第百三十七話 アコギな商売
説明しよう!! 【接待ダンジョン】とは、魔の国に存在する多目的企業【マオーグン】の一部門が執り行っているアミューズメントサービスの名称である!!
入場料を払った冒険者達が、一攫千金の夢を見るのをお手伝い! 宝箱の常時補充は当たり前! 各フロアのボスモンスターは会社専属の役者たちが担当しており、重厚なストーリーで冒険者を楽しませてくれる!!
見事ダンジョンをクリアしたならば、富と名声は君のものだ!! ただし、内部で死亡や遭難しても自己責任! 命を天秤にかける事が出来る冒険者だけお越しください!!
と言う、やけにテンションの高いマオーからの説明を受けて、俺はわけが分からず思考が停止した。結構長い文章を噛まずに言い切った辺り、会社で決まっている説明文なのだろうか。
「なんじゃそりゃ」
「まあそういう反応になるわな。でも事実やし、ちゃんと受け止めぇや」
「いや、ちょっと待ってください。ってことは、人間界のダンジョンはすべて魔族に牛耳られてるってことですか? 国の警備体制ぇ……」
「すべてってのは言いすぎやで。ウチの会社が管理しとるのは全体の二割って程度やし」
「え、でも発見されてるダンジョンって全部に管理者がついているはずですが……」
「ああ、それはアレや。ボッタクリやな。調べれば分かることやけども、あいつら管理なんかしてへんで。入り口で金をぶんどってるだけやから」
た、たしかに、ダンジョンというものは場所によっては宝箱の中身はすっからかん。ボス級のモンスターも少なく、廃れてしまっている場所も多い。と言うかそっちのほうが大半であり、入るたびにそれなりの宝が出土するダンジョンなど────全体の二割しか無いのである。
「それは……良いのか? ギルド職員として告発すべき事案なのでは……」
「止めといたほうがええで? そっちの国のお偉いさんも結構関わってるみたいやから、サトーレベルの権力じゃたちまちコレやな」
マオーは人差し指で自分の喉を切った。通常解雇と言う意味だが、この場合は物理的な切断を意味するのだろう。
「国の暗部を見た気がする……」
「暗部なんて言い出したらキリ無いけどな。まあ、そういったわけやから告発はおすすめせえへん」
「わ、分かりました……」
正義よりも身の安全が大事。これ重要。
「でも、根本的な話。そんな商売で儲けは出るんですか? 入場料と言っても、大金を払っているわけでは無いはずですけど」
「そこはちょっとしたカラクリがあってな。途中で全滅したパーティーから身ぐるみ剥いでゲフンゲフン! いや、救出代として装備の一部をもらって、それを換金してんねん」
大きいダンジョンでは、救出を専門にした部隊が常設されていると聞く。事前に保険に入っておいて、全滅前に救難信号を送れば部隊が駆けつけてくれるというシステムだ。
そしてそのシステムで救出された冒険者は装備のほとんどを紛失していることが多いらしい。激しい戦闘の後で紛失するのは当たり前だと思っていたが、こういったカラクリがあったのか。
「黒字なのは超高難易度ダンジョンがほとんどでな。ミスリル以上の冒険者の装備は魔の国では美術品としての価値が高いねん。剣の一本でも手に入ったらウッハウハやで」
「ぶっちゃけますね。それってある意味窃盗なのでは?」
「中で活動する社員のレベルはダンジョンのレベルと合わせてるし、それでも負けたなら冒険者の力不足やろ。死ぬのに比べたら剣の一本や二本や防具や杖やマジックアイテム諸々なんて安いものやろ」
やっぱり身ぐるみ剥いでるじゃないか。
「ちなみに、宝箱に入ってる刀剣類は魔の国では大量生産品に当たる代物でな。そっちじゃ相当ありがたい性能でも、こっちじゃ安物ってな具合なんや」
「つまりは文明格差ってことですか……」
例えるなら、戦国時代に存在した高名な日本刀を貰う代わりに、安い現代の拳銃を十個配る……みたいなイメージだろう。
強力かつ実用的なのは拳銃だろうが、現代人からすれば価値があるのは日本刀だ。それこそそれ一本で一財産築けるレベルの金が入ってもおかしくない。
「まあ、それでクレームが入ったこともないし、国の法律にも触れてへんから問題ないやろ────で、今回のサトー達の不法侵入の件やけど」
「あ、アレは不可抗力ですよ!? 俺みたいな一般人が自分の意志でダンジョンアタックをするわけ無いでしょ!?」
「あーあー、分かっとる分かっとる。怒っとるわけやないから、どういう経緯でダンジョンに入ったかを説明せえ」
本当だな!? 説明中に突然キレて人生終了とか嫌だからな!?
というわけで、俺は事のあらましを説明した。最近説明してばかりのように思うが、自宅からダンジョンへと飛ばされて、更にここへとやって来たという内容だ。
「なるほどなぁ。こっちの不手際で飛ばされたとかやったら諸々の保証をつけるつもりやったけど、魔物が原因やったか」
「あ、これ情に訴えた方が得してた流れですか?」
「そうやな。ウチ相手に嘘ついて得があると思っとるんやったら、今からでも訂正してもらってかまへんで?」
「大変失礼いたしました」
マオーの目は全く笑っていなかった。嘘をついていたら、確実に死より恐ろしい未来が待っていたことだろう。
「まあでも、こっちで滞在しとる間の保証くらいはしたるわ」
「そもそも私達は元の村へ帰れるんでしょうか? ここから人の国までは結構距離があると思うんですが……」
「それは心配せんでもええで。テレポートで送り返したるからな。ただ、長距離テレポートの魔法が使える社員は業務優先になるから────一週間ほどは待って貰う必要があるかな?」
「あ、ありがとうございます!!」
手帳をパラパラとめくりあげているその姿は、なるほどやり手の女社長そのものであった。
とはいえ、幸運と言っても良いのか分からないが帰る手段を確保できたようだ。一週間ほどの滞在期間中も、衣食住は保証してもらえるらしい。
「あ、ところで最後に一つ質問良いですか?」
「なんや?」
「なんで……私の名前がサトーだと知っていたんでしょう? 自己紹介はしていなかったと思うんですが……」
俺の問いに、なぜかマオーはニヤリと笑う。その笑みに、俺はとある人物を重ねてしまった。
「よく話は聞いてるで、サトー? ウチのマブダチ────リンシュからな」
───どうやら俺はリンシュの魔の手から逃れることは出来ないようであった。