第百六十四話 黒幕
「ちょっとは落ち着きまして?」
「「すみませんでした」」
俺とルーンは仁王立ちで怒りのマークを頭に浮かべるディーヴァを前に、二人並んで正座中。。
ミナツのあまりにもな言動に激高し、珍しくルーンすらキレた今回のお話。
ディーヴァによる解呪(物理)によってルーンの大魔法は阻止されて、俺の頭には特大のたんこぶが出来上がることになった。
『若いのに苦労しておるのう。禿げないように、いっぱいワカメを食べるのじゃぞ?』
「他人事のようにこのクソジジイ……」
震える拳をディーヴァの睨みつけで抑え込む。
確かに怒りこそあるが、ミナツはすでに故人。今こうして話しているのも、人工知能未満のデータでしかない。
しかもそれを映し出しているのは何の罪もないシシィなのだ。この件で暴力沙汰になってしまうと、一方的に被害を被るのは彼女である。
ならばここはぐっと怒りをこらえる場面であろう。
「ふーっ…………よし。じゃあ話を変えよう。アンタが作ったっていうもう一つ。あのふざけ倒したトラップまみれのダンジョンについてだ」
『うむ。あのダンジョンは儂の歴代製作品の中でも傑作のひとつでな。驕り高ぶった強者たちを鍛えなおすためのダンジョン、その名も【アスレチックSASUKEh】じゃ』
「オーケー。話は続けて良いが、その名前は二度と出すな」
『何を言うか。商標登録には気を遣う儂じゃぞ、抜かりはないわ。よく聞け、発音は「サスケェ」じゃ。小さい【ェ】を忘れるでないぞ』
心の底からどうでもいいわ。
「やっぱりあのダンジョンは普通の物とは違うんですか?」
『そもそもの目的がレベルの振りなおしじゃからな。ぶっちゃけクリアしたところで旨味はないの。振りなおした結果弱くなる可能性も高いから、結局お蔵入りになったダンジョンなんじゃよ』
そんな色物ダンジョンに挑んだ勇者パーティーが哀れすぎる。
「じゃああの訳の分からないトラップの数々は?」
『だって普通のトラップなんてつまらんじゃろう?(鼻ほじ)』
こいつ、俺たちの数週間を「つまらんじゃろう?」の一言で片づけやがった……っ!
「ぐぐぐ……っ────いや、いいや。もう終わったことさ」
「サトーさん、日に日に精神がたくましくなってますね……」
そうでないとやってられないからな。
「今は過去の事より未来のことだ。聞きたいのは、今後また俺たちがあのダンジョンに飛ばされないためにはどうすればいいのかってこと」
『知らん』
「やっぱり殴らせてもらっていい?」
『いやだって、ダンジョンそのものに人を呼び寄せる機能なんてないもん。そもそもなんでサトー達がダンジョンに入り込んだのじゃ?』
「俺の家の生ける絵画に飛ばされた」
『何それ儂関係ないじゃん……って、ん? 【生ける絵画】って言ったかの?』
「え、言ったけど?」
ミナツは顎に手を当てて眉をひそめ、何やら考え込んだ挙句口を開いた。
『もしかして、お主ら出身は人間界の東部の辺境か?』
「出身と言いますか、今住んでるのは確かに東部の……ん? なんで知ってるんですか?」
『なるほどのう。おいシシィ、聞こえておるか?』
『なんでしょう、マスター?』
画面に映し出されるミナツの姿はそのままに、シシィの意識はまだあるらしく、返事をするというおかしな光景があった。
『お主のお姉ちゃんが見つかったぞい』
ミナツの言葉が耳へと入り、意味が解らず俺は首を傾げた。
なぜダンジョンの話と、それにまつわる生ける絵画の話題からシシィの姉の話へと行きつくのだろうか。
『……マスター、まさかとは思いますが……』
『うむ。人工知能を魔法で生み出すにあたってのプロトタイプ。すなわちシシィの姉『FIX1』通称【フィクシィ】と言うのじゃが、東部への旅行の際に落っことした『生ける絵画』の事じゃ。いやはや、無事でよかったわい』
何のことは無い。
結局のところ、話はすごく単純であった。つまり────すべての黒幕はミナツであったのだ。
「ルーン、頼む」
「はい、サトーさん────エクスプロージョン!!」
最後はやっぱり爆発オチであった。