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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第八章 まるで暴挙なラブコメディ
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第百話 覚醒





 前回までのあらすじ。変質者現る。


 場所が場所ならば、近所の小学校に『変質者に注意』と言う注意のチラシが配られるであろう事件が起きた。

 起きたと言うか眼の前で起きてる。現在進行系。

 タキシードに整えられた白ひげ。舞踏会用の目元を隠す仮面を被り、シルクハットとステッキで過剰に武装。高らかに笑って「我が名は怪盗○○!!」とか言い出しそうな雰囲気の中年男が屋根の上に立っていた。


「わーっはっはっはー! 我が名は怪盗テュラン! 覚えておきたまえ青年よ!」


 本当に言いやがった。


「…………えーっと、アレはハルカさんのお知り合いですか?」

「さすがの私もあんな変質者の知り合いはいないわ」

「またまたぁ。召喚者の貴女なら、ああいった色物の一人や二人、ライバルキャラとして確保しているものでしょう?」

「どんな印象なのよそれ!? そりゃ、いないことも……無いけど」


 やっぱりいるんじゃないか。


「とにかく、あのおじさんは私の知り合いじゃないわ。ただ、名前は一応知っているの。最近東部の都市で噂になってる『怪盗テュラン』」

「この村にはそう言った報告は上がっていませんが」

「田舎すぎるからじゃないかしら? 基本それなりの規模の都市にしか現れないらしいから」

「で、その噂と言うのは?」

「曰く…………赤髪フェチ!」

「…………やっぱり変質者じゃないですか」

「だからそう言ってるじゃない」


 赤髪フェチのタキシード怪盗。なんか適当に単語を並べただけの設定のように思えるが、あちこちを旅しているハルカが言うのであればまあ本当なんだろう。

 

「ちなみに、赤髪フェチと言うのは一体……」

「なんというか、若い赤髪の女の子がいたら名乗りを上げつつ近づいてちょっかいを出すらしいの」


「ちょっかいとは人聞きが悪いぞ麗しき赤髪の少女よ! 我輩、赤髪の乙女たちを害したことは一度として無いのである!!」


 テュランと名乗る変質者が会話に加わった。屋根の上と広場の中心、結構距離が離れているのになぜ普通に会話が成り立つのだろうか。

 「とうっ!」と言う掛け声とともに屋根から地面へと降り立ったテュランは、悠々と俺達の目の前へとやってきた。

 わざわざ屋根の上で自己紹介をしたのには意味があったのか? いや無いのだろうな。やはり馬鹿は高いところが好きといったところか。


「な、なによ! さては今回の狙いは私ね!? この麗しい赤髪を持つ私を狙ってきたんでしょう! この麗しの乙女の私を!!」

「凄いッスよサトーさん。ハルカさん、【麗しい】って単語を二回も使ってます」

「まあ嬉しかったんだろう。そっとしておいてやってくれ」


 盾を構えて警戒しつつも、ハルカの頬は緩んで紅潮していた。さてはこいつチョロインだな? チョロいヒロインの略称。さすがは召喚者かつコースケハーレムの一員だ。

 

 それはともかく、この世界の人達はやたらと彩色豊かな髪色を持つ人間が多数存在する。赤色青色緑色。紫黄色に白黒なんでもござれ。

 改めて人体の不思議について考えさせられる意味不明な色合いだが、まあ異世界だしそういうこともあるだろう。

 だがしかし、俺の目の前には納得がいかない人物がいる。ミヤザキ・ハルカ。原色に近い赤髪を持つ日本人である。

 日本人といえば黒髪か茶髪。ハーフや外国にルーツを持つ日本人でない限り、大抵の髪色はこの二色に絞られる。だがしかし、ハルカは言ったとおりの赤髪だ。聞くところによると、召喚される以前からこの髪の色だったらしい。そして彼女がいた日本ではそう珍しい物ではなかったそうだ。

 

 俺が知っている日本と違う!


 もしかすると俺が知っている日本とは別の、さらなる異世界からやってきたのではと俺は考察している。

 とは言え、この辺を考え始めるとキリがないのでこの辺りで打ち止めとしよう。


 この場で俺が言いたいのは、彼女が赤髪を持っているということだ。

 この村にも何人かの赤色の髪を持つ女性がいるが、最も目立つと言えば原色の赤色を煌々と光らせるハルカであろう。すなわち、この場に赤髪フェチのテュランが現れたのは、ハルカが目当てであるのだろう。


「よし、じゃあ変質者。この場で逮捕されるかハルカさんを拉致してどこかに行くか選べ」

「なんか私生贄にされてない!?」

「それでこの場が丸く収まるなら…………良いじゃないですか」


 殴られた。


「ま、まあ冗談はともかく……怪盗テュラン! 今すぐ両膝を地面について腹ばいになれ! 貴様は完全に包囲されている!!」

「包囲? えっと……すまないが青年。吾輩は誰に包囲されているのだろうか?」

「そりゃもちろん……………あれ?」


 俺は辺りを見渡した。この場に居る、多分俺の味方であろう人物たちの顔を順番に見てみる。

 先程から何故か会話に加わってこず、呆然とテュランを見つめ続けている女。ジュリアス・フロイライン。言うまでもなくこの村最弱冒険者の一角。

 最近俺の中の彼女に対する評価が上がってきたが、ところどころ抜けていて念動力で俺を殺しかけることもしばしば。アヤセ・ナナミ。

 能力は間違いなく高いのだが、召喚者という属性を持つ以上、トラブルを同時に巻き起こすであろうミヤザキ・ハルカ。


 …………あれ? まともな戦力がいないぞ?


