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第二百三話 急転直下なホスピタル





「まあ興奮しすぎによる失神じゃな。寝ときゃ治る」


 とのドクターの診断が下された。

 泡を吹いて倒れたヒューズを病院へと運び込み、依然失神している彼をベットに寝かせてようやく一息。

 異様に冷静なクーデリアを横目に、額の脂汗をぬぐい取った。


「大事無くて良かった……俺の管轄内でサブマスターが憤死とか、俺の首が飛ぶだけじゃすまない……」

「ですから大丈夫と申しましたのに。ヒューズ様のアレは日常茶飯事ですので」

「日常茶飯事で失神してるならヤバいんじゃないですか?」


 とはいえ、素人がアレコレと心配しても仕方がない。

 ヒューズはしばらく寝かせておくしかないし、本日の視察は保留だろう。

 ある意味肩の荷が下りた気分だが、ヒューズの殺気や諸々の事情については先延ばしになっただけなので、全く解決していないというのが悩ましい。

 


「おや? サトーじゃないですか」



 別室から顔を覗かせたのは、我が村におけるトラブルメーカー。パプカ・マグダウェルである。

 超一流冒険者であるパプカは冒険で怪我をすることはほぼ無く、病院とは無縁だと常日頃から豪語している人間。そんな彼女がなぜ病院などに居るのだろうか。


「視察の予定時間まで暇だったんで、ちょっと健康診断に来てました」

「ああ、そう言えばそういう時期だったな」


 冒険者ギルドでは、冒険者に健康診断を義務付けている。僻地へ冒険に向かう彼らが、特殊な病気などを持ち込まないかという措置だそうだ。

 まあ、魔法で病気などが治る世界観なので、特殊な病気が持ち込まれたという話は聞いたことが無いが、おそらく念のためなのだろう。


「ふふん! 聞いてくださいサトー! 身長が0.5センチほど伸びていました! これは貴方を追い抜くのも時間の問題ですね!」

「それは誤差……というか、伸びてたとしても追い抜く前に寿命が来るだろそれじゃ」


 身長の件についてよほど嬉しかったのか、飛び跳ねながら報告するパプカに呆れていると、すぐそばに立っているクーデリアが咳払いをした。

 恐らく初対面のパプカに紹介しろという事なのだろう。確かに、自身をよそに談笑されていては居心地も悪くなるだろうな。


「ああ、パプカ。紹介が遅れたが、こちらはクーデリアさん。そこで泡を吹いているヒューズサブマスターのメイドさんだ」

「ほう? メイドさんにしては尋常でない魔力をお持ちですが……何か訳アリのようですね? そこには触れずにおきましょう」


 忍者でもあるクーデリアさんは、物理系のジョブのため魔力が高いはずが無いのだが、設定過多な彼女の事だ。何か別の設定があるのだろう。


「これはこれは。サトーがいつもお世話になっています」

「いえいえ、こちらもジュリアス様がいつもお世話になっております」

「母ちゃん同士の会話か?」


 こいつらの世話をしてるのは俺なんだがな。


「ん? ジュリアス様……と言いました?」

「そう言えばそこから説明しないといけないのか」


 かくかくしかじかで説明を終える。


「なんと! ジュリアスはお貴族様だったんですか! にしては普段からポンコツすぎますが、貴族にも色々な方がいるんですねぇ」

「まあ貴族だからと言って能力が高いわけじゃないし、ジュリアスがポンコツでも変ではないんじゃないか?」

「ジュリアス様は普段から何をなさってるんでしょう」


 父親が冒険者ギルドのサブマスターだというのに、その能力が引き継がれていないのは悲しい事である。



「お前たち! 本人が居ないからって悪口を言うのは陰湿だぞ!!」


 

 談笑にふけっていると、話題の人物ジュリアスが登場した。

 なぜか汗だくになりながらツッコミを入れてくるジュリアスは、思ったよりも地獄耳なのかもしれない。


「失礼な。俺は本人を前でも目をまっすぐに見てポンコツと言ってみせるぞ」

「変な所で男らしさを出すんじゃない!!」


 頭を叩かれた。


「ところでジュリアス様。お久しぶりです」

「うっ……クーデリア。という事はお父様はここに……?」

「隣の部屋でお休みいただいています」


 クーデリアの言葉にジュリアスはほっと胸をなでおろした。

 どうやらヒューズたちがここにいることは気づいていなかったようである。


「──お父様が倒れたという事は……いつもの?」

「はい。いつもの──親バカです」

「あ、やっぱりアレ、そういうのなんだ」


 うすうす気づいていたが、彼女たちの反応を見るにその予想は的中していたようだ。

 ジュリアスが見知らぬ男と近しい間柄と聞いて泡を吹く。つまり愛娘に男の影があることが許せなかったのだろう。

 ジュリアスは見合い話がどうとか言っていたが、おそらくそれも方便だ。たぶん、ジュリアスに地元に帰ってきてもらい、そのまま手元に置いておきたかったのだろう。


「サトー、やけに鋭い考察ですね」

「近くに親バカがもう一人いるからな。どこかの偽幼女の親父の事なんだが──」

「ああっ!!」


 話を遮るようにジュリアスが叫び声をあげた。

 どいつもこいつも、この場所が病院であることを忘れているようだ。大声を出すのは良くないんだぞ。


「いかん! こんなことをしている場合じゃなかった!! パプカ! 今すぐ私と来てくれ!!」

「ふえっ!? わ、わたしですか? いえ、女性同士の恋愛については否定しませんが私は男性の方が好きと言いますか……」

「そういう話じゃない!! ご、ゴルフリートさんが!」

「はぁ? ああ、お父さんが何かやらかしたんですか? まったく、これだからあの片乳首の変態は──」

「ゴルフリートさんが────死んだ!!」 



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