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第百十八話 二つの意味の息子





「「「ヒュリアン・マクダウェルの弟子!?」」」

「いやぁ、あっはっは。すごいでしょう?」


 照れながら後ろ髪を撫でるのは、ダンジョン内に何故か居た二人の子供のうちの一人。名をリリアン・アクセス。自己紹介によると、彼女はかのヒュリアンさん……すなわちパプカの母親の弟子だと言う。


「あれ? ルーンもヒュリアンさんの事知ってるのか? 俺とジュリアスはともかく」

「オリハルコンの冒険者でパプカさんのお母様ですからね。すごい有名人じゃないですか」

「むふん」


 何故かパプカがドヤ顔を決める。いや、お前の母親の話だから。


「でもあの(・・)ヒュリアンさんの弟子か……」

あの(・・)ヒュリアンさんのなぁ……」

「え、何か問題でも?」


 純粋なルーンの瞳から視線をそらし、俺とジュリアス。そしてリリアンは大きくため息を付いた。

 こればかりは実際に会ってみないとわからないだろうが、すごく豪快奔放なお人なのだ。言葉を変えればマイペース。

 辺り構わず魔法をブチかますわ、「最終的に治ってればオーケー」と言って拷問じみた折檻を施すわ。

 正直二度と会いたくない類の人間である。


「でもヒュリアンさんの弟子にしてはまだちびっ子だよな。パプカに似た天才タイプか?」

「はぁん!? 誰がちびっ子ですかコラァ!!」

「どうどう」


 シャーッ! と言う威嚇の叫びを上げるリリアンを、慣れたようにサンが諌めた。


「あー、いや。何ていうか、ちびっ子はちびっ子なんだが、お前らが思ってるような子供じゃないんだよ、こいつ」

「と言うと?」

「人種がドワーフなんだよ。だから容姿はこれ以上成長しないんだ」


 円形に国土を持つこの国の北部には、西部に獣人が住むようにドワーフ族が住んでいる。

 ドワーフ族は、大抵のファンタジー創作物に習って背が低く髭が濃い。寿命は長く、力が強いため炭鉱を主に商いとしている人種である。

 そして女性となると、背が低く幼児体型が多いらしい。つまり端的にいうと合法ロリだ。


「一応成人してるんだぜ? 歳は……186歳だっけ?」

「184歳です! 間違えないでください!!」

「とまあ、そんなわけだから。容姿と年齢をイジるとキレる。気をつけろ」

「お、おう」


 なるほど、この年齢ならばヒュリアンさんの弟子と言ってもおかしくないだろう。ヒュリアンさんよりずっと年上だが、長寿な種族は人間の歳の取り方とは違うため、実質彼女は18歳ぐらいの精神年齢と見るべきだな。


「あれ? でもドワーフ族って魔法はあんまり得意では無かったはずじゃ?」

「おお、よく勉強していますねお嬢さん」


 多分ルーンの事だろうが、お嬢さんと呼ばれてヘコんでしまった。かわいい。


「確かにドワーフは魔力の少ない種族ですが、例外もあります。それが私! 生まれ持った天性の魔力によって、今生のドワーフ唯一の高位魔法使いとなったのです!」

「でもさっきは初歩魔法も使えていなかっただろ?」

「ぐっ…………」


 胸を張って自信満々に演説していたリリアンの表情は、ジュリアスの芯をつく疑問によって打ち砕かれた。

 ドワーフ唯一と言ってしまえば聞こえは良いが、駆け出し冒険者どころか、一般人が使うような初歩的な生活魔法すら使えないのでは話にならない。

 

「違うんです! 私はれっきとした魔法使いなんです!」

「つまりそういう夢を見たんだな?」

「違うつってんでしょうが!! レベルダウンして魔法が使えなくなっただけです!!」


 どうやら、この二人の境遇は俺達と同じものであるようだ。

 一応ヒュリアンさんの弟子を名乗っているのだから、強力な魔法使いであったのは間違いないのだろう。パプカが赤ん坊になり、ルーンが女になってしまった訳のわからんダンジョンだ。レベルダウンぐらい当然のように起きても不思議ではない。

