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まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~  作者: 廉志
第八章 まるで暴挙なラブコメディ
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第九十八話 へべれけ





 

「召喚被害防止委員会?」


 ネロの口から出た聞き覚えのない委員会の名称に、俺を含めパプカとアヤセは首を傾げた。

 ファンタジー世界ながら、多数の召喚者によって先進国並みのシステムと人権意識を持つこの王国。当然のごとく様々な委員会や団体が乱立しており、聞いたことのない団体があってもおかしくない話である。

 しかし、その名称に『召喚』と言う二文字が入っているのであれば話は別だ。

 様々な被害をコースケから受けている俺は、そう言った被害に関する相談窓口がないかを調べたことがあるのだ。

 その時は、『召喚被害防止委員会』と言う名称の団体を見つけることができなかった。

 俺は一応支部長という下の上程度のお役職。権限内で最新の情報を仕入れることが出来るので、俺が見つけられなかったということは、それすなわち存在しない団体だということだ。

 いやまあ、わざわざ委員会を立ち上げて秘匿するような物好きがいれば話は別だが。


「アヤセ、聞いたことあるか?」

「いやぁ……そもそも自分、意識がハッキリしてから日が浅いッスからね。一般常識ですらちょっと怪しい感じですし」

「パプカは?」

「わたしが団体行動に興味があるように見えますか?」

「うん、知ってた」


 パプカの事はともかく、やはりネロの言う団体について知っている奴はいないようだ。

 名刺を見てみると作りものであるようにも見えない。流石にきちんと名刺を作ってまで自称と言うこともあるまい。

 だが、どうにもこの名刺には違和感がいくつかあった。

 まず第一点。住所が書かれていない。

 通常、名刺には本拠地を記載するのが当たり前だ。身分を提示するためのものなので、その信用性を担保するためには必要な情報だろう。しかし、この名刺にはネロの名前と団体名。そしてもう一つしか情報が載っていなかった。

