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第七十五話 メイド喫茶のトラウマ





「リュカン・ヴォルフ・パーパルディアの――――婚約者です!」


リュカンの片腕を胸に寄せ、可愛らしい表情と仕草を持ってルティカが言い放った。

恋する乙女。頬を桃色に染め上げた彼女には、そのような少女漫画チックな呼び方がふさわしい。


一方で、そんな幸せそうな少女を見る俺は、口をあんぐりと開けてその光景を見ていた。

婚約者? つまり……結婚を前提にお付き合いして、なおかつ結婚が確定している状態の人間を指す言葉。

だがしかし、少し待っていただきたい。

リュカンの年齢は十七歳。俺よりひとつ下であったはず。

そしてルティカはそれよりもしたであろう。パプカのように外見詐欺な人間でなければ、中学生もしくは小学生の高学年と言った年齢だ。

なおかつ美少女。これはもはや事案発生と言って良いだろう。


「……ぬ? い、一体何が……」


どうやらリュカンが目を覚ましたらしい。

丁度良いタイミングだ。俺は彼の胸ぐらをつかんでルティカから引き離す。

そして笑顔でこう告げた。


「お前ちょっと裏来いや」


状況を理解できていないのか、困惑の表情を浮かべるリュカンの首根っこを掴んで、路地裏へと引きずっていった。






*    *



「待て待て! 一体何をそんなに怒っているのだサトー!」

「何がマテだ! 俺はマテ茶よりも緑茶派なんだよ!!」

「何の話!? カリバー氏! こやつは一体何の話をしているのだ!?」

『あ~、ルティカ氏のことでござる。婚約者と言う話を、リュカン氏が気絶している間に説明されたというわけで……』


エクスカリバーの言葉に、リュカンは眉をひそめて頭を抱えた。


「そういう事か……サトーよ、これは誤解だ! だからその拳を収めよ! カリバー氏からもなんとか言ってくれ!」

『リア充爆ぜろでござる』

「助け舟が出ない!? カリバー氏は事情を知っているだろう!? サトーよ、事情を説明するから少し落ち着け!」


確かに、話も聞かずに悪人と決めつけるのは問題だ。

事情を説明するからと言うには聞いてやろう。もちろん、その結果いかんによっては、逮捕権を持つギルド関係者として権利を行使することになるが。


「ルティカちゃんは、我の婚約者ではない。ただの幼馴染だ!」

「はい、ギルティ」

「決断早っ!?」


美少女が幼馴染で婚約者宣言されるほどの仲だぁ!?

ふざけんな! ラブコメじゃねぇか! そういう展開は召喚者だけでもうお腹いっぱいなんだよ!!


「そ、そのような殺気のこもった目で睨みつけるな! ルティカちゃんは幼馴染で、たまにああいった冗談を言うんだ! イタズラのようなもので他意は……」


「ええっ!? そんなぁ、お兄ちゃん! ルティカとのあのあまい日々はそんなに退屈だったんですか!?」


「ってうわぁ!? ルティカちゃん!?」


俺とリュカンの間に、ルティカがひょっこりと頭を覗かせた。いつの間に……


「ベットの中で囁いたあのセリフが忘れられなくて……でも良いんです! ルティカはお兄ちゃんがどんなに私のことを嫌ってても、そばにいることが出来るなら……」

「待てぇい!! 根も葉もない嘘を吐かないでよルティカちゃん! 君と寝たのなんて、もう十年も前の子供の頃の話じゃないか!」


言葉遣いがいつもの中二病チックなものから、普通のものへと変化している。こちらが彼の素なのだろうか?