「えーっと……あー…………俺が一声かければオリハルコン冒険者が駆けつけるんだぞ! どうだ! 怖いだろ!?」

「清々しいほど他力本願ッスねぇ」

「俺は他人の手を借りないと生きていけない男だ!!」

「言い切ったの逆にすごいわね!?」


 しかしこれは困った。いつもならそばにマクダウェル親子がいて彼らに頼む所なのだが、重要なタイミングでポンコツしか居ない。荒事に関しては俺自身ポンコツなので、他人を頼る他ないのだ。

 


「あらサトー。今は仕事の時間じゃなかったかしら? ギルドに行っても閉まってるからどうしたかと思ったわよ」



 声をかけてきたのは女性。この村の最強格である奴らの一角である、魔王軍四天王ディーヴァであった。ギルドに用事があったのか、彼女の方から声をかけてきた。

 

「今って冒険者のお仕事は募集していないの? 新曲のCDを業者に依頼して財布がすっからかんですの」

「何でそんな在庫を増やすだけの無駄な真似を……」


 魔界では金持ちのディーヴァだが、人間の通貨しか使えないこちらでは貧乏冒険者。とは言え一応ゴールドランクの一流冒険者。普通は金に困るような立場ではないのだが、今言ったように本職はアイドル。無駄な努力極まりない活動の費用に、湯水のごとく金を使っているのである。


「ああ、いや。今はそれより丁度いいところに来てくれた。アレを見てくれ」

「…………変質者ですわね」


 分かってらっしゃる。

 俺はその変質者を捕らえたい旨をディーヴァへと説明した。


「はぁ? 何でワタクシがそんな事をしなければなりませんの?」

「ギルドから正式な報奨金を出します」

「やりましょう!!」


 チョロい。


「うむ、それなりに待たされた我輩であるが、全然気にしていないから安心したまえ。と言うわけで、そろそろ逃げに入ってもよろしいだろうか?」

「あ、律儀に待ってくれていたんスね。結構良い人なんじゃ……」

「いや、でも変質者だし。他の街で被害者が居るなら、しょっ引いて国に引き渡しておこう…………ディーヴァ! 村を破壊しない程度に手加減をして全力でいけ!!」

「手加減をして全力とは一体……」


 おそらくオリハルコンすら上回るであろう魔王軍四天王の一角。人間社会の一変質者に対して差し向けるのは流石にオーバーキルと思うが、念には念を入れておこう。仮にも東部で逃亡を続けている怪盗。オリハルコンには及ばずとも、高レベルの冒険者や国の軍人の追手を逃れているということだ。実力が低いということは無いだろう。

 俺の予想を裏付けるように、テュランは自信満々な表情で仁王立ち。構えることすらせずニヤついていた。



「まあとりあえず撃っておきますわ」

「え?」




チュドーーーーンッ!!




 ディーヴァの片手から放たれた黒い光線がテュランに直撃した。

 近くに居た俺やハルカは軽々と爆風に吹き飛ばされて、直撃を受けたテュランは影すら残らず木っ端微塵に吹き飛んでしまっていた。


「や、や……やりすぎぃ!! 手加減しろつったろうが!!」

「ええ? だからかなり手加減をしましたのに……」

「これで手加減なの!? このお姉さん何者なのアヤセさん!?」

「いえ、自分に聞かれてもさっぱり……」


 やべぇ、やべぇよ。これって殺人だよな? 命令した俺の責任か? この年齢で前科者になんてなりたくないのに!



「ふっ、今のは残像である。吾輩があの程度でやられるとは思わないことだぞ青年…………ふぅ、死ぬかと思った」



 などと、かっこつけたポーズを取りながら五体満足のテュランが俺達の背後に居た。どうやらあの瞬く間すら与えない攻撃を完璧に避けきっていたようだ。

 だがその額には大量の脂汗が浮かんでおり、攻撃を必死に避けたことが伺える。


「うぉお!! よく生きててくれた!! お前が生きていてこれほど嬉しいことはない!! ありがとう!!」

「な、何やら感謝されているようであるが……そこの淑女! 流石に貴女ほどの実力者と戦っていては身が持たないのである! この村での目的は達せられたので、そろそろ御暇させていただこう!」


 残像をその場に残し、テュランはいつの間にか別の建物の屋根に移動していた。どうやら俺が一般人レベルの動体視力しか持っていないからというわけではなく、ディーヴァを除いたハルカやアヤセも、そのスピードに目がついていかない様子であった。

 どうやらこの怪盗、実力的には相当上のランクに位置しているようだ。


「いざ、さらば!! ────あれ?」

「うん?」

「は?」

「何スか?」

「へぇ?」


 今の一瞬で何かが起きた。

 具体的に何が起きたのかさっぱり理解できないのだが、結果だけを言うと----テュランが簀巻きにされて眼の前に落ちてきた。


「何してんだあんた?」

「こ、これはバインド!? 魔力は感じなかったから、スキルによる物であるか!? 我輩に察知すらさせないとは、どんなレベルのシーフ……」


 俺達の中で唯一、今回の件に絡んでこなかった人物がひとりいる。

 なぜか呆然と立ち尽くしていただけのその女は、良く考えればテュランの目的に合致する人間であった。

 赤い髪を持つポンコツ女、ジュリアス・フロイライン。

 手にロープを持ちながらテュランを見下ろす彼女の顔は、なぜか暗く影を落としていた。


「ふ、お嬢さん(フロイライン)? 我輩、決して怪しい者では……」

「いやそれは無理があるだろ」


 先程までの余裕の表情はどこへやら。テュランは顔を青ざめて、汗を大量に流しながらジュリアスから離れるように後ずさった。

 何やらジュリアスを怖がっているようである。


「…………い」

「は、はいぃっ!?」



「…………さ、サインくだしゃいっ!!」




 …………そう言ってジュリアスがテュランに差し出したのは色紙であった。

 意味がわからないよ。




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