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第百五十九話 アイドルの方向性





「はぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 病院内の待合室。奥から響く悲鳴。

 シシィに半ば引きずられるようにしてルーンが連れ去られた方向から聞こえてきていた。


「ルーン、凄い悲鳴ですわね」

「いいや、ルーンは「はぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」とか言わない。きっと別の奴だ」

「いやでも今のルーンの声……いえ、なんでもありませんわ」


 そうさ。あの可愛らしいルーンが「はぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」とか言う訳ないだろうが。変なことを言うんじゃないよ。


「────と言うかそれよりも……」


 俺は待合室の長いすに座っているディーヴァの顔を見た。

 作り物かと見まがうほど整ったその顔は、二つの瞳できょとんと俺の顔を凝視している。

 思わず顔をそむけてしまった俺の心の内は、明確にとある言葉を浮かべていた。


 気まずい。


 すごく今さらだが、俺はディーヴァときちんと話をしたことがない。大抵の場合はほかに別の誰かがそばにいたし、二人きりで話すとなると何を話題にすればいいかよくわからないのだ。

 俺の家に間借りさせているのも、成り行きと言うだけでそこまで仲も良いわけではない。

 という訳で、待合室に俺とディーヴァ以外誰もいないという状況。気まずいというほかないのである。

 何とかしてこの空気を打開しなければ。


「えーっと…………ご趣味は?」

「お見合いですの?」

「あ、いや! ええと……と、隣の家に塀が出来たんだってよ?」

「そうですの? サトーの家から隣家までは数百メートルは離れていますけど」

「へぇ…………うん」


 あれ!? 俺ってこんなに話すの下手くそだったっけ?

 違うんだよ! もっと世間話的な話をすればいいだけなんだ! 最近どうよ、みたいに聞け!!


「さ、最近どうよ?」

「さっきから変ですわよサトー。別に変りありませんわ」

「へぇ…………うん」


 ────終わった。

 俺はこんなにもコミュ障だったのか。いつも騒がしい連中が周りにいたから、勘違いしていたんだな……

 こんな俺を見て、ディーヴァはいたたまれなくなったのか口を開いた。


「…………最近と言えば、アイドル活動の楽曲がレコーディング会社の一次審査を通過しましたわ」

「え、どこの馬鹿だそんな無謀な判断したのは」

「いつものサトーに戻ってきましたわね。とりあえず一発殴らせてくれます?」


 殴られた。


「待て待て、そりゃディーヴァの目標がアイドルってのは分かるが、種族的に歌は不味いだろ!?」


 ディーヴァは【堕天使】と呼ばれる伝説の魔族であり、その歌は人間を即死させる効果を持つらしい。最低でも廃人は確定だそうだ。

 当時は知らなかったが、夏祭りの際にメテオラが止めていなければ、それはもう大惨事になっていたことだろう。


「だ、大丈夫ですわよ! サトーも私の歌は聞いたことがあるでしょう? 堕天使の能力は、魂を込めて歌った時だけ、魂を吸い取ってしまうものなのです」

「魂を込めずに歌うアイドルってどうよ?」

「うぅ……さ、最近のアイドルは歌唱力は必ずしも求められていませんの!」


 身も蓋もねぇなぁ。


「じゃあ踊る系のアイドルか? ちょっと見せてみてくれよ」

「えぇ……仕方ありませんわね」


 ディーヴァは渋々ソファから立ち上がり、懐から取り出したスマホらしき物体を操作した。え、スマホまであるのここ!?


「ごほんっ! では行きますわ」


 スマホらしきスマホから流れてきた音楽。それに合わせてディーヴァが動き始めた。

 和太鼓が腹に響く音と木を打つ甲高い音を鳴らし、時々入る合いの手は懐かしい感じがした。

 そしてディーヴァの動き。両手を延ばして少し前へ進み、手を鳴らしてまた動き出す。


「よよいのよいっ!」

「オーケー、ストップ」


 盆踊りである。

 ラップと言い盆踊りと言い、なぜこいつは色物アイドルを目指そうとするのだろうか。馬鹿なのだろうか?


「お前、その見た目で盆踊りってどうよ?」

「ギャップ萌えがあると聞きましたわよ?」

「誰に?」

「リール村の魔剣さんにですわ」


 お前それ一番聞いちゃいけない奴じゃん。


「せめてリュカン辺りに聞いておけば……いや、今更なことか。ちなみに、歌の方はどんな曲を歌ったんだ?」

「あ、歌詞カードがありますわよ? 見ます?」


 そうして受け取った歌詞カード。詳細は省くが、最初の出だしはこう書かれていた。


「どんぐりころころど…………オーケー、分かった」


 童謡である。

 俺は頭を抱えた。そりゃぁ一次審査も通過するはずだ。審査員は腹を抱えてこの色物アイドルを笑った事だろう。

 歌唱力とか関係なく、話題性を考えればこれで審査を通すのも理解できる。実際面白いからな。


「ちなみにこれはお前の考えか?」

「いいえ、先ほどの魔剣さんのですわ」


 帰ったらあいつぶん殴ろう。

 

 いや、まあでもこのような平和な内容で審査に通ったのであれば、それは本人にとっても周りにとっても良い結果なのかもしれない。

 このままバラエティアイドルとして出世するのであれば、それに越したことは無いのではあるまいか。

 

「まあ、この調子で二次審査も頑張れ」

「また魔剣さんにアドバイスをもらってきますわ」


 それはやめておいた方が良いと思う。



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