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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第八章 まるで暴挙なラブコメディ
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第百五話 召喚者の条件





「全く、何をしてるんですかサトーは。一般人がキサラギくんに勝てるわけ無いでしょうに」

「──よし。このぐらいでいいだろう。と言っても、パプカの魔法で殆ど治ってるから、包帯なんていらないかもしれないが」


 コースケに対して怒りの鉄拳を食らわせてやった俺の拳は、自動的に発動されたコースケのバリア的なアレで粉々に砕け散った。

 それはもう痛かったよ。拳だけでなく心がね。強力な召喚者に対しては、些細な反撃すらままならないらしい。

 とは言え、砕け散った拳はパプカの魔法で修復されてほぼ完治。僅かに残った擦り傷の上にはジュリアスが包帯を巻いてくれた。


「ありがとうパプカ、ジュリアス。──しかしアレだな。ジュリアス、包帯の巻き方がずいぶんと様になってたけど、医療系の勉強でもしてたのか?」

「ふふん。私が日常的に消費している包帯の量は伊達ではないぞ」


 そこは胸を張って言っちゃいけないのではなかろうか。


「うーん……けど、まだ少し痛むなぁ。骨はちゃんとくっついてるんだよな、パプカ?」

「もちろんですとも。ただ、回復魔法というものは大怪我になるほど回復痛と言うものが伴いまして、しばらくは鈍痛が続くでしょうが、体に影響はありません」

「魔法って意外と万能じゃないよなぁ」

「どうしても痛いというなら、別の魔法をかけて上げましょうか? 今開発中の、痛みを鈍くする魔法があります。強麻痺魔法の応用で……」

「あ、遠慮しておきます」


 麻痺魔法の応用ならそれは攻撃魔法だろうが。せめて治癒系の魔法でなんとかしてくれ。



「あの……サトー。傷のほうは大丈夫か?」


 俺が治療を終えたタイミングで、バツの悪そうな表情でコースケが話しかけてきた。


「その、なんだ? 悪かったな、ケガのこと」

「ああ、いや。これは俺の自業自得みたいなもんだしな。と言うか殴って悪い」

「無傷だし謝られるのもなぁ────なぁサトー。こういう状況だから一度聞きたいんだけど……」

「ん? 何?」

「────俺ってモテるんだろうか?」


「そういうとこだてめぇぇぇぇーー!!」



 ボキッ!



「ぎゃーーーーっ!!」


 コースケの素っ頓狂な物言いへの飛び蹴りが炸裂。見事バリアに命中して俺の足首を粉砕した。

 もはや本能レベルで攻撃を加える自分の体に我ながら呆れるがしょうがない。だって腹立つんだもの。

 すぐさまパプカの魔法で元通り。回復痛が拳と足首の二箇所に増えた。


「お前この期に及んで無自覚ってなんだ!? じゃあ外にいる奴らは何だ!? キスしたり一緒に風呂入ったり「子供が欲しい」って言わせてるのにただの友達ってことか!? 貞操観念をどこに落としてきた!?」

「た、ただの友達だよ!」


 ボキンッ!!


「ぎゃーーーーっ!!」

「ちょっ!? またですかサトー! いい加減にしてください!」


 エルボーがバリアに当たって砕けて治った。

 何度も同じ作業をしてくれるパプカの抗議の声が上がる。それも仕方のないことだろう。


「痛たた……さっきも言ったがそういう所だぞ! せめて自覚ぐらいはしろ! キサラギ・コースケと言う男は女にモテる! リピートアフターミー!」

「お、俺はモテ……いやいや! だって、こんな冴えない容姿で女にモテるわけ無いだろ!? そりゃぁ多少の好意は持ってもらえてるとは思うけど……」


 ガタッ!


