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第七十一話 ダメ。ゼッタイ。



「では、緊急オペを始める」


唐突に、物騒なセリフで俺は目を覚ました。

目を補足するほどに眩しい光が眼前に迫り、辺りは蝋燭の光もない真っ暗闇のようだ。

おまけに、俺の体は動かない。

かなしばりにでもあったのかと思ったが、どうやらそう言ったオカルトじみたものではないようだ。


「…………なんで拘束されてんの?」


両腕と腹、そして両足を革製のベルトでガッチリと固定されており、まともに動かせるのは首から上のみと言う状況。

全く見に覚えのないこの状況に、どうにも混乱して言葉が出てこない。


「ナニコレ」

「えー、患者はギルド所属の事務員。名前はサトー。症状は慢性的な胃の痛みと頭痛のようだな」


聞き覚えのある声。ほぼ毎日ギルドの相談に来ている女のものだった。

首を捻って見てみると、そこには手術用のマスクと帽子、服を身に着けてボードを片手に持つ、ジュリアスの姿があった。


「あ? おまえジュリアスか? そんな格好で何してんだよ」

「では先生、どのような処置をしようか?」

「あれ? 無視かな?」


ジュリアスは俺の言葉など無かったかのように振る舞い、ボードを別の机へと置いて目線を他の場所へと移した。

「先生」と言う言葉とともに見るその場所には、見る限り誰もいない。

ついにこの女、空想の人物と会話をし始めたのかと心配になる。


「ふっふっふ、そのような初歩的な事も判断できないとは、貴女もまだまだですねぇ助手さん」


うん? これまた聞き覚えがある声である。

今度は飲んだくれのロリっ子冒険者の声が俺の耳に届いた。姿は見えないが、どうやらこの場所にパプカも居るようだ。


「おい、パプカ。一体どうなってる、ちゃんと説明しろ……と言うかお前どこだ?」

「…………すみません、これでは患者が見えないので、台に乗せてもらっていいですか?」

「仰せのとおりに、先生」

「って、アグニスまで? おまえらホント何やってんだよ」


パプカを持ち上げて台の上に乗せるアグニス。

ようやく顔が見れたパプカ共々、やはり同じような手術姿であった。


「とりあえず頭痛に関しては後回しにしましょう。まずは胃の方ですね。胃カメラはありますか?」

「胃カメラ!? 異世界で胃カメラって言ったかお前!?」


多分似たような技術はあるのだろうが、科学技術の結晶であるカメラと言うものがあるとは、流石に聞いたことが無い。

と言うか、そんなうんちくを語っている暇ではない。

どう考えてもド素人集団が、何のイタズラか俺の手術をしようといきり立っているのだ。

そもそも俺は健康体。胃痛の元は、穴が開いている訳ではなくストレス性のものであり、どうにかしたいというのであれば、今すぐこの拘束を解いてどっかに行って欲しい。


「先生! 質問!」

「なんですか、助手さん?」

「胃カメラって、どこから入れるものなんだ?」

「お尻です」

「ちょっと待て!!」


わけの分からない問答を、俺そっちのけで行うものたちへのツッコミ。

さすがにこれ以上黙ってはいられないだろう。


「素人がテキトーな事するなよ! と言うか、直腸検査とごっちゃになってんぞ!」

「一先ずズボンを引き剥がしましょう。何をするにしても邪魔ですしね」

「ナニをする気だ!? 止めろよ! お婿に行けなくなっちゃう!」

「はいはーい! その役目は自分にやらせてほしいッス」


アヤセまで登場しやがった。幽霊なのに、どうやって手術着に着替えたのだろう。


「何なんだおまえら! ドッキリか!? ドッキリなのか!? じゃあもう死ぬほど驚いたから! お願いだから開放して!」

「待ってくれ助手三号! その……目を塞ぐまで待って欲しい。流石に見ていられない……」

「そう言いつつ指の隙間からガッツリ見てんじゃねぇかジュリアス!」

「あー……悪いけど、男のそう言うのは見たくないから、俺は席を外すよ」

「一体何のためにここに来たんだよアグニス! 帰るなら俺も一緒に連れてけ!」


ああもう、ツッコミどころが多すぎて疲れる!

状況は意味不明だし、何を目的にこいつらが集まったのかさえ不明だ。

そもそも俺はいつの間に連れ去られた? 入院最後の夜は普通に飯を食って終わった。

味のうっすいオートミールと野菜中心の味気ない食事が最後の晩餐とは嫌な話だが、病院なのだから仕方がないと納得した。

特にやることもないのですぐに眠って、起きたら翌朝。晴れて退院と言う予定だったのに。

一体全体どうしてこうなった!


