので見逃してください」

「あっさりと上司を売りましたね」

「いっそ清々しいが、あやつの教え子ならばさもありなん」


 猫をかぶって本性を表さないリンシュに対する、珍しくまともな評価であった。


「落ち着け。何も取って食おうという訳でなし。儂は別段、貴様の行動を咎めているわけでは無いのじゃぞ?」

「はっはっは、何を仰っているのかわかりません。私はリンシュサブマスターに忠誠を誓っているわけではありませんので、何ならここでルトンサブマスターの靴を舐めて差し上げましょう。と言うか舐めさせてくださいお願いします」

「とりあえず少し落ち着かせましょう。はっ!」

「あばしっ!?」


 クーデリアによる平手打ちが俺の頬を襲った。彼女としては軽めの威力のつもりだったのかもしれないが、いかんせんレベル差というものがあるため、俺にとっては助走付きの全力グーパンとさして変わらない威力であった。

 俺の体は軽業師のごとく空中を見事一回転半。数秒の滞空時間を記録してから頭から床へと落ちた。


「いや死ぬわ!!」

「思いの外頑丈ですねサトー様」

「クーデリアよ、ちゃんと手加減せんか。怪我をしてはリンシュに言い訳がたたんじゃろうが」

「即死でなければ私が魔法でなんとかしますが? という訳で、正気に戻るためにもう一回転行きましょうか」

「怖い怖い! と言うかやめて! 正気だから! 何なら最初っから正気でしたから!!」

「…………ちっ」


 今舌打ちが聞こえた気がするんだが、聞かなかったことにしよう。

 

「やれやれ……とにかく最初からやり直そう。儂はルトン・ヴォルフ18世。知っているとは思うが、冒険者ギルドのサブマスターじゃ」


 ルトンサブマスター。冒険者ギルドのサブマスターでありながら国の下院議員で以下略。ともかく凄く偉い人である。

 

「ど、どうもはじめまして。東部冒険者ギルド・リール村支部の支部長、サトーと申します」

「で、序列審査について偵察に来たんじゃったか?」

「あががががががっ」

「「それはもう良い」」

「…………すみません」


 どうやら、こちらの手の内は完全に読まれているようだった。

 何処でそれらの情報を嗅ぎつけたのかは分からないが、サブマスターと言う強力な地位に就いている御仁だ。独自の情報網を持っていても不思議ではない。

 なにせ凄腕女忍者を雇っているほどだ。ほぼ俺とリンシュしか知らない情報であっても、入手できる伝手があるのだろう。


「リンシュもこのような若手を寄越すとは酷じゃのう。「スパイを送るから扱いてやって」と言っておったのは、冗談ではなかったのか」

「って、出処あいつかよ!?」


 ネタバレの発信源はリンシュだったらしい。


「そもそも、序列審査会について隠すことなど無いからのう。儂はそろそろ引退する予定なのじゃ。政治の方に集中しようと思っておる」

「引退…………えっ!? ルトンサブマスターがですか!?」

「うむ。その件を何処からか嗅ぎつけてきたのか、リンシュが儂に接触してきてな。「協力しないか」と持ちかけてきたんじゃよ。まあ、儂はリンシュをことさら推すつもりはないが、後世の育成くらいは手伝おうと思ってな」

「それで、このドッキリですか。心臓を鍛えるためのものかもしれませんが、正直ここで人生とおさらばかと思いましたよ」

「儂を何じゃと思っとるのやら。こんなにも気さくなナイスダンディじゃと言うのに」

「お言葉ですがルトン様。貴方の肩書を考えると、一般庶民からは大魔王としか見えないかと思います」

「なん……じゃと?」


 どうやらこの御仁、結構お茶目な性格を持つらしい。カイゼル髭を持つ人間にしては、高圧的な態度も感じられなかった。


「ま、まあ話を戻そう。リンシュと儂は、昔から交流があってな。彼奴が子供の頃、まだ弱小だったハーケンソード家を立て直して、儂の家に勉強のためにと転がり込んできよったのよ」

「召喚者らしい、トンデモ略歴だなぁ。と言うか、よく許可しようとされましたね?」

「う……む。普通なら断るところなんじゃが、召喚者を相手にすると、なぜか断れぬのじゃよ。まこと不思議なことにな」


 ルトンさん、それは召喚者特有のご都合主義展開と言うのですよ。


「その後交流は続いて今に至る。教え子のようなものじゃな。が、そんな奴ではあるが、此度の序列審査会では応援はせん。少しばかり若すぎる」

「召喚者は十代で重役も珍しくありませんが?」

「確かに、お主もすでに支部長じゃしな」


 それはリール村という辺境地を知らぬがゆえの発言なのだろう。左遷以外の何物でもないからな、あそこは。


「別に、若いから駄目というわけではない。若くても有能な者はおるからなぁ。しかし、それでも経験値は歳を経たほうが培われるものじゃ。ということで、リンシュが序列一位はまだ早い」