「お父さん! サトーを押さえつけてください! 魔法だって疲れるんです!」

「ラジャー」

「ぬぉー! 離せオッサン! こいつをもう一発殴らせろ!!」

「いや、支部長さん一発も殴れてないじゃないッスか」


 オッサンに羽交い締めにされて、四回目の骨折は成らなかった。


「サトー、どうどう」

「ジュリアス、分かったから馬をなだめる擬音を使わないでくれ」


 しばらくしてようやく気持ちが落ち着いた。ここ数日情緒が不安定な気がするなぁ。原因はわかる。コースケが悪い。


「大体、【冴えない容姿】とか【見た目は中の下】とか。そんな事言ってる召喚者が美形以外だった例は無い。一体アレは何なんだ?」

「あー、わかるッスねぇ。設定上そうでも、絵師さんがその通りに描いちゃったら、ビジュアル的に問題ッスから。いわゆるラノベの販売戦略って奴ッスよ。よくあるよくある」

「いや、それはラノベの話だろ」


 しかし、アヤセの言うことにも一理ある。そもそもこの異世界、ラノベのテンプレートから作られたような世界観だ。

 召喚者自体その典型なのだから、どっかの絵描きさんが描いた美形が召喚されてくるというのもありえない話ではないだろう。流石にメタすぎる気がするが。


「ともかくコースケ。まずは自覚を持つところから始めるべきだな。周りから甘やかされてきたんだろうが、たまには厳しい言葉を受け入れるのも、人生には必要だと俺は思うぞ」

「なんかサトー、中年上司みたいな事言いますね」


 ほっとけよ。


「──つまり、俺はモテて、表のみんなは俺にホの字と言うことか?」

「若干表現が古い気がするがそのとおりだ。そして他の男にその件を謙虚に報告するのは止めたほうがいい。殴りたくなるから」


 自分の両手をじーっと見つめるコースケの表情は、何やら動揺しているようだった。

 もしやもしやと思ってはいたが、どうやら本当にコースケは無自覚であったらしい。これほどの鬼気迫る好意を【友情】によるものであると考えるのは、一体全体どういう了見なのだろうか?

 いや? よく考えてみよう。アヤセじゃないが、この世界は確かに色々な【お約束】が含まれた世界だ。

 召喚者であるコースケが物語における主人公だとして、数百人単位で群がる女たちがヒロインだとしよう。

 ヒロインたちがコースケに好意を抱き、それに対してコースケが簡単にOKを出してハッピーエンド。それでは物語として成立しない。大勢いるヒロイン一人ひとりとのイチャコラで文章が圧迫されて、支離滅裂な作品となってしまうだろう。

 ならばどうするか? とにかく主人公にヒロインたちの好意を察する能力を乏しくすればいい。いわゆる鈍感主人公と言うやつだ。

 容姿が優れていないとか、今までモテたことが無いとか、女と手をつないだのは幼稚園が最後だとか。とにかくモテない理由を列挙する。

 そうすることにより、物語を長引かせることが出来るし、いよいよ結ばれるときの感動を増すことが出来るのだ。

 つらつらと考察を述べてみたが、言いたいことはこうだ。


 鈍感であることが主人公の条件である。


 物語を円滑に進めるのではなく、できるだけ遠回りをさせる役柄が主人公というやつなのだろう。我ながら中々面白い考察だと思う。

 さて、ではその鈍感さを自覚させてやったならば、話は少し前進を見せてくれるに違いない。


「コースケ、今なら自分が何をすべきか分かるな?」


 きっと今のコースケなら、大勢のヒロインたちの中からメインヒロインを選び取り、幸せになってくれるだろう。そしてハーレムは解散。美少女たちは新たな恋を見つけ、世の独身男性たちはそのおこぼれに与るのだ。

 ──出来るなら、そのおこぼれの一端を俺によこしてくれるとありがたい。

 コースケはふっと柔らかい笑みを浮かべ、俺に握手を求めてきた。


 もちろん俺はその手を握り返す。感動的な場面だ。


「ありがとうサトー。異世界に召喚されて、ようやく俺がやるべきことがわかった気がする。思えば、ラスボスっぽいエルダーリッチーを倒してからここしばらく、やることが分からなくてあちこちブラブラしてただけだったんだが、それももう終わりだな」

