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第五十五話 かき氷




あの後、すぐさま運営本部へと直行し、メテオラの店についてを報告した。

メテオラの非常識は流石に見過ごす訳にはいかない。魔界では良いのかもしれないけど、少なくともこちらの国では、自分の体を売るのはご法度である。…………なんか字面が卑猥だな。。

俺とルーンは気を取り直して屋台を回ることにした。

わたあめを食べて、鼻にひっついてそれをルーンに取ってもらう。「もう、サトーさんたら。うふふ」とか言ってもらって顔を赤らめた。

何と言うラブコメ的展開。デートというのはこうでなくてはいけない。

デートというのは間違っても、母親への言い訳として、男を引っ張り回すような行為を指す言葉ではないのだ。


「いやぁ、結構歩いたな」

「そうですね、少し汗ばんできちゃいました。何処かで休憩しますか?」


昼間と比べ、涼しくなった夜とは言えど、歩いていれば汗をかく程度の暑さはある。

人口が少ないリール村だが、近くの集落などからも人が集まり、祭りが行われている中央広場には、かなりの人数が集まっていた。

押し合いへし合い、押しくらまんじゅうのような熱気が、あたりを包んでいるのだ。

とりあえず何処かで休憩しようと散策してみるも、飲食スペースは満員。ベンチや花壇の縁なども、ギュウギュウ詰めに人が座っていた。


「やっぱ、会場の中心だと座れる場所がないな」

「一度、会場から離れてみますか?」


祭りもそこそこ楽しめたことだし、一度ゆっくりするのも良いかもしれない。

と、人の流れに逆らいながら、中心地から脱出を図ろうとすると、ずいぶんと長い行列に行く手を阻まれた。

一列に並んだ人の列は、数十人ほど居るようで、会場の渋滞を引き起こす原因になっているようだ。



「おやおやお二人さん。夏祭りデートとはお熱いことですねぇ?」



行列を眺めていると、ニシシと笑いながらパプカが近づいてきた。その手には看板のようなものを持っている。

やけにカラフルで一見するとキャラ物に見える柄の、丈がミニスカート並みに短い浴衣を着込んだ幼女。

もう本当に子供にしか見えない。これで二十歳を超えているのだから、詐欺と言われても反論出来ないのではあるまいか。


「こんばんは、パプカさん」

「おや? ルーン……なぜ甚平を着込んでいるんですか? ちゃんと浴衣を着ないと、サトーががっかりしてしまうでしょう。男心が分かっていませんねぇ」

「いや……私自身、男なんですが……」


駆け寄ってきたパプカは、俺とルーンの様子を見ると、


「どうやらお熱いというのは、デートをしているからというわけでは無さそうですね。汗だくですよ?」

「結構歩いたからな。お前も遊んで……というわけじゃ無さそうだな」


パプカが持つ看板。そこには『特製かき氷売ってます』と書かれていた。どうやら、屋台の宣伝をしているようだ。

確か、オッサンがかき氷屋を営んでいると言っていたな。パプカはその手伝いをしているのだろう。


「良ければお二人も見せに来ませんか? 先日のお詫びに、奢ってあげましょう。もちろん、ルーンにも差し上げますよ」

「そ、そんな悪いですよパプカさん。自分で買いますから……」

「まあまあルーン。微笑ましいデートをする若者に、お姉さんからのプレゼントです」


二十歳を超えたことで、急に歳上風を吹かせ始めた幼女である。


「でも、オッサンがやってるんだろ? 絶対何かしらのトラブルが発生するだろ」

「信用がないですねぇ。ですがご心配なく。今回は誰かが傷つくと言うことはありません。その証拠がコレです」


パプカはドヤ顔で行列を指差した。


「は? この列がなんだって?」

「コレは、お父さんの店に並んでいる方々なのです。かき氷店は会場に幾つかありますが、その中でもイチバン人気なんですよ?」


