第百六十二話 二人目のウザい奴
ミナツ・ハルマ。
かつて魔の国に突如として現れた召喚者は、ありとあらゆる物質を想像できる特殊な能力を備えていた。
彼の生み出す数々の発明品はマオーの会社を潤し、瞬く間に開発部門のトップへと上り詰める。
ダンジョンメーカーとしての力も振るい、現在稼働している会社所有のダンジョンは4割が彼が製作したものである。
残念ながら、寿命は周りの長寿な魔族とは違い一般的な人間のままであったため、その活動期間は非常に短く、現代から数えて2000年前にはその生涯を終えている。
彼が遺したアイテムやダンジョンは神の遺物と呼ばれ、下手に触るととんでもないことになってしまうため、封印指定されている物も多いとかなんとか。
「数々の元凶はそいつかぁーーっ!!」
俺はシシィから説明を受けて直後叫んだ。
聞くと、あのふざけ倒したダンジョンと、これまたふざけ倒した解除方法を持つ【クーリングオフの判子】はミナツが遺したアーティファクトと呼ばれるものなのだそうだ。
これまで振り回されていた諸問題の元凶の正体が発覚したのだ。怒り狂うのも察してもらいたいものである。
「元同僚として何とも言えないですわね……」
『悪ふざけのために生まれてきたかのようなお方でしたからネ。亡くなってから100年ほどは社長があっちこっちに出張しては封印をして回っていましたかラ』
あのマオーを振り回すなんて逆に凄いことなのではあるまいか。
『しかし、人間界にまで渡っていたとはさすがに驚きでしタ。どうやって手に入れたのですカ?』
「たしか……前の職場で埃かぶってた箱から出したやつだったはず──「札を破るべからず」って書いてあったなぁ」
「なんで破ったんですの……」
「違うんだよ! 札を破った後に、その下から出てきた文字であって……そんなの流石に避けれないだろう!?」
『まあ、製作者は人間界には何度も遊びに行っていますかラ、どこかで落っことして来たのかもしれませン』
そんな財布みたいな感覚でアーティファクトを落とすなよ……
「あのう……ちなみに、クーリングオフの魔法を使用するための呪文なんですが、それもミシマさんが?」
『「呪文?」』
俺は判子のケースに入っている説明書を取り出して、シシィとディーヴァに見せた。
『こ、これを……』
「やったんですの?」
「止めろよぉ!! だってそれをやれって書いてあるんだから、職務上やるしかなかったんだよぉ!!」
「あの……恥ずかしい黒歴史なので……本当に止めてくださいお願いします……」
涙を流して懇願するギルド職員二人の図であった。
『ふむ、おそらくと言うかまず間違いなく悪ふざけの産物でしょうガ、製作の経緯を本人に聞いてみますカ?』
「え? でも、そのミナツってやつは2000年前の人間なんだろ? 亡くなったって言ってたじゃん」
『本人は確かに亡くなっていますガ、本人に近い人工知能のデータが残っていまス。アーティファクトの情報などは、検索すれば出てくると思いますヨ』
そう言うと、シシィの頭部であるTVモニターが電源を切った時のように突如として真っ暗になった。
シシィはモニターについている摘みを回すと、再び電源が入ったように明るくなり、画面の中心に白いひげを蓄えた老人の姿が出てきた。
とぼけた顔で鼻くそをほじっていた。
『なんじゃいキサマ、無個性主人公のようなすっとぼけたツラをしよってからに』
「…………これ、テレビ電話とかではないんだよな?」
『これぇ、テレビ電話とかではないんだよなぁwwwww?』
「は? 何だこいつ……」
『はぁ? なんだぁこいつwwwww?』
俺は右の拳を大きく振りかぶった。
「待ってくださいサトーさん! 画面本体はシシィさんですから! 落ち着いてください!」
「止めるなルーン! このすっとぼけたツラのクソ爺を殴らせろ!!」
「たぶん殴ったら砕けるのはサトーの拳ですわよ。シシィの防御力的に」
煽るように俺の言葉を反復するミナツに対し、俺の怒りは一瞬で沸騰。ルーンとディーヴァの静止が無ければ俺の拳が火を噴いたであろう。
「ふぅ……ふぅ……エクスカリバーを相手にしてるみたいだ」
「アレが二人になったとしたら世界の終わりですわ」
想像しただけでおぞけが走る世界である。
『サトー様、これはあくまで事前に保存されたデータから作られた映像ですのデ、あまり難しい会話はできませン。自動的に同じ台詞を反復するようになっていまス』
シシィが丁寧な説明をしてくれた。なるほど、ゲームにおけるNPCみたいなものと思えば良いんだな。
「分かった。もっと端的に話そう」
『分かったぁw。もっとぉ、端的に話そぉwwww』
「ふん怒ぅーー!!!!」
「サトーさん! 話が進みませんから落ち着いてください!」
本当にエクスカリバーと話しているような気持ちであった。