「ラスボス倒したなら隠居しろよと言いたいが、なんか納得してくれたならいいや。黙っておこう」

「サトー、本音が漏れてますよ」


 コースケは扉を開けて外へと出た。彼へとヒロインたちの視線が注がれて、人混みの中へと消えてゆく。

 そして扉はしまった。


「これで良かったんですかねぇ。キサラギくん、えらく自信満々に出ていきましたけど」

「良かったんじゃないか? 大勢の女性たちの中からメインヒロインを選ぶ…………ミナス・ハルバンの大冒険の第一部最終章を思い出すなぁ」

「女一人に尽くすのだって一苦労なんだ。大勢の女を幸せにするキャパシティなんて、男にはねぇんだよ」

「ゴルフリートさん、奥さんの尻に敷かれてるんスねぇ」


 ようやく事は落ち着いた。俺はギルドの客席に腰を下ろし、大きく息を吐く。


「はーーーーーーー、疲れた! もうあいつらと関わりたくない」

「お疲れ様ッス支部長さん。人死にが出なくてよかったッスね」

「これでおとなしくなってくれれば良いがな。まあそうでなくとも、向こうしばらくはリール村に被害はないだろう。召喚者被害なんて、一年に一回あるか無いかって確率だしな」

「そんなこと言って、フラグにしか聞こえないのは私だけか?」


 ギルド内に朗らかな雰囲気が訪れる。

 ああ、なんだ。普段トラブルしか巻き起こさない連中だが、コースケ来襲直後ならば分かる。コイツらこれでもマシな方だ。

 のんびりと肩の荷を下ろして茶をすすっていると、そのうち表から人の気配が無くなった。どうやらコースケがハーレムを引き連れて出ていってくれたらしい。

 ──────はて? なにやら忘れてる気がするのは気のせいだろうか。



「コースケ! 助けに来たわよ…………ってあれ!?」



 勢いよく扉を開けて突入してきたのは、コースケハーレムの一員であるミヤザキ・ハルカだ。どうやらルーンから騒ぎの件を聞き、遅ればせながら駆けつけたようだ。

 ことのあらましを説明すると、ハルカはなるほどと納得した。


「なるほど、そんなことが。迷惑かけちゃったわね」

「うん。大いに気にしてくれ。ところでハルカ、コースケを追いかけなくて良いのか? 今多分、メインヒロインを選ぶ選考会の真っ最中だと思うぞ?」

「はっ!? た、確かに! こうしちゃいられないわ! ティアルとネロちゃんにも伝えないと! ありがとうサトー!」


 そう言ってハルカは踵を返し、扉を思い切り開け放った。

 ──────やっぱりなんか忘れてる気がするよなぁ。なんだろうな、この違和感。


「おーう。別に応援はしないけど頑張ってくれ。誰にせよ結婚する時には、式の招待状は送らないでおいてほしい」

「サトーって仕事以外ではホントサバサバしてるわね。とにかく、私はこれで。じゃあね! ────ってあれ?」


 扉を開けてすぐの場所で、なぜだかハルカが立ち止まった。その表情は困惑に満ちており、若干後ずさりながら外の広場を見つめている。


「? どうした? なんで立ち止ま────あ?」


 気になった俺は同じく扉を開けて外に出た。そしてそこで見た光景は、先程までの俺が忘れていた情報を思い出させた。



「ハルカ様! やっと見つけました! 今日こそ僕のプロポーズのお返事をお聞かせいただきたい! 未来の王妃になっていただきたいんです!」

「こらぁ! ハルカお前、俺の部族の婚約式の参加はどうなった! いつまで俺様を待たせる気だ!!」

「横の男……誰? 間男……邪魔。呪い殺す……」


 視界に広がるは数十人の美形な男たち。どうやらハルカが目当てなコイツラは、見ただけでその高貴な地位が分かる奴がちらほら見受けられた。

 王国の王子様に、ドワーフ族の族長の息子。ダークエルフの長老の孫までいる始末。


 ────そう。忘れていたが、コースケハーレムにはもう一人召喚者が居たのだ。ミヤザキ・ハルカがまさにその人。

 そして彼女はコースケとは別に、男のハーレムを大規模に形成しているのである。


「だ、だから私みたいな中の下の容姿しか持たない平凡な女の子が、みんなみたいな地位に見合うわけ無いでしょ! それに婚約なんて、幼稚園以来男の子と手を繋いだこともない私にはハードルが高すぎるわよ!」


 そんな風な叫びを上げるハルカに対して、平穏な心を取り戻していた俺はこう叫び返した。

 


「ああああああああぁっ!! お前もかーーーーいっ!!」



 どうやら俺の苦労はまだまだ続きそうであった。 



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