第百九十話 テンプレートは大事
「私は以前から編んでいたマフラーをプレゼントにしようかと思ってます。サトーさんの誕生日が冬場で良かったです。えへへ……」
天使と見まがうがごときルーンのはにかみを掃除用具入れの隙間から凝視する俺。
どっからどう見ても不審者だが、これは不可抗力であるので仕方がない。召喚者は不可抗力と言う言葉を使えば大抵のことは許してもらえるらしいしセーフセーフ。
そしてルーンが俺への贈り物として編み物をしていたと聞いて、両の眼と鼻の穴から液体がナイアガラ。
本当になんていい子なんだろう。下手をしなくともこの村のどの女性よりも女子力が高い。
ついでに今俺の腕の中にあるルーンの私物のマフラーも一緒にくれないかなぁ……なんてよこしまな事は一瞬たりとも考えていないと言うことにしよう。
「ふむふむ……なるほど。流石ですルーン。あなたなら素晴らしいプレゼントを提示してくれると思っていましたよ」
お? アグニスの時はずいぶんと悪ノリをしていたパプカが、唐突にまともな発言をした。
流石にルーン相手にふざけることは出来ないようだ。ルーンはボケとツッコミをするタイプでは無いからな。この判断は正しいだろう。
「そのマフラーでサトーの首をキュッとするわけですね。確かに首は急所です。目の付け所が違いますね」
「はい?」
はい?
「ひとまずルーンはそれで良いでしょう。では残るはわたしとジュリアスですね」
…………軽く流されてしまったが、もの凄くバイオレンスな発言を聞いた気がする。気のせいだろうか……?
「わたしは大取りを務めますので、まずはジュリアスのプレゼントを聞きましょう」
「うむ! 私は常日頃からサトーと趣味の話をしているからな。彼の趣向は心得ているつもりだぞ」
そんなに話してたかなぁ?
「なんだかんだ言って、サトーはミナス・ハルバンの大冒険を気に入っているらしい。だから、限定版のサイン付き外伝特装本を贈ろうと思う。読むと言うよりも、飾りとしての価値が高いから拒否されることは無いだろう」
おぉ……ジュリアスが成長している。
ジュリアスの事だし、ミナス・ハルバンの大冒険全巻を観賞用・保存用・再布教用の3セットで贈りつけてくるだろうと思っていたのだが、そのようなツッコミは無用となったようだ。
確かに俺の数少ない趣味として読書がある。ジュリアスから猛プッシュされたミナス・ハルバンの大冒険や、エクスカリバーやリュカンから借りたラノベなど。生活の合間に活字に目を通すのが日課となっている。
そして恥ずかしながら、ミナス・ハルバンの大冒険はかなりハマっているシリーズだ。基本はジュリアスから少しずつ借りて読み進めており、その特装本だと言うのなら素直に嬉しく思う。
「そんな貴重な本を……サトーさんにあげてしまって良いんですか?」
「まあ……魔の国で作者さんに出会って、サインの筆跡が全然違ったとかそういう理由では無いんだが……」
パチモンの在庫処分かよ。
「いや! でも本当に価値のある物で間違いないんだ! 外伝だし、オリジナルに触発された別作者の作品としてみれば出来も相当良いものなんだぞ!」
「…………ふむ。ジュリアスの言い分は分かりました。ですが────地味ですね」
またかよ!!
「あなたはジュリアスです! ちゃんと自覚はあるんですか!?」
「えぇっ!? そ、それは一体どういう……」
「相手はサトーなんです! 三度の飯よりもツッコミが好きな人間なんですよ!?」
そんな事を公言したことは無い。
「そんな彼が貴女から普通の贈り物をもらってどう思いますか!? 「あぁ、そっか……ジュリアスには俺のツッコミはもう不要なんだな……さみしい」と言うに決まっています!!」
言わねぇよ!!
「ここは王道を行くべきです! 例えばそう……ミナス・ハルバンの大冒険全巻を観賞用・保存用・再布教用の3セットで贈るとかどうですか?」
こ、こいつ……俺と同じ思考回路をしてやがる。
「そ、そうだったのか……サトーは私のボケを期待していたのか……」
乗っかるんじゃねぇよポンコツ!!
「分かった! 私の布教用特大倉庫からそれらを放出しよう! 3セットくらいならどうってことない!!」
こいつ……どんだけ布教用の在庫を抱えているんだろう……
つーか普通に特装本をよこせ!! 素直にそっちのが欲しいわ!!
「ふぅ、やれやれ……これで皆さんのプレゼントは出揃ったようですね。短い期限の中、結構用意できるものですねぇ」
そのほとんどがお前の悪ノリの産物だけどな。
「なんだか、パプカさんの押しに負けてしまった気もしますが……」
「大丈夫だルーン。パプカちゃんの言う通りにしていれば少なくとも地味ではない!」
「アグニスはそれで良いのか……で? 最後はパプカのプレゼントの番な訳だが……私たちにダメ出しを入れるくらいだ、凄いものを用意しているんだろう?」
パプカはジュリアスの問いに「ふっふっふ」と含んだ笑い声を出す。よほど自分の物に自信があるのだろうか。
「ではお待たせしました! わたしがサトーへと贈るプレゼントとは────」
バンッ!!
気になるパプカの答えを聞く前に、ギルドの扉が勢いよく開く音がした。
そこには、そう言えばしばらく見ていなかったなぁと気が付いた人間、リュカンの姿があった。
「有象無象の者どもよ!! 我が声を聞け!! そして問いかけよ! サトーへ下賜する我が宝物を!!」
まーた面倒くさいのが入って来やがった。