第百五十四話 意外と知り合いが多い
『医者を紹介してほしい?』
緊急用に渡された通信器具。見た目は完全にガラケーのそれを鳴らすと、受話器越しにマオーの疑問符が聞こえた。
男の気持ちを理解しないパプカは呆れて自室へと戻り、現在はルーンと二人きり。
そんな中で、ルーンの体を元に戻すための方法を考えた結果、権力者に頼るという方法を取ったのだ。
「実はかくかくしかじかでして」
『なんやかくかくしかじかて。ちゃんと説明せんかい』
どうやらこの世界の人間には説明の省略が出来ないらしい。
という訳で詳しい説明を行うと、マオーは「ああなるほど」と言って俺たちの相談に乗ってくれた。意外と面倒見の良い人である。
『会社内での検査は簡易なものやったからな。確かに専門家に見てもらえれば結果は違うかもしれん』
「ほ、ホントですか? 私ちゃんと男の子に戻れるんですか?」
『時間かければ戻れるんやし、そう気にする必要は無いと思うけどなぁ。まあ薬貰えれば早まる可能性はあるやろう』
マオーの希望ある言葉に、ルーンは感涙の涙を浮かべた。可愛い。
『こっちから連絡は入れておくから、明日にでも……ん? ゴルァ、タナカァ!! 書類また間違っとるぞ! 何じゃこりゃぁっ!!』
『すみません!!』
電話が切られる直前に聞こえてきた説教は聞かなかったことにしよう。
* * *
そして翌日。俺とルーンはジュリアスとパプカが徘徊するホテルから抜け出して、街で休日デートとしゃれこんでいた。
「いえ、あの……病院に向かってるだけですからね?」
「それはもう実質デートと言って差し支えないのでは?」
「違うと思います……」
ジュリアスかパプカがいないといつまでもボケてしまいそうなので、さすがにこの辺りで切り上げておこう。
ルーンの言う通り、俺たちは今マオーに紹介された病院へと向かっていた。全てはルーンのち〇こを取り戻すために……
「もうちょっとオブラートに包んでください……」
赤くなってうつむくルーンはそれはそれは可愛かった。
「そろそろ病院だと思うけど…………どんどん人気のない道に逸れているのは気のせいだろうか?」
「いえ、たぶん気のせいではないと思います。治安も……悪そうですね」
紹介された病院への地図を見ていると、明らかに中心街から逸れており、それに伴って治安もすこぶる悪いエリアに入っているようだった。
ガラの悪い連中が物陰から俺たちを見て笑い、家の窓からは突き刺さるような視線。
いかんな。護衛用にパプカぐらい連れてこればよかった。ルーンは今弱体化してる状態だし、俺はそんなルーンよりもはるか格下の雑魚だ。
ヤンキーに絡まれでもすれば、身ぐるみを差し出して土下座するぐらいしか対処法が思いつかない。
「病院があるような地域ではないよなぁ。紹介されたのって闇医者的なアレなのか?」
「流石にそれは……もしかして道に迷っただけなんじゃ……」
そう言って地図を何度も見返してみるものの、やはり道順は間違っていない様子。
だが同時に、すでに病院は見えるほど近くにあるはずなのだが、それと思しき建物は一切見えてこなかった。
「教えてもらった場所自体間違っているとかいうオチじゃないよな?」
「ここまで来るとその可能性も…………ん?」
困り果てていると、何やらルーンがこちらを見て首を傾げた。
そしてその瞬間、俺の肩に重みがのしかかり、おかしな気配が俺の首筋をゾワリと撫でる。
「ひゃぁおわぁっ!? お、俺たち全然金持ってないです! 身ぐるみって言っても、着てるもの全部大量生産品なんで安物なんです! そうだ、ホテルに戻れば二人ほど生贄にささげられるんで、取りに行くまでちょっと待っててもらっても良いでしょうか!!」
「何を言ってますのサトー……」
驚きのあまり飛び上がり、そのまま土下座へと移行。そしてジュリアスとパプカを生贄に身の安全を召喚しようとした矢先、俺は声をかけた人間の正体に気が付いた。
白と黒のドレスに身を包み、巨大な黒い羽を持つ。現在リール村の我が家に仮住まい中の残念美人。
魔王軍四天王、ディーヴァの姿がそこにあった。
────四天王とのエンカウント率が高すぎるように思うのは気のせいだろうか?