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第百三十九話 異世界召喚もの





「はぁ……楽しみだな、サトー! まさか魔の国でもミナス・ハルバンの大冒険が販売しているとは! しかも新刊は第365巻だぞ! 中央でも342巻と番外編しか出ていないはずなのにどういうことなんだろうな!?」

「知らん」


 【ミナス・ハルバンの大冒険】

 千年以上の間、世界中の子供達を虜にしている大ベストセラーの児童小説。長きに渡り人気を博していることからこの本は、児童はもちろん親世代祖父母世代まで幅広い支持層を誇る。

 しかも、ただの児童小説と侮ることなかれ。大人が新刊を読んでも十二分に楽しめることから、新刊が出た際は大人たちの行列ができるほどの内容である。

 ジュリアスの勧めで(半強制的に)俺も目を通しているのだが、実際すごく面白い。日に十冊なんて無茶なノルマは無視しているが、寝る前の読書が日課とかしているほどだ。

 この世界の人間では一般常識なシリーズであるが、召喚者の俺はその常識を知らず、一巻から読んでいるためまだまだ新刊にたどり着きそうもない。

 そんな中で「新刊が出たぞ!」なんてハイテンションで言われても、「ネタバレすんなよ」ぐらいしか反応が返せないのである。


「つーか、なんでわざわざ俺の部屋まで……パプカとルーンは隣の部屋だったはずだろ? そっちを誘えよ」

「パプカは先に誘いに行ったんだが、いつの間にか居なくなっていたんだ。まだ体が元通りになっていないのに心配なんだが……」

「パプカの野郎、なにか察して逃げやがったな」


 意外と勘が良い幼女である。


「ルーンは……その、付き合わせるのは悪いだろう? こんな大変なこと」

「そんな大変なことを俺に付き合わせようとしてるのかよ」

「サトーなら良いかなって」


 この女ひっぱたいてやろうか。


「まあ、付いてきた以上付き合ってやるが、お前の言う40冊なんて無理だぞ。国で出てない23冊掛ける40冊だろ? 抱えきれねぇし、そもそもお前金あるのか?」


 ジュリアスは可動域限界まで首をひねって顔をそむけた。

 準備の間もなくダンジョンへと転送され、そのまま魔の国までやって来た俺達が対した現金を持ってきているわけもない。マオーから生活資金を貰ってはいるものの、何百冊も小説を買える額ではない。


「…………金を貸してくれ」

「お前大概にしとけよ……」

「お願いだ!! 国に帰ったら返すから! 冬の貯蓄を切り崩してでも返すからぁ!!」

「切り崩すなよ! 計画性のない冒険者に仕事を回すのは俺なんだぞ!? お前本気で凍死するぞ!!」

「だって国ではまだ販売されていない物が23冊もあるんだぞ!? この期を逃したら次いつ手に入るかわからないんだぞ!? 私がおばあちゃんになっても全部出てくれるとは限らないんだ!!」


 ええい、離せしがみつくな!

 言ってることは理解できるが、金を借りたり切り崩してまでやることじゃねぇ!(正論)

 そもそも二人の持ち金を合わせたところで、各40冊はおろか23冊でさえ買うことは出来ないだろう。俺の了承が取れるにせよ取れないにせよ、現実として全巻入手は不可能なのだ。


「……マオーさんに金を借りて──」

「や・め・ろ!!」


 俺はジュリアスの両肩を掴んで静止した。これまでにない程の本気の口調であった。


「さ、サトー。目が怖い」

「俺は人の自殺を見て過ごすほど冷淡な人間じゃないんだよ」

「サトーの迫力に殺されてしまいそうなんだが……」


 マオーに金を借りるなんて何を考えているんだこいつは。魔王と言う肩書きは勘違いだったが、彼女の実力的には魔王と呼んでもおかしくない人だろう。

 そんな人に金を借りて、万が一返せないなんてことになったならば、ヤクザに借りるよりも恐ろしい結果になるのは想像に難くない。

 余波が俺にまで降りかかることも、これまた想像に難くない。


「そんな無茶苦茶言うのなら俺はもう帰るからな!」

「そんな後生な! 待ってくれサトー! ……ん?」


 と、踵を返した俺はもと来た道を戻ろうと歩みをすすめる。が、その足は目の前に現れた人影によって止められてしまった。

 きれいに整えられたおかっぱ頭。大きな瞳は白目と黒目が逆転しており、頭の上にたくさんの花が飾り付けられた少女。まさしく美少女と評すべきその女の子が、息を切らしながら横の路地から俺の前へと駆け出してきたのである。

 キラキラと光る女の子の瞳が俺へと注がれて、思わず頬が紅潮してしまう。しかも追加で、女の子は俺の手を握りしめてこう叫んだ。


「助けてください! 追われているんです!!」


 なんか普通の異世界召喚ものが始まってしまったようだった。







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