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第百六十五話 神は〇〇に居る




「おーい! ここの人参早く持っていけ! キャベツとブロッコリーはあっちだ!」

「こらぁ! このジャガイモ洗浄作業が終わってねぇじゃねーか! 納品できねぇぞこんなもん!!」

「肥料の誤発注したの誰だよ!! 300キロのはずが300トン来てんだけど! 置く場所ねぇよ!!」


「…………なんだここ?」


 目を覚ますと、俺はなぜか野菜市場に居た。

 何を言ってるのか分からないと思うが、本当に唐突で意味不明なので俺にもよくわからん。

 俺の最後の記憶と言えば、怒りに任せてルーンにゴーサインを出し、ミナツのクソジジイにエクスプロージョンを喰らわせたところなのだが……さて、あの後何があったのだろうか?

 頭に手を当てて考えてみる。

 なるほど、わからん。

 どんな経緯であれ、俺が野菜市場に運ばれるという意味が解らない。何? 出荷されるの?


「お? 目が覚めたか兄ちゃん。おーい! 目が覚めたみたいだぜ! アックスの兄ちゃん!」

「────アックス?」


 アックス・ル・モンド。

 人間界の首都、中央(セントラル)の教会で活動している聖騎士の青年。

 俺の研修時代から続く友人で、その昔ゴルフリートやヒュリアンなどの凄腕パーティーに所属していたことがあるらしく、戦闘の腕前も相当なものであるらしい。

 で、そんな友人が魔界の野菜売り場に居た。

 泥だらけの作業用エプロンと手袋、農家さんのロゴが刻まれているキャップを深くかぶっていた。


「────アックス……?」

「いや、待ってくれサトー君。この格好はその……違うんだ!」


 何がだよ。


「教会を辞めたという訳ではなく、むしろその教会の斡旋で出稼ぎに来ているだけであって……いや、本当に聖職者は続けてるしそっちが本業だから勘違いしないでほしい!」

「アックスさーん。このごぼう、等級はどうしましょう? 私じゃまだ見分けがつかなくって……」

「ふむ、形は少しいびつだけど、良い大きさだね。それにこれ、ザジさんの所のものだろう? なら道の駅の直売所に卸す前提で一級品扱いで良いと思うよ。良い値段で売れるはずだから────はっ!?」

「立派な農家さんになったな」


 プロの農家さんのようにテキパキと指示を出すアックスに、俺は感心を覚えた。


「うぅ……農家歴も長くなってきたからね……」

「色々苦労がありそうだなぁ……まあそれはともかく、教会の斡旋って言ってたけど、ここ魔界だぞ? 教会からしたら敵国も良いところなんじゃ?」

「サトー君は色々聞いているらしいから言ってしまうけど、教会の上層部とマオー社長は懇意の仲でね。僕も昔冒険者をやってた頃、こっちにも来たことがあるから選抜されたんだよ」

「それでなんで農家に斡旋? 教会が大変ってのは前に聞いたけど」


 現在、人間界における宗教組織。通称【教会】は存続の危機に瀕している。

 なんでも、『神様の声が聞こえなくなった』と言うことらしい。

 神様が実在し、その加護などの恩恵が明確に存在する世界観で、神様の声が聞こえなくなってしまったというのは相当な大事件である。

 俺が召喚される数年前から突如としてそうなったらしく、原因はいまだにわかっていない。

 信者からの不信感を買った協会は、お布施が激減したこともあり、様々な分野で金策に走っているとのことだ。


「それが実はかなり重要なことなんだけど……ああ、その前に身体は大丈夫かい? 痛むところとか、吐き気や頭痛は?」

「ん? いや、特にないけど…………待て。その口ぶりだと俺に何かあったのか?」

「蘇生に際する一時的な記憶の混濁だね」

「蘇生!? 死んでたのか、俺!?」

「正確に言うと仮死状態だけど……一般人には同じことか」


 ファンタジー世界に付き物である【蘇生魔法】。いろいろなフィクションにならい、この世界にもそれは存在する。

 だが変なところでリアルなのが、死んだ人間が蘇らないという現実である。

 そのため、この世界において蘇生魔法と言うのは、【仮死状態】と言うステータスからの復帰と言う意味合いになるのである。

 ちなみにこの魔法は医療従事者ではなく、教会関係者。すなわちプリーストの分野であるため教会で行われるのが普通なのだ。


「何があった……っ!」

「僕もよくわかってないけど、とりあえずシシィ……さん? って人から手紙を預かってるよ」


 俺は受け取った手紙を広げ、書かれた文字に目を走らせた。

 以下は内容の要約である。


『サトー様へ。我が開発者(マスター)が馬鹿ですみませんでしタ。まあそれはともかくとしテ、爆発による──ではなク、それに対する私の自動反撃(オートリベンジ)機能による院内の被害についてですガ、損害分の請求書はリンシュ様へ送付しておきますのでご安心ヲ。追伸、反撃によるサトー様の仮死に関してはさすがに気が咎めるのデ、蘇生費用は私持ちにさせていただきましタ』

「り、リンシュに……だと?」


 怒りに身を任せるとこうなるのだ。よりにもよってリンシュへ請求書が送られるという失態。何十倍かにしてこの借りを返さないといけないんだろうなぁ……


「その……大変だね?」

「まともに同情してくれる数少ない友達だよ、アックスは……」

「ひとまずそんなわけで、後遺症もなく良かったよ」

「……ん? いや、待て。蘇生されたって話だが、じゃあなんで野菜市場? そこは教会に連れていくべき案件なんじゃ?」


 そう問いただすと、アックスは何やら目をそらし、気まずそうにゆっくりと口を開いた。


「んん、まあ……実はだね。教会で祀っていた女神様からの声が聞こえなくなって以来なぜか……」

「なぜか?」

「────なぜか豊穣の神様が野菜市場に降臨するようになってしまったんだ」


 ────なんで?





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