また会おう、その時は絶対ナツ! 五十四球目
五十四
「悩みを前にしたときは大きく見えますけど、乗り越え、振り返ったときには小さく見えるものってことですわ。マシンも壊れてしまいましたし、二番目の勝負で決するとしましょう」
僕がお漏らし(想像でだけど)している間に二つ目の勝負に入ろうとする。時間も押していることだし、助かるが。
「で、どんな内容なんだ?」
「ルールは至ってシンプルですわ。私が打ったボールをキャッチした人の勝ち。それだけです」
「本当に簡単だった」
「転がったのでもいいのか?」
莉乃からの質問。
「フライにしますからそれをキャッチした人にしますわ。落ちましたら仕切り直し。零れ球は有効にします。妨害は仕切り直しにしますが、論外でしょう。これでどうかしら」
妨害行為あたりの説明は良心にまかせる感じだったな。そこまでして「お姉ちゃん」呼びされたいのか、ってことだ。
「そんなにいいものなんかね」
思わず誰にも聞こえない程度に呟いたつもりだったのだが、どうやら約一名の耳に届いてしまったようだ。
「聞き捨てならないよ、夜夏くん……」
真後ろに冬葉がいることに気がつかなかった。
「ふ、冬葉……? こわい……よ?」
「夜夏くんはいいよね! お兄ちゃんに、ご主人さまに、名前の呼び捨てに敬称。オタク男子が選ぶ年下の女の子から呼ばれたいランキングベスト5に入るやつ全部で呼ばれていながら恵まれている自覚がない人には、わたしたちの気持ちなんて、わからないでしょうねぇ!!!」
冬葉がご乱心のようだ。
小想のさん付け、雪華のご主人さま、真卯のお兄ちゃんと……南雲ちゃんのくん付けと莉乃の呼び捨ても込みか。
あとなんだ、そのランキング。
冬葉は早口で喋った反動で、はあはあと息を切らしていた。
「あくまで持論だけど」
そう前置きし、思っていることを話す。
「僕は呼称より、その人との〝距離感〟を大事にしたい。どんな呼ばれ方だろうと、その人との距離――心の通いを感じられているなら、僕は気にしない」
じゃあ感じられなければどうするのか。簡単なことだ。心を閉ざし、開いているフリでもして相手から離れていくのを待つだけ。こちらから離れでもすれば、家に迷惑がかかるからな。それだけは避けている。
「もちろんだけど、この考えを冬葉やほかの人にも押しつける気はない。僕がそうしたい、そうしなけば自分を守れないと思ったからだけで、たとえ冬葉がこんな考えを取ったとしても、自分の首を絞めるだけで意味はない」
めんどくさい生き方だと自分でもよくわかっている。けど、これが性に合うのだ。どんなに嫌われて、学校で浮いたって、僕は怖がらない。
慣れているとか、開き直っているとか、そんな大層な心持ちはしていないが、絶大なる「受け身」であることは自負している。
それを世間では「臆病者」と呼ぶんかな。呼ぶか。
「要は優先順位の話だ。冬葉には冬葉の優先したい事項がある。僕にとってどう呼ばれるかは二の次に過ぎないってだけで。看過できないものは除くけど。話、はここまでだ」
カッコつけたように言い終わるや冬葉は俯いてしまった。
「あんまり綺麗な夜夏くんを出さないで。わたしが醜くなるから……」
「ご、ごめん。あー、でもやっぱ、お兄ちゃん呼びはグッとくるかな~、なーんて」
「わたしにも呼ばれたい?」
「え?」
お久しぶりです。友城です。
例年より早い段階で猛暑に見舞われた列島ですが、今は気持ち程度の過ごしやすい気温になりました。ずっとこのままでお願いしたい!
…と。
お天気のお話をするほど話題に尽きてしまったようだ。残念。
ふと思い出す「残念系ラブコメ」てもう廃れたの?まだ需要ってあるんですかね、と書きもしないジャンルに夢を抱くのだった。
また次週。




