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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第十二章 まるで終わらぬ年の暮れ
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第百七十二話 村の日常




 ゴルフリートのオッサンとアヤセの声が聞こえてくる我が家。

 そんな安寧の地(?)へと向かう俺の足取りは重い。

 いや、物理的に水を吸い込みまくった衣服が重いと言うのもあるが、今回の場合は精神的な話。

 我が家の居間に存在する生ける絵画。またの名をミナツの娘【フィクシィ】。

 俺たち一行がダンジョンへと飛ばされ大冒険をする羽目になった元凶であり、今なお居間を占領しているモンスターである。

 さて、そんなモンスターとオリハルコン冒険者のオッサンが鉢合わせたならどうなるか?

 結論から言おう。こうなる(・・・・)


「ああ……やっぱり家が損壊している」


 玄関口は大破。屋根は剥がれて中身がむき出しになっており、二階にある俺の部屋は外からでも内部が確認できるほどに崩壊していた。


「もしかしたら過去一番の被害かもしれませんね……」

「なんかもう、色々と慣れてきた自分が嫌になるな」


 大きなため息をついて俺の視線は下へと落ちる。

 そこにはこのような光景を飄々と見ているだけの元凶その1の顔があった。


「なんですかサトー? わたしの顔が美しいからと言って見つめるのはマナー違反ですよ?」

「いや、お前って凄いなっておもってさ」

「よくわかりませんが、誉め言葉として受け取っておきましょう」

「──皮肉で言ってんだよ!! 分かれゴラァ!!」

「急にキレないでください! 私のような清らかな乙女に後ろめたいことなんてあるわけないじゃないですか! 皮肉なんて通じませんよ!」


 相変わらず居直る幼女との取っ組み合い。頬をつねり噛みつかれ、髪の毛を引っ張られた段階で俺の背筋に寒気が走った。


「うぅ……そう言えばこんなことやってる場合じゃなかった」

「そ、そうだな。さすがにそろそろ着替えないと、本当に低体温症になるぞ……」


 最初に言った通り、俺たちは現在絶賛ずぶ濡れ中。

 一時たき火に当たって暖まったものの、そんなものは冬の外気によってあっという間に奪われてしまっていた。

 肩を震わせその振動で歯がカチカチと鳴る。そろそろ本当に限界のようだった。


「よ、よし……俺はとりあえずアヤセに帰ったと声をかけてくるから、お前らは先に入って着替えてろ」


 玄関先で顎に手を当てながら何やら悩み呆けるアヤセ。なぜか先ほど聞こえていたオッサンの姿はそこにはなかった。

 ひとまず家主として声をかけた方が良いだろう。空き巣と間違われて念力をかけられたらたまったものじゃないしな。

 そんなわけで、限界間近の俺はアヤセの元へと歩みを進める。そして背後から声をかけた。


「おお、おい……アヤッセせ……か、かえ……帰ったゾゾゾ」

「え──うわぎゃぁっ!? オバケーーーっ!?」


 いやそれはお前だろ。





※    ※    ※




 紆余曲折を経て、俺はようやく我が家の中へと帰宅した。

 裏口から入り、バスルームからタオルを持ち出して体を拭いて、崩壊した俺の部屋から無事な私服を取り出して着替えた。

 暖房のあるルーンの部屋へとお邪魔して、俺たちはようやく一息をつくことができた。


「びちゃびちゃの支部長さんが背後から声をかけてくるもんだから驚いたッスよ。心臓が止まるかと思ったッス」

「お前はゴーストだから心臓は止まってるはずだがな」

「まあなんにせよ、無事に帰ってこれて良かったです──あ、ジュリアスさんとパプカさんは先にお風呂に行って頂いてます」

「家主を差し置いてあいつら────ハッ!? この流れだと次はルーンと二人で風呂に入る展開か!? うちの風呂はそこまで大きくないから、密着して湯船に浸からないといけないな! 不可抗力万歳!」

「おっと、させませんよ? ルーンさんには一人でお風呂に入ってもらうッス。そんなおいしいオヤクソクは自分が阻止されてもらうッスから! 絵的にアウトッス!」


 なぜだ。


「いや、それはともかく……皆さんの行方不明事件の原因、やっぱりあの絵画だったんスね」

「やっぱりって言うと、何か推察することでもあったんですか?」

「少し前に駄剣が帰ってきて報告したんスよ。行方不明は結構な騒ぎになってたんスけど、無事だってことが分かったんで今は村も落ち着いてるッス」

「ああ……エクスカリバー。先にダンジョンから追い出されたんだったな。で? その駄剣は今どこに?」

「ええと「サトー氏はしばらく帰ってこないし、早めの休暇で良いでござるな! ヒャッホーイ! 遊ぶでござるぅ!」と言ってヴォルフの街へ遊びに行ったッス」


 あいつは無断欠勤で減給にしておこう。


「まあ駄剣のことはおいといて、聞きたくは無いが俺たちが留守の間の村の報告を頼む」

「そうッスねぇ、いろいろありましたけど────コースケさんが村にやって来たッス」

「あ、それは聞いた。でも村は半壊で済んだんだろ? じゃあ問題なし」

「村の半壊がスルーされた件について」


 だって割と日常茶飯事なんだもん。


「ともかく、その被害についてはコースケさんとゴルフリートさんに賠償をしてもらったので、現在復興作業中ッス。村の人たちも慣れてきてますねぇ」

「たくましい人たちだよな」

「で、他の件となると──」



「オラァッ!! 今度という今度はもう許さん!! 今度こそ分解してたき火に放り込んでやるぞ!!」



「この件ッスかねぇ」


 玄関先から再びオッサンの声が近所中に響き渡った。



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