「……助手二号がいなくなってしまいましたか。仕方がありません、助手新二号!」

「なんでおまえら、頑なに人の名前を呼ばないんだ? って、うん!?」


パプカが助手新二号を呼ぶ。

すると、暗闇の中から人影が一つ現れる。そして、それは見覚えがあるというか、ここに居て良いはずのない、大物の姿であった。


「ハロー、サトー」

「リンシュ!? まさかこれ、お前の仕業か! 道理で意味不明だと思ったよ!」

「先生? 患者が暴れるようだし、一度麻酔をかけてはいかがかしら? 大人しくなるし、痛みもないから楽でしょう?」

「やっぱりお前も無視か畜生!」

「良いアイデアです、助手新二号。では麻酔医を呼ぶことにしましょうか。二人共、入ってきて下さい」


次は一体誰が登場するのだろう。

ちょっと気になるものの、できれば登場などしてほしくない。どうせまともなやつが入ってくるとも思えない。

まあでも、出来るならルーン辺りに来て欲しい。ドッキリだとしても、あいつであればこの状況から救い出してくれる可能性もある。


「お呼びかしら、先生ちゃん?」

「さすがは俺達の先生だ。的確な判断だぞ」

「ヒュリアンさんにゴルフリートのオッサン!?」


最悪な二人が来ちゃった。


「さて、二人に来てもらったのは良いとして、どちらに麻酔を担当してもらいましょうか。悩みどころです」

「あら、いっそ二人が協力して眠らせてもらえばいかがかしら。ほら、夫婦って共同作業をするものでしょう?」

「止めろリンシュ! この二人に任せたら、永眠になってしまう!」

「良い考えだな、助手新二号。じゃあ麻酔医その一、一緒にやるとするか」

「ええ、麻酔医その二。たまには夫婦らしいこともやるべきよね」

「誰一人話を聞いてくれない!!」


いや、待て! 流石にこれはおかしい。パプカやジュリアスはまだしも、中央に所属しているリンシュやヒュリアンがこの場にいるはずはない。

天変地異が起こったならまだ分かる。しかし、たかだか俺へのドッキリのために一堂に会するとは思えない。

…………リンシュならやりかねないと思うのは、俺の性格がひねくれているのだろうか。

まあともかく、考えられる可能性は少ない。すなわち、


「ゆ、夢か! そうだ、コレは夢だ! だからヒュリアンさんが杖を向けてても、オッサンが大斧を振りかぶってても問題ない! 全部夢! 全部夢だからーーーーーー!!?」


と、オッサンの斧が額に振り下ろされた瞬間に、俺の目の前はブラックアウトした。

…………死んだ? いや、死んでいたらこんなモノローグは刻めない。

パチリ。

目を見開くと、俺は病院の床を見つめていた。

どうやらベットから転げ落ちてしまったようだ。


「…………夢オチかぁ」


夢オチだった。







*    *




「麻薬?」

「それほど強いものじゃないけどねぇ。モンスターが作り出す幻覚系の鱗粉に似た成分がおしっこに含まれてたよ」


翌朝、夢の内容をドクターに知らせたところ、そのような診断が下った。

特に体には影響がないらしいが、どうやら外部からの要因によって、悪夢を見せられたらしい。

しかし、モンスターの鱗粉? おかしな話である。町中にモンスターが居るはずはないし、居たとしても俺には接触していない。


「何か原因は分かるかい?」

「いやぁ……流石に分からないですね。モンスターが居るなら、冒険者に依頼を出さないとなぁ……」


ともあれ、特に影響がないのならば急ぐ必要はないだろう。一先ずは退院も出来るらしいので、ギルドに戻ってから調査を開始しても遅くはない。


俺は部屋に戻り、数少ない私物をまとめ始めた。

小説、観音雑誌、梅干しが詰まった瓶。ほぼコレだけ。


「……っと、コレもあったか。意外に楽しめたけど……ジュリアスに返しておいたほうが良いか」


鞄から床へと滑り落ちた一冊の本。

『食用キノコ大百科』と題される本だ。キノコだけでなく、野草についても色々書かれており、目を通すと意外と楽しめる一冊である。

暇を持て余した俺にとっての相棒。暇つぶしにはもってこいの内容であった。


「……ん? これって……」


落ちた拍子に開いたページ。入院中には流し読みしていたようだが、どうやら見知った野草について書かれているようだ。


『ハルシネイトプラント』


例のパプカが持ってきた生きた野草である。

一応、こういった本に載る程度にはまともな植物だったらしい。と言うか、本当に食用だったのか。


「ええと、何々? 『乾燥させて煎じたものは、鎮痛効果を伴う薬とすることが出来る』か。だからちゃんと煎じてから持ってきてくれれば……ん?」


文章は一種類の野草にしてはやけに長文で、鎮痛効果の下にまだまだ続いているようだ。


『過剰に摂取した場合、強めの催眠効果を発生させてしまうため注意が必要。また、以下の材料と組み合わせるのは非常に危険である』


「んん? えーっと、『毒性のキノコ』『塩分』『微力な魔力』…………あれ?」


何やら聞き覚えのある一覧に、一筋の汗が流れた。


「『加えて、霊力に満ち溢れた物体を近づけると、強い幻覚作用を発生させる物に変化する。粉末を少し吸うだけで効果はあるが、大量に摂取しても効果は変わらない』…………っ!?」


俺はバックをひっくり返し、自分の私物を確認した。

塩分が強い梅干し。霊験あらたかな雑誌。

それに加えて心当たりが幾つか。

まずは大本のハルシネイトプラント。それに、ジュリアスが持ってきた毒キノコ。ゴミ捨て場にはアヤセが原因で捨てた梅干し。そして塩分が原因で消えかかったアヤセからは、微力な魔力が流れている………………ので、


「…………被害者が出る前に焼き捨てないと!!」


俺はゴミ捨て場へと駆け出した。

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