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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
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第百八十七話 馬鹿と言う名の呪縛




「何てことだ……そんな馬鹿な……っ」


 リール村の道の端。各所のお見舞いと言う仕事を終え、自宅への帰路についている俺は地面に突っ伏してしまうほどにうなだれていた。

 相変わらず道端には俺を除いた人間の姿が無い。風邪の大流行によって完全にその活動を停止したリール村は、薄気味悪ささえ感じるほどである。

 そんな場所で、俺の気分は風邪でもないのに駄々下がり。

 それと言うのも5分前。ジュリアスと食事をしていた時の出来事。

 思わぬ料理上手であったジュリアスのシチューに舌鼓を打ちつつ、つい談笑にふけていたのだが、その中の話題で今日一日の愚痴をこぼしていたのだ。

 そしてその話を聞いたジュリアスが言った一言。


「でもその話だと、風邪を引いていないサトーが馬鹿と言う話になってしまうな」


 さりげなく放たれたこの言葉に、俺の全身に衝撃が走った。

 ゴルフリートのオッサンを指して『馬鹿は風邪を引いても気づかない』と評した俺だが、世間一般的には『馬鹿は風邪を引かない』が正しい。

 幽霊であり、完全に例外の部類に入るアヤセを除き、リール村で風邪を引いていない唯一の人間は俺だ。

 すなわちジュリアスのさりげない一言が、俺の精神にどれほどのダメージを与えたのかが分かってもらえるだろう。


「そんな馬鹿な……いや俺は馬鹿じゃない……」


 この世界に召喚されて、何の女神特典も持たず努力だけでやって来た我が人生。

 学生時代は勉強を欠かさず、仕事だってまじめにやって来たのだから、自己評価をするならば甘く見なくても優秀な部類に入るだろう。

 そんな俺が……馬鹿? しかもこのリール村のポンコツ連中と比較しても馬鹿と言うことになってしまうではないか!!

 いや、別に普段から連中を下に見ているとかそう言うことではないが、プライドの問題として馬鹿呼ばわりされるのは我慢ならない。


「普段から何も考えずにトラブルを引き起こす連中だからなぁ」


「「「「ぶあっくしょいっ!!!」」」」


 …………村のあちこちから盛大なくしゃみが巻き起こったが、風邪のせいだよな?


「そもそも、計画性を持ってクエスト受注してくれれば、トラブルなんて引き起こす馬鹿は出来ないはずなんだがなぁ」


「「「「「「ぶあっくしょいっ!!!!!」」」」」」

「ひょっとしてお前ら自覚あるな!?」


 ならばちょっとは態度を改めろ馬鹿ども!!




※    ※    ※




 

 自宅へと帰った俺は、クレームを入れるアヤセを無視してルーンを再び看病。満足感を経て床へと就いた。

 しかし横になって見れば、ジュリアスの言葉を思い出してしまい悶絶をうち、全然眠れなくなってしまった。

 そこでふと、頭をよぎった悪魔の台詞。


『馬鹿と思われたくなければ風邪を引けばいいじゃない』


 ──なんとも馬鹿な考えがリンシュの声で再生され、他人から馬鹿と思われるよりは幾分かマシであると結論付けた。

 そして俺は実行に移す。寒空のなか窓を全開にし、掛け布団を跳ねのけて横になる。全身の震えが止まらないその有様は、翌日になれば確実に風邪を引いているであろうと確信を持った。


 ────翌日。


「ええいクソッ!! 全然元気だ!!」


 体はひんやりとしているが、熱は全くない。頭は冴えわたり、胃腸は活発に活動して、鼻と喉の通りも健やかである。

 思い返せば、召喚されてから今日まで、風邪と言う物を引いたためしがない。ストレス性の胃腸痛や、盲腸での入院を除けば大病を患ったことが無いのだ。

 体が頑丈なのは結構なのだが、今頑丈であっては困るのだ。

 テストに行きたくないから風邪を引きたい学生のような気持ちでいっぱいである。


 落胆に肩を落としながらリビングへと向かう。

 普段ならばルーンが朝食の準備をしているのだが、さすがに本日は休業。昨夜の時点でほぼ治っていたが、念のため長めに寝ているように言っておいたのだ。

 そんな寂しい空間で、俺は健康な自分の体を呪うように大きくため息をついた。


「おっはようございまーす!! ルーンは居ますか? 看病しに来ましたよー!」

「おはようサトー。昨日はありがとう。おかげさまで回復したからお礼に来たぞ」


 寂しい空間が一挙に騒がしくなった。

 飛び込んできたのはパプカとジュリアス。どうやら二人とも完全に風邪が治っているようだ。


「俺は馬鹿じゃねぇっ!!」


 思わず飛び出たのは否定の台詞であった。


「え……何も言ってませんが?」

「どうしたサトー? 何か様子がおかしい……」


「お前ら──治ってんじゃねぇよ!!」

「「ひどい!?」」


 こいつらの風邪が治ってしまったと言うことは、同じタイミングで風邪を引かなかった俺が馬鹿と言うことになってしまうじゃないか!!

 どうせ心の底では「馬鹿は風邪を引かないと言いますが、どうやらマヌケは見つかったようですねぇ!!」とか思ってんだろ!!


「お、おいパプカ……サトーの様子が変なんだが、風邪でも引いてるんじゃないか?」

「昨日あんなに元気そうだったのにですか? まあ、看病疲れが出たのかもしれませんが……なんにせよ言動が変ですね」


 俺の前でヒソヒソ話をするな!! 陰口をたたくのは陰湿だぞ!!

 正直疑心暗鬼になってしまっている気もするが、何分過敏になっている現在、何を言われても悪口にしか聞こえないのだ。


「サトーさん、おはようございます……あ、パプカさんとジュリアスさんも、おはようございます」


 階段をゆっくりとした足取りで降りてきたルーン。普段着ではなくパジャマ姿のそれは、いつものテンションならば最敬礼を持って迎え入れる様子なのだが、今の俺の心情ではそれもままならない。


「る、ルーン……俺を────俺をそんな目で見るなぁーー!!」


 俺はパプカとジュリアスを押しのけて玄関から飛び出した。


「……わ、私何かしましたか……?」

「いや、今日のサトーは何か変だから気にするな」

「いえ、サトーはいつもあんな感じですよ?」


 誰も俺を追いかけてこなかった。






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