 リリアンは自身の証明をしたかったのか、俺に冒険者カードを差し出してきた。


「……ん? あの…………あんた【戦士】になってるけど」

「ぎくっ」

「レベルダウンって言っても元が魔法職ならどんなに下がっても魔法職なんじゃないか? なんで戦士?」

「その……レベルダウンで一気にレベル1まで下げられまして、一時自由人(フリーマン)になってたんです」


 職についていない一般人のジョブである。


「そこからレベルアップして、なぜか自動的に戦士(ウォーリアー)に……」

「ドワーフの適性上残当なんだよなぁ」

「うるっさいですよサン! あなただって人の事言えない状態でしょうが!!」


 キレたリリアンは、サンの冒険者カードを分捕って俺へと見せた。


「えーっと、工作員(サッパー)?」

「わー! 馬鹿やめろ!! 俺の人生最大の汚点を見るなぁ!!」


 冒険者カードは奪い返されたが、一瞬だけ目に入った文字について、俺は何やら違和感を覚えた。

 サンの本名。どうやら呼び名は略称のようで、実際は【サンドリアス・ストーリスト】と言うらしい。

 ────あれ? どこかで聞いたことがあるような…… 


「あの、ところでサン君。貴方はドワーフ族ではないんですよね? じゃあ、なぜこのダンジョンに? 流石にダンジョンアタックが出来る年齢では無いと思うんですが」

「────え?」

「え?」


 おかしな間と共に、サンが首をかしげた。

 しばらく頭の中で何かを考えた後、「よしっ!」と言う掛け声とともに俺とジュリアスの袖を引っ張った。


「ちょっとタイム! ルーンはここで待ってろ。あ、パプカの嬢ちゃんはお前が預かっててくれな」

「はぁ?」


 サンはパプカをルーンに預け、俺とジュリアス。そしてリリアンを連れてやや離れた場所へと移動した。


「えーっと、サトーって言ったっけ? お前がこのパーティーのリーダーか?」

「リーダー? あー……どうだろう?」

「それで良いんじゃないか? 最終的な方針決定はサトーが取り仕切ってるんだしな」

「まあそうか。じゃあリーダーって事で」

「よし。じゃあまず最初に言っておくことがある。ずばり────この俺は本当の俺じゃない」

「おや、サン。中二ですか? いい歳こいたオッサンが恥ずかしいですよ」

「オッサンって言うなよ! ああ、いやこの場合そっちのが正しいんだが」


 言ってる意味がわからないが、サン本人も次に言うべき言葉を見つけながら喋っているようだ。


「サトー、さっき俺の冒険者カードを見たよな? 名前の欄は見たか?」

「ああ。サンドリアス・ストーリストだっけ?」

「サンドリアス!?」


 サンの本名に驚いたのはジュリアス。どうやら心当たりがあるらしい。


「サトー! サンドリアス! 勇者サンドリアスだ!!」

「勇者? おいおい、何言ってんだよジュリアス。勇者サンドリアスって言ったらもう40代のオッサ…………ああ!?」


 勇者サンドリアス。

 その時代ごとに何故か一人だけ存在する【勇者】という特殊なジョブの所有者であり、簡単に言うならば人類最強の存在である。

 これまでも多々人外の冒険者連中を見てきたが、それらとも一線を画する実力を持ち、比較対象として国軍そのものや魔王などという、比較しちゃ駄目だろうという奴らと肩を並べる非常識や奴だ。

 もちろん俺だってサンドリアスと言う名前は聞いたことがある。しかし聞いたことがあるだけで実際に見たのはこれが初めてであり、なおかつ子供の姿でなら分からなくても当然であろう。


「なんで縮んでんの!?」

「それはこっちも聞きたい! 長年冒険者やってるがこんなふざけたトラップは初めてなんだよ! ガキになった上にレベルが1まで下がるって何だよ! 嫌がらせか!」

「ヤバイぞこれ、こんなことがギルド本部に知られたら相当ヤバイ!! 管理責任とかどうとかで俺の責任にされる! リンシュなら絶対する!」

「いや待て、ギルド本部よりも先にバレちゃいけない奴が居るんだ。ひとまず俺の話を聞け」


 サンは俺のネクタイを掴んで引き寄せ、合わせてジュリアスとリリアンを同じく引き寄せた。


「良いか三人共。と言うかサトーとジュリアス、俺の名字に聞き覚えはないか?」

「名字って、ストーリストだったか?」

「ストーリストだろ? そりゃお前、ルーンの…………は?」


 俺が覚えた違和感の正体は恐らくここだったのだろう。サンドリアスと言う名前より、よほど聞き覚えのある名字。

 ルーン・ストーリスト。

 俺の部下であり友人であり、恋人にしたいランキング堂々の一位を飾…………いや、ともかく親しい人物だ。

 珍しい名字であるなと思っていたが、まさかこんなところで伏線が回収されるとは思っていなかった。


「あいつは俺の息子だ」

「──────いや、正確に言うと今は娘なんだが」

「何があったんだ俺の息子ぉ!?」

 



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