エッヘンと胸を張るパプカ。どうやらかき氷店自体は、まともに機能している様子である。

しかも、コレほどの行列を作っているのだから、それなりに信用はできるのかもしれない。

人気のかき氷を奢ってくれるということもあり、俺の心は揺らいでいた。


「つっても、この行列に並ぶ根気はないぞ。すでに疲労困憊だしな」

「ああ、それなら知人枠として優先権を上げましょう。それと、店の裏手側にある休憩椅子を使ってもらって結構ですよ?」

「…………なんか、気持ち悪いぐらい親切だな。何を企んでる?」

「エッヘッッヘ、何も企んでなんていませんよぉ。まあでも、感謝していただけるというのなら、水着コンテストで、わたしに投票していただけるとありがたいですねぇ」

「それが本音かよ」


まあ、魂胆が分かって逆に安心した。何か裏があるのではと勘ぐっていたが、その程度の事情なら厄介事と言うほどではないだろう。












*    *


行列を横目に、パプカに連れられて、俺とルーンはオッサンが営むかき氷店へと足を運んだ。

典型的な屋台に『かき氷』と大きく書かれたその店は、本当に行列が並んでいるようで、オッサンは忙しそうにかき氷機を回していた。


「お父さん、サトーとルーンを連れてきましたよ」

「おう、サトー! 俺特製のかき氷だ! 王都での詫び代わりに食っていってくれ! ルーンも、日頃お世話になってるからな! おかわりしてもいいぞ?」


この男が詫びと言う行為を知っていることに驚きだが、実際にこの程度では釣り合わないほどの事件に巻き込まれたのだから、何かをくれるというのであればもらっておくことにした。


「パプカ、そろそろ氷が切れそうだ。補充してくれ」

「わかりました。氷結(アイス)!」


親子の共同作業は、非常にテキパキとこなされる。

普段から二人でパーティーを組み、数々の高レベルクエストをこなしているのだ。この程度は造作も無いらしい。

出現した巨大な氷がいい感じに辺りを冷やしつつ、オッサンが素手で氷を砕いてかき氷機へ投入。あっという間にかき氷に変身させて、パプカが上からシロップをかけて出来上がり。

あまりにスムーズに事が運ぶものだから、行列は凄まじいスピードで消化されていった。

二人にしてみれば微々たるものなのだろうが、この店の売上は相当なものになるだろう。


「でも、二人共なんで屋台なんて出してるんだ? カネに困ってるわけでもないだろうし……趣味か?」

「半分はそうですね。まあ…………在庫処分といいますか」

「在庫処分?」

「まあまあ良いじゃねぇか。ほれ、客足も落ち着いたことだしお前らの番だ。山盛りにしておいたから、シロップをかけて食え」

「お二人は特別に、シロップをかけ放題にさせてあげましょう。セルフサービスというやつです」


器にコレでもかと盛られたかき氷を手渡された。随分と良心的な店である。


「良いのか? 赤字になるくらいにシロップを使ってやるぞ?」

「氷の元手はタダですし、シロップの方も…………とにかく、気にすることはありません。氷とシロップの比率が逆転するくらいかけてくれてもいいですよ?」


流石にそれは気持ち悪くなりそうだから止めておこう。

かき氷と言えば、イチゴ味、レモン味、メロン味、ブルーハワイ味などが一般的だろうか。どの味にするか、迷うところである。


「えーっと、イチゴ味に……イチゴ味に…………イチゴ味――――って、全部イチゴ味じゃねぇか!」


器に入れてあるシロップは、全てが赤色のイチゴ味だった。黄色も緑も青色も、その他の味が見当たらない。


「他のお味は無いんですか?」

「当店はイチゴ味限定となっております。そもそも、かき氷のシロップって、色が違うだけで味は一緒だそうですよ? 果汁も入っていないそうですし、だったら最初から一種類で良いと思います」