「追加訴訟、児童虐待、冒険者の不祥事……」

「待て! 違う! 僕は……いや、我は後ろめたいことは何もしていない! カリバー氏も黙ってないでなんとか……」

『リア充爆ぜろでござる』

「やっぱり助け舟が出ない! 誤解なんだってばー!!」


とうとうリュカンが泣いてしまったでござる。

そろそろ悪ふざけを止めて、きちんと話を聞くべきだろうか。



という訳で、再び場所を変えてリュカンの話を聞くこととなった。

場所はリュカンの自宅前。メイド喫茶の店内である。

ルティカと同じ制服を着込んだ女性たち。猫耳犬耳うさぎ耳。羽の生えた女性や、俺と同じ人族の女性もいた。

やけにピンク色に染まった店内で、ジュースの入ったコップをあおりつつ、泣きべそを描いたリュカンと並んだルティカから説明を受けている。


「いやぁ、すみません。お兄ちゃんの反応が面白くて、ついつい」

「いやいやこちらこそ。リュカンの反応が面白くて、ついつい」

「貴様ら覚えておけよ」


リュカンが睨みつけてくるのは放置。


「お兄ちゃんとルティカは幼馴染です。家がご近所で、昔から親交があるのでお兄ちゃんとお呼びしています」

『拙者としては、美少女が幼馴染ってだけで絶許判定でござるが』

「カリバー氏が思っているような関係ではない。と言うか説明はもうしているはずだが、婚約者というのはルティカちゃんの冗談だ」

「えー、ルティカとしてはそこは冗談ではなく本気なのですけど! ほら、ルティカってばお兄ちゃんのこと大好きですし!」

「…………やっぱり訴訟」

「違うと言っているだろう! ルティカちゃんもいい加減にしてよ!」

「あっはっは。まあそのあたりの真偽はともかくとして、サトーさん。聞くところによると、カリバーさんと一緒に視察をされるとか。そういう事なら、ルティカにおまかせあれ!」


そう言ってルティカは立ち上がり、控えめな胸を拳で叩いた。

確かに、メイド喫茶で働く彼女から話が聞けるなら、それ以上の視察はないだろう。店側にアポを取る必要がない分、時間の節約にもなる。



「ちょっと店長~、働いてくださいよぉ。他にもお客さんがいるんですから~」



店内のメイドさんが一人、何故かルティカを見ながらそう言った。


「ルティカはちゃんと働いています。お兄ちゃんとそのご友人を接待すること以上の仕事など、ルティカは思いつきません。あと、店内でルティカのことを呼ぶ場合は『ルティ☆ルティ』と呼んでください」

「はーい、ルティルティ」

「違います! 『ルティ☆ルティ』です!」


一体どうやって発音しているんだろう。


「と言うか、え? 今店長って……」

『あれ? そう言えば、まだきちんと紹介はしていなかったでござるな。サトー氏、彼女はルティカ・ヴォルフ・シュトリッヒ。メイド喫茶チェーン店『ピュアリスメイドール』の元締め、ゴトー財閥の三女でござる』

「そしてここ、住宅街第三支部店『にゃんにゃん横丁』の店長でもあります! えっへん!」


いや、えっへんと言われてもなぁ。


「ちなみに失礼だけど、お歳は?」

「今年で十四歳になりました!」


やっぱり子供じゃないか。労働基準法……いや、この世界にそんなものは無かったな。


「あれ? でもヴォルフの街って義務教育がある街だったよな? 学校は?」

「今日と明日はお休みです。普通に学校には通っていますから」

「そうだぞサトー。普段は学業、休みはメイド。ルティカちゃんは非常に多忙のようだ。なのでそろそろ御暇することにしよう」

「おっと、逃しませんよお兄ちゃん。久しぶりに帰ってきたと思えば、全然会いに来てくれないんですから。サトーさんの視察を手伝うんでしょう? ついてきて下さい!」

「痛だだだだだだだっ」


さすが獣人。リュカンの肩を掴むルティカの指は、肉に力強く食い込んでいるようだ。


「ああ、なるほど。リュカンがメイド喫茶に来たくなかった理由ってこれか? 贅沢なやつめ」

『うーん、ルティカ氏が原因では無いでござる。正確に言うと、彼女の姉君が……』

「姉? そう言えばさっき、ゴトー財閥の三女だって…………ん? ゴトー?」


俺はその名に聞き覚えがあった。

召喚者の名前であるが、この街ではその子孫に当たる人たちが普通に使っている名前でもある。

リュカンだって、本名はスズキと言うらしい。

そしてゴトーと言う名前、少し前に話した少女が名乗っていた記憶がある。


「…………ティアル?」


ボソリと呟いたその名前は、はた迷惑な召喚者。キサラギ・コースケのハーレムパーティーの一角。

ティアル・ヴォルフ・ルートヴィッヒの本名だったはずだ。

ルティカと同じ金髪で、猫耳で、同じ首輪をつけた少女。…………偶然だろうか?


「あれ? お姉ちゃんのことをご存知なんですか?」


偶然ではなかった。


「やめろぉ!! その名を出すなぁ!! 夏祭りでもずっと避けてたのにぃ!!」

「? ああ、幼馴染ってことは、ティアルとも親交があったってことか?」

『そしてなんとも酷なことに、ティアル氏はリュカン氏の……想い人だったのでござる』


あっ……(察し)


「…………ゴメン。この話題は、もう止めよう」

「うぉおおおおおっ…………」


号泣して机に突っ伏すリュカンの肩を叩き、俺達は共に、頬を濡らすのであった。




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