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第百二十一話 高待遇守護者





 我が人生最大の危機!!

 そんな事をここ数ヶ月の間で何回言ってきたことだろうか。命の危機だったり、社会的な命の危機だったり。

 しかもそのどれもこれもが冗談でも誇張ではなく大真面目。人生ハードモード過ぎる気がしなくもない。

 さーて今週の人生の危機は? なんてふざけている暇がない。

 突如として投げ込まれたダンジョン内の第一の試練。階層守護者という強力なモンスターとの戦いにて、俺を含んだ臨時パーティーは壊滅寸前。無傷な奴と言えば、ハイハイであっちこっちを遊び回っているパプカぐらいのものだろう。


「いやはや、やはり低レベル帯だと苦労するでござるなぁサン殿。ここに来るには最低15レベルになってからでないと早いと思うでござる」

「いやだから! 今日は顔見世だけって言っただろうが! なんで攻撃するんだよ!!」

「だって拙者階層守護者ゆえ。本能には抗えないのでござる」


 ティスカ・ヴォルフ・ルートヴィッヒ。

 金髪猫耳忍者と言うまたもや属性過多な人物が何故か胸を張ってそう言い放った。

 先の説明から分かる通り、どう見てもモンスターじゃない。名前にヴォルフと着いていることからも、こいつは獣人という西部の街出身の人間だ。

 しかも聞くところによると、サンとリリアンとは顔なじみ。しかも勇者パーティーの仲間であるという。────と言うか、


「ルートヴィッヒって! まさか『影縫いのルートヴィッヒ』!? オリハルコン級の冒険者じゃねぇか!!」


 影に潜み、対象を抹殺し、必要な情報を誰にも知られず持ち帰る。

 どちらかと言うと対人メインな能力にも聞こえるが、そこは冒険者であるため怪しい仕事はしていないという。

 世界に6人しか居ないオリハルコン級の冒険者。『影縫いのルートヴィッヒ』として名を馳せる、現代最強のシーフである。…………忍者が名を馳せちゃいけないだろ、というツッコミは野暮だろうな。

 おいおい、ついにオリハルコン冒険者の知り合いが四人になってしまったぞ。ここらへん、俺も召喚者なんだなぁと思う。


「って、なんでオリハルコン級の冒険者が階層守護者やってるんですか!?」

「あっはっは! 話せば長くなるのでござるが……レベルダウンに気づかず、うっかりトラップを踏んで洗脳されちゃったのでござる」

「「短かっ!?」」


 世界最強のシーフをも欺くこのダンジョンのトラップ。勇者を含む彼らに踏破出来ないのであれば、もはやどんな人間が挑戦しても不可能なのではあるまいか。

 生きて帰る事ができた暁には、上層部に働きかけてダンジョンを封鎖してもらうこととしよう。


「でも、見たところ洗脳されているようには見えないが……」

「精神的な部分は元のままでござる。しかし、その他は階層守護者として契約状態にあって、週4日で日の勤務拘束6時間労働なのでござるよ」

「会社員!? つうか俺よりもずっと条件が良い!?」

「給料は固定給に加えて出来高払い、三食おやつに昼寝付きでござる」


 俺、ここに転職しようかな……


「ちなみに一分前にお昼休憩に入ったのでお仕事は止めでござる」

「メリハリのついた職場が羨ましい……」

「話ズレてるぞーサトー。休憩ってことは、しばらく俺達を攻撃しないってことだよな、ティスカ?」

「もちろんでござるとも。拙者が愛する仲間を攻撃するわけ無いでござろう?」


 どの口が言うのだろうか?






*    *    *




 昼休憩だと言ったティスカは、実際にどこからか出現したゴブリンが配膳したお昼ご飯を楽しんでいた。

 俺達もちょうど腹が減ったということもあり、一緒になって食事を取ることにした。


「…………俺達は馬鹿みたいに硬いウサギの焼き肉だってのに……」

「ティスカさんは豪華フレンチフルコース」

「何という食事格差……っ」

「流石に泣けてきますね……」

「と言うか、この有り余る量のフレンチを分けてもらうわけには……」


 ウサギの焼き肉も量は少ない。俺は思わずティスカの料理に手を伸ばした。


 ガキィンッ!!


