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第百四十六話 キャラ被りの幼女







「と言うかパプカ、肉体的に女子高生くらいまで成長してるなら、その舌っ足らずなしゃべり方はなんなんだ? やっぱりキャラ付け?」

「あっはっは、何を言ってるんでちかサトー。キャラ付けはまあ8割そうでちが、2割は本当にしゃべりにくいのでち。成長速度が速いからでちかね?」

「8割キャラ付けなのかよ」


 俺たちは慣れない魔の国の路地裏を進んでいる。道に迷った俺のために、パプカが道案内を買って出てくれたのだ。

 歩きながら世間話をしていたのだが、俺はすぐに違和感に気が付いた。このパターンもある意味お約束である。


「一向に路地からの出口が見えないんだが」

「それはサトー、出口を探そうとしてるからでち。逆に考えて出口は入り口のことであり、入り口は出口のことであるのでち。探そうとするから見つからないのであり……」

「哲学的に語ってるとこ悪いが──迷ったんだな?」


 先導するパプカの足が止まった。


「一般的にダンジョンを脱出する方法はいくつかあるのでちが、有名なのはアリアドネの糸と言う高額アイテムを使用することで──」

「迷ったんだな」

「────あっはっは、何を言ってるんでちかサトー。迷ったというのはまあ8割そうでちが、2割は本当に方角が分からないのでち。歩き回っていたからでちかね?」

「それはさっき聞いた!! と言うかそれだと10割迷ってるじゃねぇか!!」

「ええ、迷いましたよ! 迷いましたが何か!? 人間だれしも人生と言う名の迷路に迷ってんだから何の問題があるんですか!?」

「逆切れ!?」


 この女、都合が悪くなるとすぐに逆切れをおこすのだ。舌ったらずな言葉遣いが消えたのを見ると、やはりそちらもキャラ付け10割なのだろう。

 パプカを信じた俺が馬鹿だったとは言いたくないが、パプカを信じた俺が馬鹿だった。



「うるさーーい!! 近所迷惑ですよ!!」



 そんな声が路地裏に響き渡る。

 声の主は俺とパプカではないが、甲高い声質を聞くに年若い女の子の物だろう。と言うか、どうにも聞き覚えのある声だった。


「────って、サトーさんとパプカさんじゃないですか。なんでこんなところに?」

「──ネロ?」


 近くの家の扉を開け放ち目の前に現れたのは、最悪の召喚者コースケのパーティーに所属する幼女。ネロリアス・マクナンであった。






*    *    *




 ネロリアス・マクナン。若干12歳にしてプラチナランクの冒険者。つまり、20歳の偽幼女であるパプカと同格の超凄腕冒険者という訳だ。

 魔法使いとして第一線で活躍している彼女は、この世界の法律に照らし合わせても完全アウトな年齢にもかかわらず、コースケハーレムの一員となっている。

 風の噂では北部の無人地帯を買い取って、貴族位を用い領地を構えるために奔走していると聞いた。コースケのハーレムが完全体になるのもそう遠くない未来なのだろう。

 にもかかわらず、ハーレムの一員であるネロがこんな場所に居るのはおかしな話だ。と言うか、普通の人間が魔の国に居ること自体おかしい。

 俺とパプカはネロの案内で家の中へと入り、ひとまずの安息の地を得た。


「しかし驚きましたよ、なんでこの国にお二人が? 通常の手続きじゃ入国できないはずなんですが」

「それはこっちのセリフでち。なんで魔の国にネロさんがいるんでちか? しかもこの家、ネロさんのご自宅なのでちか?」

「あー…………色々説明したいことと聞きたいことがありますが──なんでパプカさん小さくなってるんですか?」

「これには浅くも短い理由があるんだよ」


 俺は事のあらましをネロへと説明した。端的に説明しすぎたのか、彼女は顔を引きつらせて混乱しているようであった。

 実際意味わからないよなぁ。俺もわからん。


「ま、まあよくわかりませんが、魔の国に来た経緯は理解しました」

「では次はネロさんの番でち」

「ええ。ここまで来ると隠す必要がないので言いますが──私は魔の国の出身なんです。種族は【ウィッチ】と言う、生まれながら魔力の高い人種なのですよ」


 つまり、見た目は人間と変わらないが、中身は魔族であるということらしい。年齢からは考えられないほど秀でた能力は、ここから来たものが多いのだろう。


「もしかして、年齢も本当は12歳じゃなかったりするのか?」

「いえ、ウィッチは寿命が短い種族ですから人間と変わりありません。生まれてから12年しか経ってませんよ」

「ううむ、只者ではないと思っていまちたが、まさか種族自体違うとは……」

「一応内緒にしていることなので、コースケさんたちには言わないでおいてくださいね」


 各界の大物たちをハーレムに加えるだけでは飽き足らず、今度は外国の美少女まで手籠めにするのかあの野郎。帰ったらもう一発ぶん殴ってやらないとな。


「一度も殴れたことないでしょう? 怪我を治すのはわたちなんでちから、やめてほしいでち」

「それはともかく、魔の国に来てるのはやっぱり正月の里帰りか? メテオラみたいに」

「それもあるんですが、定例会があるんですよ」

「定例会?」


 俺は思い返す。彼女が所属している組織については三つの覚えがあったのだ。

 一つは冒険者ギルド。プラチナランクとして優秀な腕前を持つ彼女は、もう一つの所属先のはた迷惑さはともかくとして、それを補うほどの有能さを持っている。

 もう一つは、はた迷惑な組織。他称コースケハーレム。これについては深くは語るまい。と言うか語りたくない。滅べ。

 最後の一つ。恐らくそれについての定例会のことを言っているのだろう。


「【召喚被害防止委員会】?」

「なんでちたっけ、それ?」

「確か名前の通りの組織だったはずだ。ギルドの後始末部隊とは違って、事前に被害を食い止めるための組織……だよな?」

「はい。王国にもいくつか支部はあるんですが、大きな拠点は魔の国にしかないですから。定例会はこっちで行われることも多いんです」

「なるほどなぁ。名刺に住所が書かれてなかったのも、魔の国の組織だからってことか」


 確かに表面上敵対関係のある外国の組織だとバレるのは、いろいろと問題があるだろうからな。

 

「ちなみに定例会はこの後この場所で行われる予定なんです」

「そうなのか? じゃあ長居するのも悪い────はっ!?」


 いや待て。確かにここにいる俺は部外者だ。俺の言う通り長居するとネロに迷惑が掛かってしまう状況かもしれない。

 だが少し考えてほしい、果たして俺は本当に部外者なのだろうか?

 召喚被害を防止するための委員会。すなわち、俺のように召喚被害を受けた人間のためにあるような団体だ。

 俺はすでにコースケやハルカ、そしてエクスカリバーやアヤセに被害を受けている被害者だ。ならば彼女たちの活動を知っていて損はないのではあるまいか?

 かつてのネロの説明には「丸焦げにされたり、地の果てまで吹き飛ばされたり、頭ごとかじられたりします」とあった。なるほど、会員が魔族であるならばその説明は理解できる。

 しかし実際に魔の国にやってきた俺の感想は、意外とまともな奴が多いという印象だった。

 確かに実力は普通の人族とは比べるわけもない。生まれながらに戦闘能力が高いのは、それは人種のなせる業であって、精神性まで肉体に引っ張られているわけではないのである。

 ネロの話も、少し盛った作り話の可能性は高い。魔族であることを打ち明けることができない以上、委員会への参加など認めるわけにもいかなかっただろうからだ。

 ゆえに──すべての障害は取り除かれた。


「ネロ、俺を────会合に参加させてくれ」




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