「身も蓋もない台詞を吐くな」


それを選ぶという行為や、視覚から来る感覚だって、かき氷屋には必要な要素だろうに。


「まあ、ウチは果汁入りの高級シロップだがな。一種類だけで他の店に対抗するってのが、男ってもんだ!」


意味の分からない理屈を吐くオッサンだが、確かに、コレだけで人気となるのだから美味しいのだろう。果汁入りと言っていたが、それがこの店の売りなのだ。


「……! おいしい! これ、すごくおいしいですよサトーさん!」


一口食べたルーンが、輝くような笑顔を見せた。可愛い。

確かに、際立って甘く、それでいて砂糖の風味ではない爽やかな香りが鼻をくすぐる。匂いからしてこのレベル、俺は唾をごくりと飲み込んだ。

…………しかし、なんだろう。この香り、俺は嗅いだ事があるのだが……どこだったかな。思い出せない。

俺は適量をかけたかき氷をスプーンですくい、口へと放り込んだ。


「はうっ!?」


衝撃であった。

香りの印象を上回り、舌がとろけ、息を吐き出すのすら億劫なほどの風味が口の中で広がった。

あまりにも凄まじい香りが脳を一時停止させ、極楽浄土を味わった。

この素晴らしい味と風味を表すには、俺のボキャブラリーはあまりにも貧弱過ぎる。とにかく美味い。気がつくと、俺の器に盛られたかき氷が消え去っていた。


「はっ!? 誰だ! 俺のかき氷を横取りしやがったのは!」

「いや、今自分で平らげていたじゃありませんか」


気を失っていた短い間に、無意識下で食べてしまっていたようだ。くそう、損なことをした! あの味を意識せずに平らげてしまっていたとは!


「オッサン、おかわり」

「良いが、二杯目からは有料な?」

「俺がそんなことを気にすると思ってんのか! 持ってけ泥棒!」


俺はこの世界のイェンと言う通貨の、諭吉さんポジションである最高紙幣を机に叩きつけた。


「わ、私ももう一杯だけ……」

「はっはっは! やっぱり好評なようだな、パプカ?」

「実際美味しいですからね、お父さん」


拳をガツンと合わせて健闘を称え合う親子。


俺はかき氷をかきこんで、二杯目をカラにしてもう一杯注文した。

ハイペースで食べたため、頭がすごく痛いが、それよりも美味しさが勝る。何杯食べても飽きが来ない。甘くても胃にもたれるということもない。

よもや、この親子が出す商品がコレほどまで美味しいとは思わなかった。

そして、美食というものがコレほど気持ちを豊かにしてくれるとは思わなかった。

二杯目を食べて満足したルーンを他所に、俺はすでに五杯目に突入。


「ふぅ、おいしかったぁ……ゴルフリートさん、このシロップって手作りなんですか?」

「ああ。ヒュリアンが獲ってきた獲物を潰して、他の材料と混ぜて作った特製だ」

「……!」


俺の手は止まった。オッサンの台詞に、何か心当たりがあったのだ。


「……オッサン、ヒュリアンさんが……なんだって?」

「獲ってきた獲物を潰して……」

「……獲物?」

「「あ」」


しまったという表情を浮かべる親子。なぜならば、彼らの台詞の意味を、この地域では唯一俺だけが理解できるからである。


「お、お前ら! まさかコレ……イチゴのシロップなのか!? あの結婚式場でぶっ潰したアレの!?」

「結婚式場?」


恐らく意味がわかっていないのだろう。ルーンは首をかしげて俺達を見た。

説明しようかと思ったが、知らぬが仏。美味しいかき氷を食べたという思い出だけ残しておいて欲しい。説明は拒否だ。

パプカとの疑似結婚式に出てきたウェディングケーキ。その頂点に乗っていた凶悪モンスターイチゴ。その残骸が、このシロップの材料なのである。


「心配するなサトー。無事だった部分を厳選して、滅菌処理もしてある。衛生管理的には、全部クリアしてるから大丈夫だ」

「え、いや……大丈夫……なのか!? 本当に!?」

「大丈夫ですよサトー。祭りの衛生基準に提出して、問題ないと保証書も付いています」


そう言って保証書を俺の目の前に突き出した。

…………確かに、そこには村長と祭りの管理スタッフの承諾印が押されているようだった。

うーん……良いのか? まあイチゴ自体は凶悪モンスターだが、食用であることは間違いないし、衛生管理がきっちりしているのであれば、俺がとやかく言うことではないのだろう。

それに、気分的に俺が拒否感を抱いたのは、イチゴというモンスターに襲われたからだ。その経験がない他の人達からすれば「だから何?」と言うに違いない。


――――止めた。気にすることはないな。

俺の責任下の話じゃないし、実際このかき氷は美味かった。もうそれで良いでは無いかと、俺は自分の中で叫ぶ拒否感を押さえつけて、最後のかき氷を腹の中へとおさめた。


「ごちそうさまでした。とりあえず…………腹痛いんでトイレ行ってくるわ」


衛生的な話ではなく、流石にかき氷を五杯と言うのは、腹痛の原因になりうるのである。



『余命三日の異世界譚』同時連載中です。

書き溜めが無くなるまでは、毎週火曜、金曜、日曜日に投稿予定です。

シリアス系ですが、こちらも合わせてお楽しみください。

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