 フォークが俺の指の間を縫って床へと突き刺さった。床は大理石でできているんだが、なんで刺さるの?


「ニンジャから食事を盗むとは……さてはお主ドロボウ=サンでござるな? ドロボウ死すべし慈悲はない!!」

「ひぃっ! ごめんなさいっ!!」

「残念ながら、このように冒険者を助けることが出来ぬよう、プロテクトが掛かってるのでござる。残念残念」


 もぐもぐとフレンチを頬張りながら、朗らかに言うティスカの目は笑っていなかった。

 

 早々に昼食を平らげた俺達は、今だ食事を続けるティスカに対し、これまでの経緯を説明した。


「なるほど、出口でござるか。ここはおかしなダンジョンでござるが、最下層なら出口があると考えるのは当然でござろうな」

「その言い方だと、ティスカさんは出口がどこにあるかは知らないって事か?」

「正確に言うと知っているでござるが、教えることが出来ないのでござる。洗脳というのはいやはや恐ろしい……」

「この人本当に洗脳されてるんですか?」


 見た目の振る舞いが自然すぎて俺達をからかってるのでは? と言う疑いをかけてしまいそうになる。


「しかし良いのでござるか? 他の仲間はまだ見つかっていないのでござろう?」

「ああ、出口から出るのはこいつらだけだ。俺とリリアンは出口が見つかっても引き続いてダンジョン攻略だな」

「なるほど。皆今は何をやってるのでござろうなぁ……場所の心当たりはあるのでござる? ミリアム殿は?」

「知らん」

「ジョージ殿は?」

「知りませんねぇ」

「イレブンは?」

「あれは放っておいても自力で脱出できそうだけどな」

「前途多難でござる」


 ティスカが羅列した名前の主たちが、サン達勇者パーティーのメンバーなのだろう。勇者に同伴しているのだ、その実力は想像するのが難しいほど高いんだろうな。


「あ、今思いついたんだけど、ティスカさんって週4日の労働なんだろ?」

「そうでござる」

「なら休みの3日を狙ってここに来れば、戦わずに門を通れるんじゃないのか?」

「「あっ」」


 俺の提案に、サンとリリアンは「その手があったか!」と言う表情を浮かべた。

 元の実力が高すぎて、搦手で攻略するやり方に慣れていないのだろう。コイツラの場合、大抵の場合は正面突破の脳筋戦法でどうとでもなるだろうし。

 まあ、そのやり方が祟って今の状況なのだろうから、実力が有りすぎるのも考えものなのだろう。


「残念ながらそれも無理でござる」

「なんでですか?」

「確かに拙者は週休3日。休みの日は守護者専用のスパリゾートで寛いでいるでござる……あ、ちなみに社割も効くでござるよ?」

「聞いてねぇよ」

「で、その間の交代要員でござるが…………レベル70相当のゴーレムでござる」


 なるほど、確かにそりゃ無理だ。

 比較的倒しやすいと言われるゴーレムとは言え、レベル70と言うとミスリル級。つまりオリハルコン冒険者の一歩手前の実力であり、俺達ならば一秒とかからず全滅必至である。


「よしっ! 下手なことはせず、正攻法で行こう!」

「そうですね! そうしましょう!! ティスカさん、休みの日程を後で教えてくださいね!!」


 間違えて休みの日にここに来てしまったならば即ゲームオーバーだっただろう。今のうちに聞けて本当に良かった。


「さて、では腹ごしらえも済んだことでござるし……」

「ああそうだな。俺達もそろそろ……」

「昼休憩も終わるので、虐殺のお時間でござる」


 目をギラリと光らせたティスカは短刀を抜き放ち、数字を10から数え始めた。多分、昼休憩が終わるまでの数字なのだろう。



「お前ら走れぇぇぇぇっ!!」



 一目散に逃げ出す勇者パーティーであった。

 




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