「では、ルトンサブマスターは東部のサブマスを推すと?」


 サブマスターの数は全部で三人。中央にリンシュ、西部にルトン。そして俺が所属している東部地域に、ヒューズ・フォン・アルカディアと言うサブマスターが居る。

 自分の地域のことなので、ルトンサブマスよりは知っている人である。

 東部の平民出身ながら、東部の穀倉地帯を発展させて一代で貴族へと成り上がった叩き上げ。元は農業ギルドのサブマスターをやっていたのだが、なぜか唐突に冒険者ギルドへと鞍替えして、すぐにサブマスへと上り詰めた優秀な人物だ。

 経歴がアクロバティックであるが、その能力は間違いなく優秀。現在の序列は二位と、リンシュの上に位置する人であり、ルトンサブマスが審査会を辞退するとなれば、間違いなく彼が冒険者ギルド次期ナンバー2になることだろう。


「ヒューズを推すつもりもないが、どちらかと言われたら彼奴じゃな。まあ、あちらはあちらで、農業ギルドの回し者だと言う連中もいるが」

「では、リンシュサブマスは今回の審査会では不利だとお考えですか?」

「そもそも、リンシュがそこまで審査会にこだわっているようにも思えんがなぁ。奴は、自分に必要な権力に対しては貪欲じゃが、権力欲とか名誉欲は持ち合わせておらんからのう。出世欲も、サブマスを目指していた頃に比べるとかなり身を潜めたな」


 確かに、自分に命令する人間が居ることを嫌がるリンシュであるが、私生活はかなり無欲だったはずだ。

 物を集めたり、豪華な食事を取っているところを、一度も見たことがないし、ルトンサブマスのような屋敷を構えているわけでもない。

 でも、だとすると何のために審査会に向けて準備をしているのだろうか?

 秘密主義過ぎて、俺ごときでは何がやりたいのかさっぱりわからん。


「ともかく、儂は今回の審査会には首を突っ込まんし、そちらも好きにするが良いぞ」

「うーん…………」


 さて、かなり平和的に済んだ会談だったが、果たしてこれで任務達成と報告して良いものだろうか?

 わざわざリンシュ本人が西部へと赴き、ルトンサブマスと交渉してまでねじ込んだ今回の会談。予定調和と言えども、これほど実りの少ない話し合いのために、あの女がこれほど手間ひまをかけるとも思わない。

 見える。このまま帰ったら「はぁ……つっかえ」とか言われて心を折られてしまう自分の姿が見えるぞ!



『ふっふっふ、お困りのようでござるなサトー氏』



 会話のさなか、何やら野太い声が聞こえてきた。と言うか、エクスカリバーの声である。


「ちょっ!? お前、なんでこのタイミングで出てきた!?」

「ん? 今の声は誰の……」

「いえ! 誰の声でもないです! と言うか私の声です!」

「お主、自分のことをサトー氏などと言っておったか?」

「と言うか、背中のエクスカリバー君、丸見えですよ?」


 いつの間にか、姿を消して背中で眠っていたはずのエクスカリバーが俺の手元に出現していた。もはや何の言い逃れもできない有様である。


『何やら真面目な話でつまらなかったので、一石を投じてみようかと思ったのでござる』

「でっけぇお世話だなオイ。真面目な場で真面目な話をしていて何が悪いんだよ」


 このような場に、召喚者といえども刃物を持ち込んだことは非常にまずい。と言うか、今更ながらこれは盗聴と変わりない状況なのではあるまいか。

 ルトンサブマスが気さくな御仁だということはわかったが、とは言え絶大なる権力を持っていることの否定にはならない。

 やはり俺は、ここで首を切られてしまうのではなかろうか。


チラリ


 恐る恐る、ルトンサブマスとクーデリアの顔を見た。

 刃物を持ち込んだにしては、思いの外冷静に――――と言うかいつものテンションでこちらを見ているだけのクーデリア。理由は分からないが、ひとまずこちらは心配なさそうだ。

 そして残る一方のルトンサブマス。


「…………ばー」

「は、はい?」

「カリバー氏ではありませんか! ほ、本物!? まさかこんな所でお会いできるとは、思っても見ませんでしたぞ!!」

「…………はぁ?」


 波乱の会談。第二ラウンドのゴングが鳴った。




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