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一番近くにある日常 入!  作者: 友城にい
人気キャラランキング結果発表編
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お祝い企画 人気キャラランキング結果発表 八個目

 僕は帰りの流れていった景色のこともいつ車に乗って、いつ降りたのかも覚えていない。

 外は暗かったか。どの座席に座っていた。メイド長の顔色は?

 夕食はなにを食べた。洋食? それとも和食? いや、素っ気ないものを食べたのか?

 風呂は入った? 屋敷に電気は灯してしたか? テレビは観たか? いつものやつはもうやったのか?

 …………。


 違う。

 そんなことじゃない。

 僕が求めているものじゃない。

 願っていることじゃない。

 一年が三六五日。毎日が一緒じゃないように僕の身の周りのものは、毎日変わっていることなのに、いつ見てもそこにあって欲しいモノが僕には欠けていた。

 机に突っ伏しているまま脇のあいだからベッドを覗きみる。

 そこは僕の知らない景色が広がっていた。

 窓からわずかに入る外灯の明かりが、部屋の中を照らす。

 ふかふかのベッドに不自然な薄暗いスポットライトが当たる。

 僕はそこだけを見つめた。

 でもなにもない、キレイに整理されたベッドなだけ。

 脳裏に焼かれたように残る――


 ――ベッドに佇む彼女を。


 まるでそこにいるような静かさで僕の勉強を邪魔しないように物音一つ立てず、本を読む彼女の姿をベッドの上に照らしあわせてみても。

 虚しいだけだった。


 そこに割って入るようにドアがノックされる。

 コン、コン、

 と。毎日聞いている音なのにやけに大きく聞こえた。

 僕は「どうぞ」とそのままの体勢で返事する。

 ガチャ、とギギギと金属音がうるさく鳴り続く。

 暗くて見えない。けど端整な顔に、いつもと違うものを身につけているメイド長が立っていた。


「あ、メガネ……」

「これですか? 寝る前は、コンタクトは外すんです。ご存じなかったですか?」

「そ、そうだったっけ? 覚えてないだけかもしれない。それよりなにか用か?」

「夜夏さまにお話があります。いいでしょうか」

「かまわないよ。なに?」

「いえ。私ではありません」


 メイド長が手招きでドアの陰にいたもう一人の女性を呼ぶ。


「失礼します。夜夏さま」


 この屋敷には自宅に帰る者と泊まりこみのメイドの方がいる。

 おそらく彼女は泊まりのほうだ。けど名前まではまだ覚えていない。

 でもどのメイドがなんの役割をまかされているかは把握している。顔と名前が一致しないってやつだ。

 彼女はたしか屋敷でのトイレ係だったと思う。

 薄暗い部屋でもじもじと落ち着かず、顔をキョロキョロと動いている。

 僕は無言で彼女を見た。

 彼女は「あの……」という言葉で始まり、そのあとはむにゅむにゅと言いづらそうにした。

 なにかを知っている。けど言えない事情がある。

 僕はそう確信した。

 それは南雲が記憶喪失になった原因に繋がっている。そう感じた。

 僕は無表情にメイドに告げる。


「脅されているなら心配はいらない。僕が守ってやる」

「……はい。じゃあ、すべてをお話します。夜夏さまの知らない南雲さんの真実を――」



     ☆



 彼女は、僕の知らない南雲のここでの労働状況をすべて話してくれた。

 その話を聞いて、僕は落胆し、怒りとは違う感情に侵されていくのがわかった。



 ことの始まりは、些細なことからだった。

 トイレ係の彼女は詳しい事情までは知らなかったらしいが、ほかの掃除場所のメイドたちの話を聞くかぎり予想されるのがこれらしい。

『吾妻南雲が次期当主である中野夜夏の玉の輿に乗ろうとしている』というデマを誰かが面白半分で流し始めたときからだった。

 もちろん当の南雲は否定していたらしいが、それに気に食わない輩が少なからずいた。それがベテランの人たちだったみたいだ。

 ある日、トイレ掃除を終わらせた彼女がトイレを出て用具をしまっているときに見たみたいだった。



