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第百二十五話 パンドラの箱




 不思議ダンジョン最深部。

 ボスモンスターと共に宝箱が置いてあるその場所には、左右に強固な檻があり、その中はまた別の宝箱がいくつも置いてある宝物庫となっていた。

 ボスモンスターであるゴブリンナイトをパプカの魔法によって消し炭にした俺達は、ドン引きして逃げ出した他のゴブリンたちを尻目に宝箱に手を付ける。


「で、どうだジュリアス。宝物庫の扉は開きそうか?」

「これぐらいなら全く問題ない。と言うか、ここまで程度の低い鍵開けならサンにだって出来そうなものだが……」

「無自覚な天才って居るよなぁ。どんなにレベルが高くなっても、シーフ技能を持ってなけりゃ鍵開けは無理だよ……まあ俺の場合だと扉ごとぶっ壊すことは出来たがな」


 胸を張っているところ悪いが、それはそれで別方向の天才だろうに。

 

 ジュリアスは宣言通り、あっという間に扉の鍵を開けてしまった。これで低レベルの盗賊(シーフ)というのだから末恐ろしい。普通はもっと時間がかかるはずなんだけどなぁ。

 ともかく、扉を抜けてさらにいくつかのトラップを解除すると、そこにはいくつかの宝箱が並べられた部屋が出現した。

 宝物庫と言うと、金銀財宝が所狭しと置かれているイメージがあったのだが、実際のところはあまり綺羅びやかでもなく質素な部屋に収まっていた。


「宝物庫ってこういう物なのか? なんかイメージと違うけど……」

「まあ冒険者じゃないサトーなら見たことがなくて当然か。多分そのイメージはもっと上級ダンジョンの宝物庫だな。ここは最高でもシルバーランクの宝物庫だから、これでもマシな方だと思うぞ」

「確かに、駆け出しの頃に低ランクのダンジョンに潜ったことはありますが、その時はひどい有様でしたよ。普通にアルバイトをしたほうが稼げる額の宝しかありませんでしたからね」


 ああ、なるほど。確かに、リール村の周りにダンジョンが見つかっていないので失念していたが、前の街では低ランク冒険者のダンジョンアタックはあまり人気のないクエストだった。

 駆け出し冒険者がたまに行うのだが、皆一様にリピート率が低い。大抵の場合は準備費用との兼ね合いで赤字になってしまうらしいのだ。

 しかも、ダンジョンというものは定期的に踏破しないと魔物が溢れてしまう物がある。

 それを聞くと危険に思えるかも知れないが、実は溢れ出した魔物を討伐するほうが費用対効果が良いのである。

 撤退は簡単で、素材を持ち帰るのも楽。準備は大して必要ない上に討伐報酬と素材報酬が確実に得られるので、中にはダンジョンから魔物があふれるのを待つ冒険者も居るくらいだ。

 まだ宝箱の中身は確認していないが、イメージしていた豪華な宝はあまり期待しないほうが良いだろう。


「でも今の装備品よりはまともな物が出ると思うぜ? 鉄の剣でも出ればリリアンの野蛮(バーバリアン)っぷりが上昇するってもんだ」

「野蛮さなら今の装備のほうがしっくり来ると思いますがね? 何ならサンの頭をかち割って実演してあげましょうか?」


 リリアンの目は本気であった。


「まあまあ。パプカのおかげで無傷で突破できたんだから、こんなところで怪我をしないでくれよ」

「ああ、それだ。思ったんだが、パプカを使えばティスカの奴を突破するのも可能なんじゃねぇか? ここで武器を漁るよりは現実的だろ」

「むぅ?」


 この不満げに頬を膨らます赤子が、我々にとっての最大戦力で間違いない。

 しかし、機嫌に左右されるその力はコントロールが効かない。下手をすれば黒焦げになるのは自分たちなのである。


「そんなパプカちゃんを物みたいに……ぶっ飛ばされちゃいますよ、サン」

「というかこいつ、俺達の言葉を割と理解できてるんじゃねぇの? さっきのゴブリンナイトから嘲笑されたのに怒ったんだろ?」

「喋れないからどこまで理解してるかが分からないんだよなぁ。なぁパプカ? 俺たちの言葉が分かるなら手を振ってみてくれ……はががががっ! 鼻に指を突っ込むなよ!!」


 やはり理解は出来ていないのだろうか?


「皆、話の腰を折って悪いが宝箱の鍵が開いたぞ。トラップもないようだし、普通に開いてくれて大丈夫そうだ」


 いつの間にやらジュリアスが自分の仕事を終わらせてくれていたようだ。いつもこのくらい有能ならば良いのだが……


「どのみち、武器はあっても困らないしな。とりあえずは宝箱の中身を確認してみようぜ」


 早速宝箱に手をかける。どうやら中身の入った宝箱は計三つあるらしい。

 一つ目の宝箱は、古めかしい銀製の食器類が詰まっていた。アンティークショップにでも持っていけば値がつくかも知れないが、今はこんな物を持って行く余裕はないのでスルーだ。

 二つ目の宝箱は大当たり。サンの予想通り、鉄製の剣をゲットした。これで棍棒装備だったリリアンにまともな装備をさせられる。多少は戦力アップになるだろう。

 さて、最後の三つ目の宝箱。これを目の前に、俺は何故か一抹の不安を感じていた。


「…………なんだろう? 俺はこの宝箱を開けてはいけない気がする」

「は? なんだそれ? サトーって予知系のスキルでも持ってたっけ?」

「そんな物は持ってないが、なんだろうな? 嫌悪感と言うか危機感と言うか……開ければ間違いなく俺の胃に負担がかかるような……そんな気がするんだ」

「中途半端に具体的ですね? 解除できてないトラップでもあるんでしょうか? どうですか、ジュリアス?」

「見たところトラップはかかっていない…………けど、たしかに私も嫌な予感がするな。こう……トラウマをえぐられると言うか、羞恥心がくすぐられると言うか……」

「なんなんだお前ら」


 どうやらジュリアスも同じ不安を抱いているようだった。トラップは無いのに、この表しようのない不安はどこから来るのだろうか。

 しかし、ここでいつまでもウダウダとやっている暇はない。危険性は無いと言っているのだから、開けないと言う選択肢は無いだろう。


「じゃあとりあえず、俺とジュリアスで開けてみるか。もし万が一トラップがあったら、ジュリアスの方で対処するって方針で」

「それが妥当でしょう。じゃあ念の為、私とサンは後ろに下がってますね」


 そう言ってリリアンとサンは、パプカを連れて宝箱から距離をとった。これで何かあった場合でも被害は半分に分散できる。被害者になりたいわけではないが、戦いで役に立っていない以上、このくらいは俺がやっておくべきだろう。

 俺とジュリアスは大きく深呼吸をして、意を決して宝箱を開いた。


『うーん、やはりこのサークルの同人誌は表紙詐欺でござるなぁ。表紙が良くていつも買ってしまうが後悔ばかりでござる……ん? あれぇ、サトー氏──』



 バタンッ!!



 俺は宝箱を閉じた。ジュリアスに至っては、自ら解除した錠をつけ直す始末である。


「……え? 何、なんか問題があったのか?」

「トラップは無かったんでしょう? なんで閉じる必要が?」


 この時、普段から噛み合っていない俺とジュリアスの心が完全に一つにまとまった。



「「この宝箱を開けてはいけない!!」」



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