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第七十三話 オタクたちのメッカ




人は飛ぶようには出来ていない。

それは基本的に、人とは陸上で生きる生命体だからである。

飛行機などの機械に乗るのは別として、生身のまま高高度を飛ぶ経験など、普通はありはしない。


只今高度数千メートル?

具体的な高さはわからないけれど、地面が霞んで見え始めた時点で、俺の意識は途絶えてしまった。

なぜなら、メテオラの背中に生身のまま乗り込んで、少しの防寒着を着込んだだけで高高度を滑空。

寒さもさることながら、あまりの速度により発生したGにより、一般人である俺の体が悲鳴を上げたからだった。

一応、魔法か何かで保護措置を取るとメテオラは言っていたけれどそれはそれ。

寒さとGと恐怖によって、俺の意識は防衛本能により、強制シャットダウンとなった。





「………………はっ!?」





俺は柔らかなベットの上で目を覚ました。

そこには顔面を襲う暴風と、凍えるような寒さは無い。

血液が体の端へ寄るような重力も、地面が見えない恐怖もない。

柔らかで温かい、安心感満載のベットの上。


…………なんだ夢か!


焦らせやがって。まあそれはそうだよな。

あのドSだって、流石にメテオラを飼いならすことなど出来はすまい。

ギルドという巨大組織の重役と言っても、それは人間界での話。

魔界を含めれば、あいつより上の存在なんて吐いて捨てるほど居るだろう。

そしてメテオラは魔界の頂点から数えたほうが早い存在。

チャーター機のように顎で使うことなど、リンシュでさえ恐れ多いのだから。


「とりあえずもう少し寝るかな……」

「いや、そろそろ起きろ。それは我のベットだ」

「…………リュカン?」


朝一番に自宅でリュカンがモーニングコール。いつもはルーンの役目なのだが、なんで野郎なんぞにされねばならないのか。

未だ覚め切らぬ脳味噌で考える。

俺は野郎を寝室に招く趣味はないし、そもそもリュカンは出張中のはず…………あ、


「……夢じゃなかったぁ」

「何を泣いているかは知らないが、我の枕を濡らすのは止めて欲しい」


よく見ればここは俺の寝室ではない。

壁には一面様々なポスターが貼り付けられて、棚には漫画とフィギュアが所狭しと並べられている。

ああなるほど。ここはリュカンの部屋なのだろう。ひと目で分かる仕様であった。


「なんで俺、リュカンのベットで寝てるんだ?」

「覚えてないか? メテオラ氏から降り立った瞬間、それはそれは見事なリバースを……」

「あ、覚えてないけど察した」


メテオラの上でやらなかっただけ、過去の自分を褒めてやりたい。


「予約していたホテルはサトーしか知らないからな。とりあえず我の家へと運んだのだ」

「そうか……悪かったな。もう大丈夫そうだし、ホテルの方に移るよ」


体に異常は無いし、吐き気もどうやら収まっているようだ。

いつまでもリュカンの家に世話になるのも悪いし、そろそろ御暇することにしよう。


「ん? と言うか、ここで寝てるってことは…………ここ、ヴォルフの街なんだよな?」


記憶が曖昧で失念していたが、俺は出張任務のためにメテオラに送ってもらったのだった。

そして獣人であるリュカンの自宅で眠りこけていたということは、ここはすでに目的地。

俺の問いかけに、リュカンはフフンと鼻を鳴らして、部屋の窓のカーテンを開け広げた。


「そのとおりだサトーよ! ここは王都すら凌駕する最高の街! あらゆる文化と経済の中心地! ヴォルフの街である!」


陽の光が両目を襲う。

光に慣れて窓の外を見てみれば、そこにはリール村のようなのどかな風景は広がらず。

代わりに王都ですら見れないような大量の人混みと、背の高い建物の数々。そして…………萌え絵がでかでかと描かれた看板が見て取れた。










*    *



ヴォルフの街。

かつて獣人に転生した日本人たちが切り開いた場所であり、元々は王国に属していない独立都市国家だったらしい。

そのためか、経済力や人口は他の街と比べ物にならないほどに大きく、かの王都でさえも下に見るほどの国力を誇るそうだ。

西のギルド本部や大聖堂と呼ばれる宗教の本部。広い平地を活かした穀倉地帯等など。数え上げたらキリがないほどの組織の本部が集約されている街でもある。


