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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
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第百八十九話 マフラーとタバスコの香り




 時は遡る事30分。

 年末と言うのにギルドにやって来た俺は、自分のデスクの中身を探っている。

 人並みに整理されたその引き出しには、何枚もの書類が入っており、目的はその内の一枚であった。


「まったく、年末にまで働かせやがってリンシュの奴……」


 なんでも「リール村にある書類が急に必要になった」という訳だそうで、こうして休日出勤をしているわけなのである。

 と言っても、書類の内容を魔法で転送するだけなので、そこまで理不尽という訳でもない。転送魔法にしてもようはFAXみたいなもので、ボタン一つで終わる作業なのだ。

 暖房の付いていない室内は冷え込んでおり、外套を羽織っていても肌寒い様子である。


「さて、転送も済んだことだし、凍えないうちに帰るとする──」


 

 ブツリ



 急にあたりが暗闇に包まれた。

 灯りに慣れた目は完全にブラックアウト。どうやら天井に取り付けられた灯りが切れてしまったようだ。


「何も夜中に切れることないの……どわたたたっ!?」


 暗闇に包まれ、さらに天井の様子を見ながら歩いてみれば、机の角にぶつかって派手に転んでしまった。

 椅子と机を巻き込みながら地面へと顔面を打ち付けて、周りには書類や職員の私物が散乱した。


「ぐあぁ……やっちまった」


 痛む鼻を手でさすりながら、余計に増えた片づけを始める。暗闇の中手探りで書類を集め、そしてとある物に手が触れた。


「はうあっ!? こ、これは……っ!!」


 絹のような肌触り……と言うよりも実際に絹製品のそれは、普段からルーンが愛用しているマフラーであった。

 そう言えば先日の雪合戦の時に濡れてしまったため、ギルドで乾かしてそのまま忘れてしまっていたと聞く。

 暗闇で何も見えずとも、ほのかに薫るルーン印の最高級フレグランスは隠せない。鼻から脳天へと突き抜け、麻薬以上の快楽と依存度を誇るソレを俺は手に入れたのだ。


「うおおおおおっ!! 家宝に……家宝にしよう!! 子々孫々潰えるまでルーンのマフラーを家宝にするぞ!!」


 マフラーを天へと掲げ感涙にむせびなく俺の姿は、少し後、冷静になってから見てみると非常に気持ちが悪かった。

 と言うかルーンの私物を勝手に貰っていいはずがない。


「────はっ! 殺気!?」


 何かの気配を感じ取った俺は、すぐさま隠れる場所を探し出す。

 デスクの下? いや、覗かれれば途端にバレる。

 階段を上がって宿舎に駆け込むか? いや、俺の鈍足では間に合わないだろう。

 そして俺の目に留まったのは、普段から使用している掃除用具入れ。モップや塵取りが入れられたその場所は、人間一人くらいならば隠れることが出来るだろう。





※    ※    ※



 ────そして現在。俺はルーンのマフラーを抱えた状態で、掃除用具入れに隠れているという訳である。

 …………何やってるんだ俺は。


「まあとにかく、明日サトーの誕生日な訳だから、誕生会を開かないとな」

「でも今から準備をしても流石に間に合いませんよ? 料理くらいなら私が作れますが、その他に関しては……」

「あ、閃いた。明日は年始の祭りがあるだろう? その飾りつけをいくらか失敬して【新年あけましておめでとう】を【サトーあけましておめでとう】にするんだ」


 それだと俺の頭がおめでたいみたいになっちまうだろうが。


「そ、そこは【サトー誕生日おめでとう】にしようか。確かに、書き直すだけなら今夜中にもできるだろうし、飾りつけ自体は済んでるからそれしかないか」

「やっつけ仕事みたいで気は咎めますが、仕方がありませんね」


 ──こういう裏事情を見てしまうと、ちょっとどう反応すればいいか困るな。

 怒れば良いのか、喜べばいいのか……


「じゃあ後はプレゼントだな。流石に今から用意するのは難しくないか?」

「仕方がありません。各自、家にある不要なものを持ち寄ることにしましょう。ラッピングすればそれっぽくはなるでしょう」


 パプカがゴミを押し付ける気満々な件について。


「お、じゃあ俺は秘蔵の酒でも贈ってやろうかな。前にサトーと飲んだ時、えらく気に入ってたやつだから喜ぶだろ」


 よしよし。流石アグニス常識人。

 俺の好みも分かってるし、アグニスに関しては心配することはなさそうだ。


「────地味ですね」


 馬鹿野郎!!

 パプカの唐突な地味発言。絶対に面白がって事を荒立てようとしているに違いない。しかも、アグニスに対して【地味】と言う言葉は禁句だ。気にしてるんだよ止めて差し上げろ!


「そ、そんなっ!? 俺はこれ以上のプレゼントが思いつかないんだが、パプカちゃんには何か考えがあるのか!?」

「ふふん。確かにサトーはお酒好きです。ですが、そのままお酒を送るのでは捻りがありません────まず、酒瓶に激辛タバスコを仕込みます」


 馬鹿野郎!!


「安心してください、パーティーグッズの安全な奴です。想像してみてください、祝いの場。タバスコ一気、吹き出すサトー…………ぷふっ」


 俺の誕生日プレゼントの話をしてるんだよな?


「そ、そうか! 俺に足りなかったのはそういう奇抜さだったのか!!」


 だから俺の誕生日の話をしてるんだよな!?


「ふっふっふ! 良いですよ滾ってきました!! 楽しい誕生日になりますよ!! 覚悟してくださいサトー!!」


 誰かこの暴走幼女を止めてくれ。



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