 三人ぐらいのメイドが南雲をトイレに連れ込んでいるのを。



 そう南雲は虐められていたのだ。

 陰湿な虐めで服などに証拠を残さないために服に隠れている部分だけを決定的に殴打し、暴行している音がドアの外まで聞こえていた。

 メイドの彼女は、口止めをされていたらしい。早くに言いたかったが、怖かったみたいだ。

 ――許せない。

 こういうふうに思ってももうなにもかもが遅すぎる。

 自分のことをなんにも話さない彼女は強かった。でもそれは心がじゃない。僕に尽くすご奉仕の心得がだ。

 彼女にはもう会えない。


 僕は部屋に籠もり、情けない涙を流した。

 僕はただ楽しみが欲しかった。

 彼女を悲しませたかったわけじゃない。

 彼女の笑顔は僕に元気をくれた、希望をくれた。それだけじゃない。彼女の笑顔を見てると自然と僕の心が温まって、なんでもできる気がした。

 そんな彼女。吾妻南雲にはもう一生会うことは許されない。



 彼女の母親が後日尋ねてきた。退職届を持って。



 その日から僕は日務の仕事をこなしつつ、彼女のことを忘れることだけに仕事に熱中した。

 でもたまに、ドアが開くと思わず、


「南雲か?」

「すみません。私です」

「あ、メイド長か」

「まだ忘れることができないんですか。もう――一年になるんですね」

「はは……もうそんなになるのか……また会いたいな」


 僕が窓の外を眺めているとメイド長が静かになにも言わずにまっている。


「夜夏さま」

「なに?」

「会いたいですか?」

「誰に?」


 問いにメイド長は答えず、腰ポケットから一枚の便箋を取りだし、僕に渡す。


「今朝。夜夏さま宛てにお手紙がきていました。どうやら、場所は近いみたいですよ」


 これを言うとメイド長は静かな足取りで部屋を出て行った。

 シンプルな手紙。

 鮮やかな青に白い鳥のシールが貼られている。裏を見ると名前はなく、住所だけが記されていた。

 慎重に封を開けて、中身を取りだした。

 入っていたのは、一枚の紙だけ。ほかになにもない。

 そこに書いてあったのは――


「メイド長。少し行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」


 まるで僕の答えが先読みされたかのように、屋敷の扉を開けて、クツと帽子が用意されていた。

 もたつく足で履いて、外に飛び出る。


「ありがとう」

「当然のことですから」


 振り返ると、45度の角度でお辞儀し、見送るメイド長。感謝してる。

 クシャクシャになった手紙だけを握りしめ、記された場所に駆け抜けた。


 そこは行ったこともない場所だけど、すごくいいところだ。それだけは知っている。

 坂を駆け上がり、頂上に着く。息を切らして、辿りついた見晴らしのいい風景。

 脇に街を一望できる望遠鏡。近くに小さな公園があって、ここからは僕の屋敷も見える。

 見渡し、指定されたベンチを見つけた。

 ベンチには一人で佇む少女がいた。麦わら帽子を深く被り顔が見えない。

 けど、背中には、印象的でふわふわな髪が風通しのいい柔風に乗って、踊っている。

 僕は、顔が綻ぶと同時に緊張が走った。


「よし……」


 気合を入れて、意を決して、その少女に僕は話しかける。


「横に、座ってもいいですか」

『ヨル? どうしましたの。しっかりしまし』


 遠い彼方から誰かに似た声がする。



 ~少年妄想モード終了~



「ヨル。ヨル。しっかり。目の焦点があってませんわよ」


 僕はビクビク! 背筋を直立されて、現実に戻ってきた。

 なんだ妄想か。それにしても……


「微妙! すげー微妙! 三話もやっといてこれかよ! もっと頑張れよ。僕のノウーよ!」


 必死に呼びかけていたヒメを含め、僕の二度目の発狂に莉乃はおろか、さすがに冬葉や南雲……ちゃんにも白い目にも似た心配そうに見られてしまった。


最後のほう適当すぎてすみません。思いつかなかったんです、許してください。

次回から本当に勝負やります。ご期待ください!


友城にい


※5月27日。最後、修正しましたが、どうでしょうか。

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