 そのもう一つの情報が二点目。ーーーーなぜか電話番号が書かれていた。

 『念話機』と言う電話に代わる通信手段が存在する世界観。これは電話が存在しないからこその代替手段である。

 多分、電話そのものを作ることはたやすい。今日まで発生した大量の召喚者の中には、その分野に長けた人も居ただろう。

 しかし、電話があっても電気が通ってないと意味がないし、召喚者の中にはハイテク電子機器を「世界観が壊れる」と言う今更な気がする主張をする奴も居るのである。

 そんなわけで、電話を含めた電子製品は基本的に普及していない。すなわち、電話番号というものは無用の長物というわけなのだ。


「これって、本物なんですか? 聞いたこともなければ住所の記載も無いって、怪しいと言うレベルじゃないんですが……」

「それは仕方がありません。なにせ当委員会…………極秘機関ですから」


 顔の半分を手で隠し、凄んだ表情で言うネロリアス。そんな彼女の言葉に、とある二人の人物が反応した。


「「かか…………かーっこいぃ!!」」


 中二病とオタクである。


「かっこいいですよネロさん! そのポーズと言い名称と言い……極秘って字面がもうすでにかっこいい!!」

「エ○ァッスか!? ○ヴァッスよね!? 人類保管とかしちゃうんスか!?」

「だよね! この極秘って部分を分かってくれる人が少なくて困るんですよ! こんなに共感を得られるのは西部の街くらいのものです!」

「お前ら話がややこしくなるから一回黙れ」


 仕切り直し。


「で、防止委員会と言うのはなんです?」

「読んで字のごとくですサトーさん。召喚者が撒き散らす被害を防止します。実際は防止できるのはほぼ不可能で、できるだけ被害を軽減させることを主目的とした団体です」

「ああ、冒険者ギルドの後始末部隊みたいな?」

「確かに似たようなものですが、ギルドと違うのは被害発生以前に活動していることでしょうか」


 冒険者ギルドの後始末部隊とは、召喚者が各地で発生させた被害を処理するために、中央から派遣される部隊である。

 その殆どが凄腕護衛職冒険者と優秀な事務職員で構成されており、召喚者体質である超高難易度のクエストの大量発生を処理するための重要な部隊だ。

 ちなみに後始末部隊という名称は通称であり、実際にそのような専門部隊が組織されているわけではないらしい。


「あ、ということはネロさんがキサラギくんと一緒にいるのは、お仕事のためってことなんですか?」

「ええ、まあ……召喚者の中でも特級危険人物のコースケの元に派遣されると聞いた時は、上司の正気を疑いましたよ」


 大きなため息をつくネロ。まあ気持ちはわかる。


「ん? でもネロさん、コースケさんといる時は結構楽しそうだったッスけどねぇ? アレは演技ってことッスか?」

「………………」


 顔を赤くして黙りこくるネロ。


「……結局ハーレムじゃねぇか畜生っ!!」

「ちょっ、落ち着いてくださいッス支部長さん!」

「そうですよサトー、男の嫉妬は醜いですよ」

「パプカさん、それ火に油!」

「おのれぇコースケェーーーーッ!!」

 



*    *




 オーケー、クールに行こう。動悸を抑えて深呼吸。その間わずか15分。


「いや時間かかりすぎですよ。落ち着きましたか、サトー?」

「俺はいつだってクールだぜ!?」

「じゃあとりあえずその鬼の形相と口調を止めてください」


 召喚者の特性をしっかりと捉えた女の子が、覚悟を持って召喚者と接した上で惚れる。

 まさしく召喚者の面目躍如。その名に偽り無しと言ったハーレム体質。

 「召喚者はなんでモテるの?」と言う問いに「だって召喚者だから」と言う回答が行われる理不尽さ。

 同じ召喚者であっても例外の部類である俺が怒るのは無理もない話だろう。


「いやいや、待ってくださいッス支部長さん。それは召喚者への偏見かもしれないッスよ? ちょっと聞いてみましょう。ねぇネロさん? コースケさんの好きなところをお姉さんに教えて欲しいッス」

「コースケの好きなところですか? えーっと…………その、優しいところ……ですかね」

「……………………えっ、終わりッスか!?」

「初めの頃はお仕事で嫌々だったんですけど、接してるうちに彼の優しさに気が付きまして。あ、落ち込んだ時とかは頭をなでてくれるんですよ? えへへ……」

「あー…………サトーさんーーーーやっぱり召喚者は敵ッスね!! リア充過ぎる!!」

「だろ?」


 さっきも説明したが、ヒロインが主人公に惚れる理由はなんぞや? それは主人公だからさ。これに尽きる。

 そこに理由などない。強いて言うならば、そうしないとストーリーが先に進まないからだ。

 でもそれならば理解できる。なぜならフィクションだから。粗ばかり探して先に進めないとなると本末転倒、作品のテンポも悪くなる。それは読者としても望まない展開だろう。

 だけどこれは現実でのお話。理由なくモテまくる同性など、ヘイトの対象でしかない。


「やれやれ、何を言ってるんですか二人共。キサラギくんがモテる理由が無い? ハッ(嘲笑)。では教えてあげましょう、彼がモテるその理由、それは…………イケメンだからです」


 パプカが身も蓋もない事を言い出した。


「世の中! モテる要素とは三つあります! お金と! 地位と! 見た目です!! キサラギくんは全て兼ね備えた完璧超人だからモテるのです! ちなみにわたしもすべて備えた超人です! あれ!? じゃあなんでわたしはモテないんですか!! このままじゃわたし行き遅れちゃう! なんとかしてくだしゃいサトー! おーいおいおい……」

「途中から愚痴になってるじゃねぇか! と言うかパプカ酔っ払ってないか? ちょっと酒臭いぞ?」

「あ、もしかしてこれかな? ポーションを作る時にアルコールが必要だと言うので、適当に酒場からもらってきたんですが」



 酒豪御用達・酒神



 …………これって、確かアルコール度数が90%の酒だったはずだ。

 酒を飲めない偽幼女のパプカが、ポーションの材料として薄められているとは言え、最高度数に近い酒を飲んだとなれば、酔ってしまっても仕方がない。

 先程までの何ともない様子が一変し、パプカはよろよろとよろめいて床に倒れた。


「しっかりしろパプカーー!」

「うわっ!? よく見たら顔真っ赤ですよパプカさん!? 水! 水!」

「おや? サトーが何故かイケメンに見えますねぇ。えへへ、今更ながら召喚者体質が発現でもしましたか?」

「ま、まずいですよ支部長さん! パプカさんがひどい幻覚を見ているようッス! 絶対そんな訳ないのに!」

「どう言う意味だ!!」


 


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