プロローグ サイファの記録
これは、サイファの記録。
ミルと出会う前のサイファの様子である。
____西暦3051年 11.05 02:28:55
記録者:サイファ
現在の場所の宇宙座標 X: −0.9961635 Y: −0.0968696 Z: −0.0419883
船の異常:なし
システム異常:なし
(補足:エネルギーが不足気味のため
太陽付近にある衛星との通信によりエネルギー蓄積します)
接近物体:レーダー反応あり
本日も通常通り太陽付近を運航中。
特記:
本日未明より接近物体の反応を確認。
この反応は私がこの旅を開始してから初めてのこととなります。
接近物体の動きが予測不可能なことから、誰かが動かしていると予想されます。
Mの命令通り、交信を試みます。
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地球から遠く離れた、太陽付近に宇宙船がぽつりとひとつ。
その1つの家__よりは屋敷に近い建物ほどの大きさの宇宙船の名前は〈アストライア〉。
その〈アストライア〉の唯一の住人であり、
唯一の主である少女は誰の為でもない報告書を書き上げ、ふっと息を吐く。
人間は宇宙に果てしない夢を抱いていたと記録されているが、
実際に旅を続けているとただ果てしなく暗闇が続いているだけで、
ここに長い間居たいとはあまり思えない、と少女は思う。
けれども、彼女の星・地球はもう滅んでしまっており、
少女はこの宇宙船の旅を続けなければならないのだった。
けれども今日、長い宇宙の旅でようやく訪れた変化に少女の頬は緩む。
そして少女は例の接近物体を目に入れようと、
宇宙船に備えられた分厚い耐圧ガラスでできた窓から外を見る。
しかし、目に見える範囲にはおらず、その姿を捉えることはできなかった。
船に付けられたモニターにも映っていないため、少女は光による交信を諦めた。
(それならば、電波を飛ばすしかない…か…)
船〈アストライア〉を中心として、球体状に電波を飛ばす。
向こうの宇宙船が電波を受信できなかったら意味はないのだが。
それに、もう少女の星出身の宇宙旅行者は存在しないのだから、
電波を解読することになるのは少女にとって「宇宙人」ということになる。
仮に他の星に生命体が存在したとして、
その生命体が開発したツールを少女の船が解読できるかと聞かれれば答えは否。
だから、電波の中身に意味など必要ない。
ただ電波の存在を、少女の存在を気付いて欲しいという、
それだけの理由で電波を発信する。
(だったら、飛ばす内容は何でもいいのよね…)
『___はじめまして わたしはサイファです』
そして、少女のメッセージは、離れた見えない宇宙船と思われる接近物体へ___。