…………だがしかしオタクの街でもある。


街に出てみれば所狭しと並べ立てられるヲタ看板。

行き交う人々は、この世界においても珍しいような、機能性の乏しいコスプレに身を包んでいる。

噂では義務教育でオタクのなんたるかを叩き込まれるらしく、大半の人間は『ソウルネーム』と言う二つ名を持つらしい。

まさにオタクたちのメッカ。と言うより秋葉原。規模はその何倍もあるようだが。


「……街全体がこうなのか?」

「端の農家から路地裏までな。そのあたりに抜かりはない。ふっふっふ」


いや、ふっふっふじゃないが。こいつらにとって、それは誇らしいことなのだろうか。


「とりあえず今日はホテル探しと予定表のチェックかな。エクスカリバーとの合流は明日で良いか」

「ちなみに、詳しいことは知らぬのだが、なぜサトーがこの街に? 仕事か?」

「正直俺も分からん。まあエクスカリバーと一緒に視察ってところかな。この時間だと……あいつは今仕事中か」

「ぎくり」


なんかわっかりやすい表現とともに、リュカンが俺から目をそらした。


「え、何? 仕事中だよな? この時間帯ならまだ仕事中だよな?」


『リュカン氏~! 大収穫でござる~! まさかあの大手サークルがあのようなサプライズをしているとは、嬉しい誤算でござる~』

「うむ。あれは俺様も心躍った。魔女っ子リン☆リンの設定をよく知るがゆえのイベントだったな」


同人誌がつまった紙袋と、色とりどりなヲタグッズを体中に身に着けたメテオラと、同じくグッズまみれでメテオラに担がれたエクスカリバーが登場した。


「よお、ずいぶん楽しそうだな、エクスカリバー」

『げぇっ、サトー氏!?』

「げぇっ、じゃねぇよ! 何を思いっきり遊んでるんだよ! 仕事はどうした!」

『そ、そっちはきちんとレポートにまとめて…………ちょ、ちょっとリュカン氏! サトー氏が来ているなんて聞いていないでござる!』

「む、すまんエクスカリバー。言うのを忘れていたな」

『メテオラ氏!? あ!? さっき飛んでいったのはサトー氏を迎えに行ってたのでござるな!? 言ってくれれば事前の心構えを……』

「なんだ? 俺がいる間だけ仕事をしているフリをしようってか?」

『ひぇっ……』

「…………はぁ。まあ良い。いや、良くはないんだが。とりあえず、次の給料査定は覚悟しておけよ」

『すまぬでござる。と言いつつ、我が行いに一片の悔いなし! 今回のイベントはそれほどのものだったでござる!』


こいつ、リンシュ並みの減俸を食らわせてやろうか。


『あれ? ところでサトー氏。なぜこの街に居るのでござるか?』

「え? 聞いてないのか? お前と一緒に視察をしろって上からの命令なんだけど」

『あ~、ここしばらく念話機を切っていたでござる。不覚』

「…………そのことに関する説教は後にするか」


話が一向に進まないため、とりあえずエクスカリバーの評価については保留。

リンシュから言われたとおりのことを説明した。

と言うより、俺もよく分かっていないんだよなぁ。ちゃんとデータを確認しておかないと。


『ふむ、分かったでござる。ちょうどイベントも一段落したところでござるし、最後のお仕事とまいろうか』

「待てエクスカリバー。俺様はまだ魔女っ子リン☆リンの握手イベントが残っている。これから五日、常にお前と居ることは出来んぞ」

「我も同様だ。こちらはダークネスハーリマンのコスプレオフ会がある。残念だが、数日は動けない」


こいつら冒険者のくせしてオタク趣味に走りすぎだろ。もうちょっと本業の方をしっかりして欲しいよなぁ。


『いやぁ、サトー氏が居るならその心配もないでござる。拙者、一人では動けないでござるが、サトー氏に持ち運んでもらえば……』

「俺、お前、持ちたくない」

『この男、言い切ったでござる』


だって持った瞬間呪われそうじゃん?

実際ジュリアスは呪われて、あの恥ずかしい解呪呪文を唱える羽目になったわけだし。


『ま、まあ。二人のイベントは幸いにして被っていないでござる。日を分けて持ち運んでもらうことではいかがかな?』

「うむ。俺様はそれで構わんぞ」

「こちらも、全く問題ない」


こうして、オタクの街でオタクたちに囲まれた視察が始まったのである。



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