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第四十二話 デートスポット探し




花の都。観光都市。政治の中枢。エトセトラ。

様々な機能を集約し、人種や文化のるつぼである王都。見るものには事欠かず、遊び始めれば止まらない。

そんな街の中央街。ギルド本部や教会などがある見知った場所で、俺とパプカは手をつなぎながらデートをしていた。


「……これに何の意味があるんだ?」

「お母さんがどこで見てるか分からないんですよ。手を繋いでおけば、歩いているだけでデートっぽく見えるでしょう?」


母親から見の危険を感じながら、言い訳代わりに男と女が手をつなぐ。どんな殺伐としたデートだよとツッコミを入れたくなる。

パプカの話によれば、明日の誕生日。母親との面会があるという。男とのデートがどういうものだったのか、それに関する感想などを聴取されるそうだ。

もちろん、嘘をつくという手もあるが、それがバレてしまったときの反動が怖い。

すなわち、今日一日なんとなくでもデートをして、実際の感覚を掴もうという魂胆なのだ。


「つっても、俺もデートなんてしたこと無いから、何処に行けばいいかなんて分からないぞ?」

「ふっふっふ……その辺りは抜かりありません。きっちりと予習済みですよ、この本で!」


パプカが取り出したのは一冊の雑誌。

手にとって見てみると、子供向けの少女雑誌。そのデート特集に大量の付箋がつけられているようだった。

その中身のデートスポットに指差して、パプカは輝くような笑顔を俺に向けた。


「ここですここ! この場所に行きましょう!」

「えー……何々? 『王都中心街の定番スポット! 美味しいスイーツを頼めば、特製のペアブレスレットをプレゼント!』……って、ここぉ?」


子供向けの雑誌ゆえか、やたらと色彩豊かな内装。出されるというスイーツも、食べてはいけないようなビビットカラー。

ペアブレスレットに至っては、キャラ物の派手派手な物だった。こんなの、頼まれたって身につけたくない。

だが、パプカはここに行きたいらしい。ここまでテンションの上がっている人間を見ると、行きたくないという台詞は吐きづらい。


「…………とりあえず行ってみようか」

「やったぁ! この本は十歳の頃に買ったんですが、それ以来恋人ができたら必ず行こうと思っていたお店なんです! あ、サトーは恋人ではありませんよ? 勘違いはしないでくださいね?」

「心配しなくても、ロリっ子と付き合う趣味はない」


と、雑誌に書かれた店へと向かうことになった。

中央街はウィンドウショッピングを楽しめる、たくさんの商店と飲食店が並ぶ通りである。中央勤務のときには、昼食を取りによく足を運んだものだ。

そしてそれ以上に、最近見覚えのある場所だ。なぜならば、運動会の最終競技。チーム対抗リレーが行われていた際の会場なのである。


「雑誌に書かれている場所はこの辺りですが……」

「……と言うか、あの瓦礫じゃねぇの?」


指差す先には瓦礫の山。何とか原型を保っているその看板は、まさしく雑誌に書かれた店の物だった。

つまり何と言うか……店が全壊していたのだ。


「な、なぜぇ!? 誰がこんなことをしてくれたのですか!」

「誰って……お前の母ちゃんだろ」


チーム対抗リレーが行われた通り。すなわち、規格外の連中が思う存分暴れた場所。

極大魔法が連発されて、凶悪なスキルが打ち込まれ、素の腕力で砕け散る。そんな連中が暴れたのだから、もちろん無事ではすまない。

通りに面した店は、全壊を免れていたとしても、少なからずの被害を受けていたのである。


「うぅ……仕方ありません。第二候補へ向かうことにしましょう。確かこの近くのはず……」

「……それって、あっちの瓦礫じゃないよな?」


更に指差す方向には別の瓦礫の山。雑誌に書かれた地図を見ると、位置はその瓦礫を指しているようだった。


「つーか、この雑誌に書かれてる店。この通りに面したのがほとんどだな。全滅してるぞ、これ」

「ふぐぅ……うっうっ……子供の頃からの夢がぁ」


夢破れたパプカは地面へと突っ伏して嘆きの声を上げる。不憫には思うが、現実としてピックアップされた店が全滅しているのだからどうしようもない。

かわいそうだが、とりあえず別の店に行くことにしよう。そろそろ時間も昼時で、腹も空いてきたし歩き疲れた。

何とか損壊を免れた店に入る。何の事はない、何処にでもありそうな洋食店だ。



「凄いぞ! あの女の子、とんでもないペースだ!」



泣きじゃくるパプカを連れて店に入ると、何故か店内は大盛り上がり。人混みが邪魔をして、席まで進むのにも一苦労だ。

何とか座席につくと、近くで盛り上がる客に何事かと尋ねてみた。


「この店じゃ大食いやってるんだが、凄い女の子が来ててな。総重量5キロほどのオムレツを、あっという間に平らげそうなんだ」

「へぇそりゃ凄い。一体どんな女…………あ?」

「あ」


興味本位に人混みの中に入ってチャレンジャーを見る。するとそこには、見知った顔。

特製巨大オムレツを口一杯にほおばる、ミンティア・ルールブックと言う名の同僚の姿があった。











*    *



巨大オムレツはすべて少女の腹の中に収まった。一体このスリムボディの何処に収納されているのか見当がつかないが、実はミントは昔からかなりの大食いなのである。

彼女と食事を取りに行き、割り勘で済ませようと言ったのなら最後。月給の何割かが持って行かれることになる。

実際、一度同期の間で食事をしに行って似たような目にあったのだ。

一応彼女も反省したらしく、大食いはこのような催しをやっている店限定で行っているそうだ。


「…………いつもやってる訳じゃないのよ?」

「何も言ってねぇよ」


大食いが終わった後、同じ席に着いて一休み。なんともバツの悪そうな表情で、俺とパプカに言い訳をするミント。


「いや本当に! 仕事で疲れたときとかで、たまに自分へのご褒美って言うか! 今日だってお昼休憩で軽めの食事を取ってただけだから!」

「だから何も言ってねぇって。ミントが大食いなのは元から知ってるつーの……というか、さっきのオムレツでも軽食扱いなの!?」

「けどすごかったですね。私もよく食べる方ですが、あなたの大食いには歯が立ちません」


頼んだ巨大チョコレートパフェを頬張りながらパプカは関心の表情を浮かべた。ちなみにこれはすでに二杯目。十分すぎるほど彼女も大食いである。


「じゅるり……すみません店員さん。私にも同じパフェのを一つ」

「ってまだ食うのかよ!?」


オムレツを平らげておいて、よく胃に入るな。


「そう言えば二人は、仲良く何をしてるの? サトー君は確か休暇中だったっけ?」

「ああ。ちょっとこいつの用事に付き合ってるだけ……」

「デートをしています!!」


このガキ余計なことを言いやがって。


「え、本当に!? へぇ! てっきりサトー君は、ジュリアスさんとお付き合いしてると思っていたんだけど……ふーん。そうだったんだぁ」

「やめろ誤解するな! そしてジュリアスとも付き合ってないから、そっちの誤解も解いておけ! これには面倒くさい理由があるんだよ!」


俺はパプカとヒュリアンの面倒くさい約束事。デートまがいの行為をしている理由や、この店に入ってきた経緯など。

普段から説明するのが仕事である俺は、自分でも感心するほどわかりやすい説明をミントへと行った。

誤解も溶けたようで、ミントは苦笑いを浮かべながら俺に同情してくれた。


「それはまた、大変なことに巻き込まれたわね。……何か私に協力出来ることはある? 昼休憩の間だったら、力になれるけど」

「あ、ではお聞きしたいことがあります。このあたりに、デートスポットのような場所はありませんか? 目星をつけていた店が、お母さんのお陰で全滅してしまっていたんです」

「そ、それは災難ね……うーん、私も恋人ができたこと無いしなぁ。大食いスポットならいくつか紹介できるけど」

「絶対にヒュリアンさんにバレるから遠慮しとくわ」


デート場所に大食いが出来る飲食店とか、特殊なカップルでない限り赴くことはないだろう。

腕を組んで記憶をたどるミントは、何かを思いついたのかパッと目を見開いた。


「そうだ。教会なんてどう? ここからなら、歩いてすぐの場所だし」

「教会?」

「厳かな雰囲気で、すごくいい場所なのよ? 一般の人たちにも開放されてるし、観光客向けに屋台なんかも出てるはずだから、デートスポットと言えなくも無いかも」


教会……か。確かに、恋人たちが集まる場所としては悪くないのかもしれない。

仕事で訪れたこともあるが、内装は非常に精錬されていて、ステンドグラスなど装飾品も非常に綺麗だったはずだ。

行ってみないかとパプカに相談すると、他に行く場所もないと了承してくれた。食事も済んだことだし、早速行ってみることにしよう。


「それじゃ、俺達はこれで。昼からの仕事も頑張れよ」

「ありがとう。私はまだ昼休憩が残ってるから、しばらくこの店に居るわ。あ、店員さん! 特大チョコレートパフェ追加で! 一つ……いや、二つでお願いします!」


…………ギルドの事務職なんて辞めて、フードファイターにでもなれば良いんじゃないかな。



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